転校生君と兄妹デート1
遅くなりました。
4月も終盤に入り、新緑が映える素晴らしい季節である5月へと移ろう。
春らしさを残す花を横目に、徐々に初夏へと移り変わり暑さと湿度を従えてくる日もそう遠くはない。
今日は行楽日和。天気は絶好の雲ひとつ見当たらない晴天で……とはいかず雲に覆われてしまっている。青空が見えない事はないけれど、せっかくの休みに気分が落ち込む。
そんな中、僕はぼーっと駅の入口で壁にもたれ掛かっていた。無為に時間を過ごしているわけではなく、待人がいるので仕方無しにそうしているだけだ。
待っている間とても暇なので、スマホを弄りながら昨夜は何してたっけなと思い返す。
課外活動が終わり、ゴールデンウィークまでの残りの日数は数学と英語の基礎確認の小テストと5月末〜6月上旬にある定期考査についての話、テスト対策の為の講座および通常授業があった。まあ、特に何も問題はなく気がつけば今日からゴールデンウィークだ。
スマホでメッセージアプリの画面を見ると、昨夜に新谷さんから明日はみんなと遊ぶんだというメッセージが来ていたみたいだった。みんなとは課外活動の班員、上村さん、渡貫さん、上白沢さん、赤羽君の事だろう。しれっと赤羽君が入ってる辺り、性格や事情を知らない人からすると妬みの対象になりそうだ。
楽しんできてねと今更ながらにメッセージを送ると間髪入れずに、
『寝てたのかな?』
『楽しんでくるよ』
『今度は中山君も一緒に遊ぼうね!』
『(前足で手招きしてる子猫のスタンプ)』
と返ってきて、なんでそんなに返信が早いんだよって僕は苦笑いするしかなかった。
てきとうに返信し、待人遅いなとスマホをポケットに戻してぼーっと空を眺めていると、首に何かが巻き付き横から倒れそうになるほどの凄まじい衝撃を受ける。
「か〜なにぃ」
「グエッ」
「ごめんね、かなにぃ。待った?」
「響!?く、苦しいんだけど……!」
「あ、ごめん。だってこう……襲って欲しそうだったし?」
「意味分かんないよ……やめてね、危ないから」
待人──妹の響が抱き着いてきた衝撃と首の痛みに顔をしかめ、苦々しく注意するも反省の色が見えず、気づかれないように息を吐く。
「それにしても、同じ家にいるんだから外で待ち合わせなくても良かったと思うんだけど」
「えー。せっかくだからデート気分でいきたいじゃない?ほら、流行りの兄妹デート。雑誌にも書いてあったよ?」
「そんな雑誌見たことないけどな……それに」
「それに?」
妹の服装を見ると、見覚えのある制服を着ている。ただ、こう……なんで中に薄いパーカー着てんの?とか、スカート丈が膝より上で短く履きすぎてない?とか、ツッコミたいのもあるんだけど。そもそもの話。
「なんで制服?」
これに尽きる。
「制服デートって憧れるじゃない?それにかなにぃも制服着てるじゃん」
「いや、全然憧れないし。制服なのは響が指定したからでしょ?」
「かなにぃは冷めてるなあ。青春を私と取り戻さないと」
「あのね、響。僕達は兄妹なんだから普通にお出かけするだけでしょ?わざわざまわりに勘違いさせるようなこと言うんじゃありません」
「勘違いさせておけばいいんだよ。勘違いしてても、本気でお兄ちゃんを好きになるような人には絶対意味ないから」
「僕じゃなくて響がね……」
「私にしてもそうだよ?」
中学生で惚れた腫れたなんてのは早いかなあと思わなくはないけど、小学生のうちからあったりするんだから別におかしくはない。うちの妹、お兄ちゃん視点の補正がなくても活動的でかわいい部類だと思うからモテそうなんだけどな。
僕は恋人なんてどうでもいいけど、妹にはしっかり青春を楽しんでもらいたい。恋に生きる妹をからかいたいというのが本音だけど。
「っとと。かなにぃ、もうそろそろ行こっか」
駅にある時計を見て慌てて響は僕の右手を左手で掴み駆け出す。そんな状況に思わず苦笑いしつつ、そういえばと1つ問いかける。
「ねえ、響」
「かなにぃ、今から行くのはね。まあ着けばわかるよ」
