表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/58

椎名朱璃と転校生君のお手伝い 2


生徒会。立候補または生徒及び教師からの推薦で選ばれた候補者数名が選挙活動を行い、全校生徒の投票によって選ばれた数名の生徒で構成される1組織。

その中でもリーダー的立ち位置の生徒会長と呼ばれる役職は、この学校に於いて憧れの存在であり、名誉あるものとされている。ただそういった評価も、あくまでも先生や一部生徒の間での話というのは僕の勝手な想像だ。


コンコンコンと3回扉を軽く叩き、中から『どうぞ』という声を聞いてから扉を開ける椎名朱璃さんに着いていく。



「失礼します」



生徒会長にはあまり会いたくないのは本当だけど、自分が言い出した事だから逃げ出すのも違う気はする。気が重く感じるのはおそらく勘違いとかではない。


生徒会室に入ると男女5人程が、今まさにお仕事が終わりましたよという空気を醸し出すように、なんだか表情が緩くお茶を楽しんでいる。湯呑から湯気がゆらゆらと立ち上るのを見るに、本当につい先程淹れたのだろう。


件の生徒会長である一條先輩はこちらを視認してはおらず、手元の冊子を確認しながら入室の返事をしていたらしいことが伺える。



「椎名さん、せっかくお手伝いに来てもらったけれど……ごめんなさいね、さっき終わったところなの」



申し訳なさそうな表情で椎名朱璃さんに話す女子生徒。なんだか髪がボワッとしてない?いや、僕の表現が悪いけどさ……。ウェーブがかった女子の髪型なんて僕には名前わかんない。

赤みがかった茶髪で、よく生徒指導の先生に怒られないな?って思ったけどこの学校その辺りはわりと寛容なのかな。



「なにか失礼な事を考えてないかしら。そちらの……えっと?」



椎名朱璃さんの返事を待たずに、後ろにいる僕へと視線を向ける女子生徒さん。まさか考えていることが見透かされてるのか!と、少し慌てながらも誤魔化すように笑顔を意識して口を開く。


 

「はじめまして、ですよね。僕は中山奏です。こちらの椎名朱璃さんとの約束で、彼女が手伝いをしているお仕事のさらに手伝いをしていまして。まあ今日だけなんで、僕の事なんてお気になさらず」



自己紹介も兼ねて状況説明をすると、ハッと息を呑むような呼吸音のようなものが聞こえてきた。赤みがかった茶髪の彼女の周りにいた生徒達も、『え?』という声を漏らしてマジマジと僕を見てきているのが痛いほど突き刺さる視線でわかる。


僕は何かやってしまったのかと内心ドキドキしながら生徒会長の方を見ると、いつの間にか顔を上げていたようで一瞬ぽかんと口を開けて驚いていた。すぐに表情を引き締め、僕らの方に歩みだす。大きな生徒会長用の机を避けて、他の生徒達も避けるようにして、僕の前に。……あの、近いんですけど。



「中山さん。お手伝いに来たとは本当でしょうか?」

「はい、正確には椎名朱璃さんのお手伝いの手伝いですけど」

「椎名さんを、あなたが?」

「……なにか悪いですか?今朝助けて貰ったんで、そのお礼がしたかっただけですよ。そもそも手伝ってほしいと頼んだのは椎名朱璃さんですし」

「はい、奏様に良ければとお願いをしました」



疑り深く聞いてくる生徒会長にそう話すと、椎名朱璃さんが頷いて肯定の意を示してくれる。

それを横目に見たからか、それとも元から答えを求めていなかったかは分からないけれど、『そんな事より』と溢して話を逸らそうとする。



「手伝いをしてくださると言っていただいたところで申し訳ないのですが……先程全て終わらせたところでして。椎名さん、わざわざ生徒会室に立ち寄っていただいたのにすみません」



なぜか僕の方だけを見ながら話す生徒会長に、いつの間にか前でなく隣に並んでいた椎名さんはそれでも気にすることはない様子だった。



「いえ、多忙な皆様のお仕事が終わったのであれば、それは喜ばしい事です。こちらこそ、助けになれずに申し訳ございませんでした」

「椎名さん……。私達はいつも本当に助かっていますよ。生徒会に入っていただきたいほどです」

「そんな。私はお手伝いをさせていただく一般生徒というだけで十分ですよ」



遠回しに『入りたくないな〜』という声が聞こえた気はしたけど、椎名さんはそういうタイプでもなさそうだし気のせいだね、多分。

内心でそんな事を思いながら二人のやり取り、位置的に生徒会長しか見えないが……それを見ていると、いい事を思いついたというニコリとした笑顔で僕の肩にポンと手を乗せる。……え、何?



