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転校生君と放課後の話し合い 4

『友達』


西園寺先輩……

 


「一体、何をしているんだ。……中山奏君、大丈夫か?」



先輩が僕に声を掛ける瞬間、強い視線を感じたのでそちらを見ると生徒会長は苦虫を噛み潰したような表情で僕を見ている。

西園寺先輩は気づいてはいないらしく、そのまま僕の方へと歩み寄ってきていた。どうやら心配してくれているらしい。

気が抜けて、その場にへたり込んでしまった。



「大丈夫じゃ、なさそうだ。私の物で申し訳ないが、これで目を覆うといい」



ハンカチを取り出して僕に渡してくるので、僕はそのハンカチは受け取れないと手で制してゆっくり首を振る。



「……別に必要ないですよ」

「いや、必要だろう。何があったのかは分からないが……キミがそんな目をしているからな」

「……?」

「気づいてないのか……」



気遣わしげに話す西園寺先輩をボーッと見ていると、目線を合わせるようにしゃがみ込んで沈んだ表情を浮かべる。その後、その美麗な顔を引き立たせるほどの優しげな笑みを称えて口を開いた。



「私がキミに愚痴を零したばかりに、すまなかった。愁歌が……。いや、一條生徒会長がキミとこの場にいるのは、恐らく放送権の話でだろう。キミには負担を掛けてしまったな……先輩として、保健委員会の委員長として申し訳が立たないよ」

「いえ、あの……」

「大丈夫だ。とは言えないが、安心してほしい。八宮先生から少しだけだが話は伺った。もうその話は解決する」



どういう事かはわからないけれど、西園寺先輩の優しい眼差しに不思議な感覚をおぼえた。

西園寺先輩は何も悪くはない。僕が勝手にした事だって、そう言った。けれど、先輩は微笑んでハンカチを僕の手に握らせるだけだった。



「八宮先生と話したんですね、なっちゃん。それならば、放送が出来なかった理由は分かるでしょう?」

「ああ。八宮先生にはすまなかったと言われたよ」



生徒会長は人好きのする笑顔で西園寺先輩に話しかける。『理由は分かるでしょう?』じゃないと思うんだけど、先輩はあまり気にしていない様子で八宮先生の事を口にしていた。



「そういう事なので、また改めて書類の提出をお願いしますね」

「いや、もういいんだ」

「……?」

「一條生徒会長。保健委員会はこれからも生徒会並びに放送部の許可が必要な放送以外の、別の方法をとって全校生徒へ連絡事項は伝えることにしたよ」



西園寺先輩の言葉に驚く生徒会長。そして僕もだ。

確かにポスターや校内放送以外の方法を模索していたのはあるけれど、それにしたって何も知らなかった僕や新谷さんに愚痴を零すくらいには、まだ何も思い浮かんではいないだろうに。



「ど、どうして……?」

「どうして?これは異な事を。保健委員会が3ヶ月も前に出した書類が通らなかった。サッカー部や図書委員会が出した1週間前の書類が通っているのにだ。生徒会や放送部が随分と忙しいようだからな。後回しされてしまううちのような委員会は遠慮して当然だろう?」

「だからそれは、書類が見つからなくて……!」



表情を崩して焦りから西園寺先輩に詰め寄る生徒会長の襟を掴み、それ以上進ませずに顔を寄せ……いや、ガンつけるというやつかも。美麗な顔が怒りに歪むと余計に怖く感じるなと端から見て思う。



「甘ったれるなよ、一條愁歌!生徒会長という立場を忘れてはいないか?後輩に辛い顔を、目をさせて、自分の都合だけを話すような友人は私には居なかったはずなんだがな。1年生ながら生徒会長に選ばれたときの私との約束を、忘れてしまったのか?」

「っ……忘れてませんよ」



手を払うように西園寺先輩を突き離し、僕の方を見る生徒会長。その目に宿る光はどこか鈍く感じる。

約束ってなんの話だろうか。ツッコミたくなる気持ちに蓋をして話を聞く。



「もう一度問おう。一條生徒会長。キミは、彼に何をしていた?」

「やだなあ、西園寺夏葉さん。彼とはただお話していただけですよ?」

「お話、ね。それにしては穏やかではない雰囲気だったが?」



西園寺先輩の硬い声に、一瞬怯んだ生徒会長ではあったけれど、すぐに立て直したのだろうか。何も知らない人が見たら人畜無害な純粋な笑顔だと感じる表情で相対している。



「そこは行き違いがありましたので、懇切丁寧に話していたのですよ。ねえ、中山さん?」



どうして、手を出したり脅した相手に同意を求めてくるのだろうか。『違います。突き飛ばされたり無理矢理引っ張られたり脅されたりしました』と言えば解決する。

そう思って口を開こうとして、心がそれを拒む。



「中山君……?」



告げたところで第三者がこの場にいないこの状況だと、西園寺先輩が今以上に動きにくくなるだけかもしれない。保健委員会の話だけで済むなら、良くはないけどまだ許せる。ただ、西園寺先輩を『友達』だと呼称する生徒会長がこれ以上機嫌を損ねてしまった場合に、いくら八宮先生を味方につけたところで生徒会“ではない”問題になった場合には手出しができなくなってしまう。この生徒会長は今日初めて会ったけれど、実力行使も厭わない人間だとわかってしまっている。