「中山さん」

「一條さん……?」



生徒会長の後ろにいる生徒会メンバーの顔が若干引き攣ったように見えるのは、今度は気のせいじゃない。声をかけた赤茶髪の人(便宜上そう呼ぶ事にする)の震えた声も意に介さず、本当になんでもないようにさらりと話す。



「中山さん?今日は特に何もありませんが、今後また色々と仕事が出てくると思います。文化祭とか体育祭とか。そういったイベントの時や普段の生徒会のお手伝いを頼んでもよろしいでしょうか?」



視線を他から生徒会長に戻すと有無を言わさないように、ギリギリと肩に置いた手に力を入れてニコリと微笑む。

痛みに顔を歪めそうになるのを我慢して、声を絞り出す。



「いえ、僕なんかができることなんて……。なので、おことわ……!」

「(まさか、椎名さんのは受け入れて、こっちは断るなんて言わないですよね?)」



ぼそりと小さく僕に対して呟くように、生徒会長は問いかけてくる。一体、本当に何がしたいんだこの人……。

椎名朱璃さんの時とは状況が違うし、あんたからのを受けるわけがないだろと思ってはいる。いるけど。

まさか他の生徒がいる前でなにかをしてくるわけでは無いだろうけど、以前の事を思い出してしまい思わず頷く。



「り、しようかと思いましたが、僕で良ければお手伝いさせてください」

「あなたならそう言ってくださると思いました。ありがとうございます」



力を込めて痛みで僕の事を従わせようとしたくせに、白々しくそんな事を言い放ち、満面の笑みで嬉しそうにする生徒会長を睨むように見ようとする。その前に赤茶髪の人や他の生徒会役員達が、生徒会長を部屋の奥に連れて行った。



「どうかなされたのでしょうか?」

「さあ……多分勝手に僕をお手伝いに引き入れたから、どういう事か聞いているんじゃないかな」

「そうですか……。一條様は、どうしていつもこう……」



言い淀む椎名朱璃さんに、言いたい事はわかるよと苦笑いを返しておく。

そんな僕の反応と同じように『あはは…』と口に出して困ったように笑う椎名朱璃さん。こうして見てる分には普通の同級生なんだけどな……



「(長引くようなら帰ってもいいかな)」



思わず漏れ出た僕の本当に小さな呟きは、隣には聴こえていなかった様子なのに、奥にいるはずの生徒会長には聴こえたのか、はたまた雰囲気を察したのか、『逃げたら分かりますよね?』とでも言ってるかのように生徒達の間から視線をこちらにむけてくる。目の奥が、なんてこの距離から察することは出来ないはずなのに背中にゾクッと寒気が走った。



「奏様?」

「え?あ、ごめん。何か話してたかな」

「いえ、そういうわけでは……。ただ、今日は特に何もお手伝いをすることができないようなので、一言断ってから帰りましょうか」

「そうだね。まだまだ掛かりそうだから」



奥にいる人らが何を話しているかは微妙に聞き取れないし、まだまだ時間が掛かりそうなので椎名朱璃さんの提案に乗ることにした。話しかけづらいけど、まあ仕方ない。

背を向けている人に声を掛けようとした矢先に生徒会長がパンと手を打ち鳴らす。予想外の動きだったからか、その場にいる全員が硬直した。



「はい、今日はこの話はオシマイにしましょう。後輩2人をいつまでも待たせるわけにはいきませんよ、生徒会の皆さん。中山さん、椎名さん、お待たせしてすみません。今日はありがとうございました。また明日以降にお手伝いをお願いするかもしれませんが、その時は引き受けてくださると嬉しいです」



人畜無害というべきか、裏がなさそうな笑みを浮かべて話す生徒会長にジト目を向けそうになるのを我慢して、頷きを返す。



「こちらこそ、よろしくお願いします。一條様、そして生徒会の皆様のお役に立てることは私にとって、とても嬉しい事です。またいつでも仰ってください」

「心強いですね。中山さんも、これからよろしくお願いしますね」



再び僕の前まで歩み寄ってくる生徒会長に一歩後ずさる。

椎名朱璃さんが生徒会役員らに話しかけられて、生徒会長の後ろに気を取られている間に、ニヤリと何かを含むような嫌らしい笑みを浮かべて生徒会長は小さく言葉を零す。



「(この前渡したメモ、見ていないですよね。ダメですよ、先輩から貰ったものは確認しないと。もう一度渡すので、今度は登録してくださいね。西園寺さんとわたしの連絡先が書いてありますので……)」



連絡先。保健室で貰った紙は怖くて開かずに捨ててしまったのだが……え、なんで連絡先?何考えてるの生徒会長?

困惑を隠せずに生徒会長の真意を探るように目を見ると、彼女はパチリと片目を閉じて、口を開く。



「それでは、また明日もお会いしましょう。ほら、話してないで、みなさんもそろそろ帰りましょう」



そんな事を話しながら、自ら歩いて生徒会室の扉を開ける生徒会長は、手で退室を促している。

それを確認したからか声が上がったからかはわからないけど、生徒会役員や椎名朱璃さんも素直に従って退室する。

さあ僕もと歩いて出ようとした扉付近で、他の生徒がこちらを見ていないのを確認した生徒会長が、シャツの胸ポケットへ折りたたまれた紙を入れてきた。



「(確かに渡しましたからね)」

「(ちょ、ちょっと待ってください。なにが目的なんですか?)」

「(しーっ。これでも一応気を遣ってバレないようにしているんですから、質問なら後にしてください)」



唇に人差し指をあてて小さなこどもにナイショ話でもするかのように小さく声を出して話す生徒会長に、思わず自分がジト目になるのを感じるも、確かに他の生徒がこのやり取りを見ると噂の事もあって不味いことになりかねないかと黙ることにした。



「奏様?」

「一條さん?」



椎名朱璃さんと赤茶髪の人がこちらに振り返る前に話を切り上げられたのは運が良いというのか、なんというのか。

どこか他の生徒会役員には警戒されているような、そんな落ち着けない視線を感じるけど何事もないかのように取り繕う。僕は別に敵を作りたいわけではないから。



「ごめんなさい、僕が出る前に扉に引っ掛かって助けてもらってて……ですよね、生徒会長」

「そうですよ。少し驚きましたが……気をつけてくださいね、中山さん」

「はい、すみません。ありがとうございました」



つい口から出た僕のでまかせを一瞬で察して、詰まることもなく乗っかる生徒会長のアドリブ力の高さに拍手を送りたい。



「それでは、また明日。挨拶運動でまた立っていますからその時にお会いしましょう、おふたりとも」

「はい、一條様。また明日お会いしましょう」

「お先に失礼します、生徒会のみなさん」

「え、ええ。気をつけて帰りなさいね、椎名さん、中山さん」



生徒会長がここで別れの挨拶をするので、椎名朱璃さんとともに挨拶を返すと、赤茶髪の人が代わりに返事をしてきた。

他の役員もちらほら挨拶はしてくれたけど、僕に対してというよりは椎名朱璃さんに対してのように感じた。まあ噂の事を知ってるだろうし、挨拶運動に出てなかったとしても良い感情は抱いてないだろうなあ。

考えを振り払い、最後に会釈して椎名朱璃さんとともにその場を後にした。






─────────────────────────────






当然というか、明日も会うことを考えるとメモを無視することも出来ないので夜には電話帳に登録。それに連動してメッセージアプリにも登録されたようだった。

西園寺先輩はひどく驚いていたものの、生徒会長から話を聞いたようで彼女への呆れを口にはしていたが、僕に対してむしろよろしくと好意的に……多分そんなに悪い感情は抱かずにいてくれたようだ。そこが少し嬉しくもあり、先輩が良い人すぎて大丈夫かと心配になる。