僕なんかのせいで、西園寺先輩がこの先に不自由になってしまうのは……。なんか嫌だ。年上に少し優しくされただけで、心配されただけでそんな事を思うなんて、チョロすぎるなあ。



「……少し、熱くなってしまっただけですよ。西園寺先輩が心配するようなことは、ありません」

「なっ?」

「えっ」



西園寺先輩が驚くのはまだ分かるんだけど、なんで生徒会長まで驚いているんだろうね。アンタの望み通りにしただろうに。



「いや、しかしだな……」

「しかしもカカシもない……なんて、今は言わないんでしたっけ。まあ、本当に心配するようなことはない。ないんですよ、先輩」

「キミは……」



どうして、西園寺先輩が苦しそうにしているんですか。共感も程々にしないと、先輩がしんどいですよ?

なんて、口には出さないけどね。



「でも、まあ勘違いではありましたけど。心配してくださって、優しくしてくださってありがとうございます。そんな先輩が委員長をしてくれているから、これからの保健委員会がちょっとだけ楽しみになりました」

「お世辞はいい」

「そんなつもりはないんですが……。あの、それよりこのハンカチですけど、洗って返しますね」

「キミが手に触れただけだろう。そこまでしなくても大丈夫だ」

「……わかりました」



手に持っているハンカチを返す。なんの目的で渡したんだろうか?とは思ったけど、もしかして僕、泣きそうな顔でもしてたのだろうか。



「……生徒会長」

「なんでしょうか、中山さん」

「次は、書類の管理をしっかりしてくださいね」

「っ……。ええ。貴重なご意見、ありがとうございました」



一條生徒会長は一瞬苛立たしげに僕を見たような気がしたけれど、まばたきの間に人好きのする笑顔で言葉を返してきた。


これが結局のところの理由ではないんだろうけど、もうそう考えるしかない。僕には、元々手札はないのだから、追求なんてできっこないんだ。



「しかし……なっちゃんといい、そこの1年生といい。ただの一度の間違いだけで、ここまで言われるのは流石に腹が立ちますね」



生徒会長は笑顔のままで、軽い調子で話している。そんな様子に西園寺先輩は息を一つ吐き、生徒会長を見てから僕へと視線を向けて何かを決心したように小さく首肯する。



「本当に、ただのミスなら私だって何も言わないさ。保健委員会としては抗議したいところだが、個人的には何も思わなかっただろう。だが、今回の件は放送部副部長も関わって居るんじゃないのか?」

「……!」

「そんな反応をされると、正解だと答えているようなものだぞ。あまり考えたくなかった結末が現実味を帯びてくるからやめてほしかったんだが……」



生徒会長はピクリと体を小さく跳ねさせたような気がした。

そんな生徒会長を見て片目を手で覆い、上を向く西園寺先輩。

もしかして呆れてるのかな。オーバー気味なリアクションを取るということは余程考えたくなかったんだろう。



「この前、ある生徒に言われてな。『保健委員長である先輩になにかしら恨みがあって、嫌がらせをしている可能性はなくはないですね』と。最初は心当たりがないと答えた。ただ、よく考えてみると」



人差し指を立てて、思い当たる節があるとあの時とは違う回答をしている先輩になんだか落ち着かない様子の生徒会長。なんだかこういう場面をテレビで見たような気がする。探偵物とか、そういうの。

すっかり野次馬の様になってしまった一応当事者の僕は、どこか別世界のように感じるやりとりをボーッと見ていた。



「放送部副部長の、あの男から頼まれたと。大方、自分を振った腹いせに少し困らせてやりたいとか、そういう話の流れになったのだろうな。……なあ、一條生徒会長。普段のキミなら、嘘をついてまで絶対にこんな事はしなかった筈だが、一体なぜヤツに協力したんだ?」



西園寺先輩の言葉はどこまで真実に近づいているのかはわからないけど、多分大方正解しているのだろう。明らかに顔色が悪い生徒会長を見てなんとなくそう思った。



「……違いますよ。これは放送部は関係ありませんし、ただのミスです。なっちゃん。ただ勘違いしているんじゃないでしょうか?」

「──愁歌。いい加減にしろ。これ以上は私がキミを許せなくなる」



西園寺先輩の声が、低く重いものへと変化していくのがわかる。さきほどの激情が嘘のように静かに、それでいてピリピリとした痛みを錯覚するほどの空気が、鋭い怒りが肌に突き立てられている。