椎名朱璃さんとはあの後は特に何もなくて、何か言いたげだった様子だけどすぐに解散としたよ。今日はというか、赤羽君達や生徒会長らと一緒にいる時は以前のような、どこかおかしな感覚にもならなかったので椎名朱璃さんとはなるべく二人きりにはならないようにしたいね。



「かなにぃ?どうかした?」

「ごめんごめん。響は」

「ひびちゃん、だよ。ほら、集中してよ。ここからが強いんだから」

「……」



なんて回想を脳内で情報整理がてら行いつつ、今は妹である響のゲームに付き合っている。もうそこそこに古いゲームだけど、響ははまってしまったみたいだった。かわいい妹の頼みだから満足するまでは付き合うよ。


そうして、しばらくゲームに集中して一段落したあたりで、響が何かを思い出したかのように話しかけてきた。



「そういえば、かなにぃ」

「何?」

「夏休みはどうするの?一緒にどこか行く?」

「ひびちゃんは友達と遊んでおいでよ。僕は大量に出るだろう宿題を先に終わらせたいから」

「むう。宿題なんて後でもできるじゃん……」



頬を膨らせて怒る妹。『そういうわけにはいかないの』と言いながらその頬を指で突いて萎めさせると更に怒られた。



「もう、かなにぃってば!……もしかして、あの失礼な人達と遊びに行きたいから頑張るの?」

「失礼な人達って?」

「ほら、2人で遊びに行った時に会ったクラスメイトの……」

「……ああ、新谷さん達か。別にそんな約束はしてないよ。単純にはやく宿題から解放されたいのと……」

「他に何かあるの?」

「お盆休みあたりで父さんが帰ってくるからさ。家族が揃うなんてあんまりないし、せっかくだから憂いを無くして楽しみたいじゃない」



眉間にシワを寄せて本当に嫌そうな顔をする響に、そんなに嫌いなのかなと内心で苦笑しつつ答えを返す。



「あー!お父さんのことすっかり忘れてた!」

「忘れないであげて……父さん泣いちゃうから」

「お父さんだし、お母さんが一緒ならずっと笑顔だよ」

「そういう話じゃないと思うけど……まあともかくさ。家族でゆっくり過ごしたくて。今までは……ほら、僕のせいで離れ離れになってたから」



心に鉛が詰まったように気分が沈んでいくのを感じていると、響にデコピンされる。痛くないから声も出なかったけど、響の顔を見ると心が痛んだ。



「かなにぃ、それ禁止。かなにぃのせいじゃないんだから。次にそんなこと言ったら大声で泣くからね」

「中学生、まして高校手前になってそんなことしたら恥ずかしくなるよ」

「まだこどもだからいいんですー。かなにぃのネガティブな言い方のほうが恥ずかしいんですー」



潤んでいた目を見られないように僕の胸にグリグリと頭を押し付ける響。誤魔化すようにそんな行動を起こす妹には好きなようにさせておく。

しばらく響が離れないので困っていると、見かねた母さんが引き剥がしてくれた。リビングにいると目についちゃうよね。ごめんね、母さん。

こうして6月の最終日、1年の半分となる日が過ぎていく。夏に思いを馳せるにはちょっと早いけど、妹や母さん、そして父さんと過ごす夏休みは楽しみだ。


ただ心配な事もある。

保健委員会に対して嫌がらせ……をしていたらしい放送部副部長はそんなに悪そうな感じはしなかったけど、生徒会長である一條先輩がよくわからない。自ら勧んで手伝いを申し出ている椎名朱璃さんだけでなく、僕まで手伝いをお願いされるなんて、本当にどういうつもりなんだろう?

生徒会面々の僕に対しての態度や生徒会長の横暴さを思い出し、憂鬱になる。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、母さんは手作りの水無月を僕と響に出してくれた。勿論、おいしくいただきました。


いつの間にか現実が追い越していてびっくりです。

関係あんまりないですけど、水無月おいしいですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