……せっかく僕が飲み込んだのに、台無しだね。西園寺先輩は、まったくもう。



「先輩」

「「なんだ(なんでしょう)?」」



こんな時に生徒会長が反応するんじゃないよ。とは口に出さない。余計なヘイトは貯めないようにしておかないと、また……。

黒い澱みが沸き上がりそうになる前に考えを振り払い、西園寺先輩を見て話しかける。



「あー……西園寺先輩」

「どうした?」

「西園寺先輩は友達。だと、僕に生徒会長は話されていました」

「あ、ああ。そうなのか。私もそう思って──」

「友達、ですよ」

「あ、ああ……」



その関係性が崩れかねないのでその辺にしましょう?というのを暗に含ませたけど、うまく伝わらないのは言葉足らずだからかな……という自己分析をしつつ、友達という言葉はやはり軽いんだなと改めて理解する。いや、これは言葉に対して失礼かな。使う人達が軽いんだ。僕も人の事は言えないけれども。

一方で生徒会長は僕を訝しげに半目で見ている。もしかして言わんとしていることが伝わった……いや、この人には何を期待しても無駄だ。

頭を小さく振り考えを振り払う。



「その辺にしておきましょう、西園寺先輩。憶測で話したところで『たられば』にしかならないですし、もう放送は使わないと決めたのならそれでいいじゃないですか。それに生徒会長が『友達』を蔑ろにするわけがないですよ」



欠片もそんな事は思ってないけど、少なくとも生徒会長が西園寺先輩に抱いてる何かしらの感情は本物。今の関係をそのままにしても意味はないだろうし、後に何か起こるかもしれないけど、先輩達にとってはまだ2年の6月。1年半以上もいがみ合うのは精神的にも疲れるだろうな。それとも仲良しこよしの方が疲れるんだろうか。

僕はもう関わりたくないので、いがみ合う事になるなら、できれば僕の目に入らないところでしてほしい。まだ見ぬ放送部副部長とかも一生縁が繋がらないでほしい。



「……何のつもりですか、中山さん」

「疲れたんですよ、生徒会長。ほら、こんな時間ですよ。続きがしたいならどうぞご自由になさってください。先生に怒られたくないので、僕は帰りますけど」



へたり込んだままなのは流石にやめて立ち上がり、スマホの画面を見せて、いつの間にか静かになって日が落ちてきた校舎外を窓越しに見る。



「……中山君」

「西園寺先輩、また次の委員会でお会いしましょう。今度こそ、何かしらの対策考えておきますから。それと、ハンカチありがとうございました」

「いや。なんの役にも立たなくてすまない。帰る前に、鏡を見た方がいい。その……」

「いえ、はやく帰らないと家の母と妹が心配しているみたいなので。すぐに帰りますね」



スマホには妹からの不在着信1件。部活は入っていないし、今日は遅くなるとも言ってなかったので、遊びに行くなら連絡しろということだろう。母さんからもメッセージが1件入っているみたいだ。



「……生徒会長、最後にちょっといいですか」

「なんでしょうか」



西園寺先輩には聞こえないように近くに行き、何点かボソリと言いたかった事を伝えると、目を見開き信じられない物を見た。みたいな表情で僕を見てくるので、内心で嘆息する。



「それではさようなら、先輩方」



何か言いたげな西園寺先輩。心が少しだけ痛むけどそんな感傷は無視して、会釈して下駄箱へと向かった。






─────────────────────────────






再び靜寂を取り戻した廊下に1人佇む一條愁歌は、先程の中山奏の言葉を思い返す。


『生徒会長の言う通り、西園寺先輩には必要以上に近寄りません。どうして西園寺先輩に対して妬む気持ちがあるのかとか全然わかりませんけど、知りたくもないです。どうせ取るに足らない理由でしょうし。ただ、その代わりに後でしっかりと謝罪してください。生徒会として、責務は果たしてください。

その……僕も、謝ります。生徒会を悪し様に罵ろうとしてすみませんでした。手を出されたのは納得いってませんけど、それだけ生徒会のことを大切にしているってことですよね。もう二度とあなたと関わることはないですが、どうか僕みたいなヤツをアッといわせるような、そんな生徒会長でいてください』


眉根を寄せ、苛立ちまぎれに廊下の壁を叩く。


「……どうして最後にそんな事を言って行くんですか、あの男子生徒」


「何が妬みですか、知ったような口をきいて。怯えてたくせに。何かに絶望してたくせに」


「なんですか、アレ。なっちゃんに優しくされたくらいで、わたしにされたことをさも忘れたかのように調子に乗って」


「……イラッとする」


「ああ、もう!ほんと、ああいうのムカつくなぁ……」


「…………」


独りごちる一條愁歌は頭を掻き乱し、何かを払うようにして落ち着きを取り戻してからスマホを取り出す。


「生徒会として……か。そこは友達としてじゃ、ないんですね。なっちゃんはもう友達と思ってくれているかもわからないですけど」


自嘲するかのように薄く笑い、中山奏を追いかけるように帰っていった西園寺夏葉への連絡を取り始める。

出るとは思っていなかったが2コールの後にガチャっと音がなり、驚きのまま『愁歌』という声を聞いて、


「なっちゃん。その──」


声が上擦りながらもポツリポツリと話し始めた。




結局原因は分からず

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