「さいで……。というか、僕が言おうとしてたことよくわかったね」
「妹ですから、と言いたいけど。行き先を言ってなかったから、かなにぃなら聞きたいだろうなって」
「そっか。まあ変なところではないだろうけど。後、もうちょいゆっくり行けない?」
「時間そんなにないんだよ。有意義に使わないとだから早く行くよ!」
学生服だから行ける場所は限られるだろうけど。小さい頃に同じようなことがあったような……まあ多分、気のせいかもしれない。
あたたかく柔らかな手に握られながら、それを放すこともできず妹に引っ張られていく。
ああ、うん。ジロジロ見るのはどうかと思うけど、目立つし走ってて邪魔だよね。ごめんね、少年少女たち。そこのお嬢ちゃんも指はささないでほしいなー
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「来たかったのって」
「そう、ここ!」
「え、でもいつでも来れるよね。この前も母さんと買い物に来たって言ってなかった?」
「いいでしょ、かなにぃと来たかったの」
大型ショッピングモール。その入口で建物を見上げる僕達。
色んなお店が入っているから1日じゃ全てのお店は回れない。服でも買いに来た……いや、僕と来たかったって言ってるし、なんだろう?
「だって、おにいちゃんとお出かけなんて久しぶりだから……それに4年も離れてたから、どんなことしたいとか分からないもん。だからここなら色々できるし丁度いいじゃん」
まるで小さなこどもの様に話す響に、少しおかしくなって吹き出してしまった。
そんな僕にムスッとしてそっぽを向く妹はかわいらしく、余計に笑えてしまう。
「……私より背が低いくせに」
「ぐっ……今それ言うのやめない?」
「やめませーん。背が低いのは事実だし。あ、それとこれはデートなんだからね。今から帰るまでは呼び方を変えてもらいます!」
「なにそのテンション」
「今からかなにぃには、ひびちゃんって呼んでもらいます!」
「いつも通りじゃない?」
「さっきから響って呼んでたのはかなにぃだよ。外でもちゃんと呼んでもらうよ!」
ズビシッと効果音がなりそうな感じで、僕の顔に人差し指で指差す響。
ちなみに、未だに左手は繋いだままだ。もうそろそろ放してほしい。いくら妹相手でも流石に恥ずかしいんだけどね。
「わかったけどさ、ひびちゃんは僕のことなんて呼ぶの?」
「かなくん」
「……ああ、『響』から『き』を抜いたように『奏』から『で』を抜くような呼び方ね。びっくりした」
至極真面目に言うものだから一瞬固まってしまった。
うーん、呼ばれ慣れてないから結構恥ずかしい。
「じゃあ、かなくん。まずは服でも見に行こう。ほら、時間は有限だよ!」
「え、待って、そろそろ手放してほしい」
「今から兄妹デートを始めるのに……しかたないお兄ちゃんだね。今だけは素直に聞いたげるよ」
手を放して横並びで建物に入る僕達。
休日に制服でショッピングモールを彷徨い歩くことになるなんて。……知り合いに会わないよう願わないと。なんとなく嫌な予感するんだよね。
しかし、入ってから思ってたけど家族連れが多い。
休日というか、ゴールデンウィークは働いているお父さんお母さんが会社の都合で休みだからだろうか。
うちの父さんは休みだけど、やることがたくさんあるみたいだからこっちには今回戻ってこないって言ってたなあ。
父さんが帰ってくることを楽しみにしていた母さんも残念そうにしてたから、『僕と響なら大丈夫だから、父さんのところに何日か行ってきたら?』って言ってみたけど、悩んでたね。
ソワソワしてたし、案外今日家に帰ったら居なかったりして。まあ母さんの事だし、しっかり連絡はくれるはずだ。
「かなくん?」
「え、なに?」
「お店、通り過ぎちゃうよ」
考え事をしながら歩いていると響に腕を引かれる。
そのお店は普段僕が入らないようなところだったけれど、今日は妹もいるからまだ抵抗感は薄い。女性が多い……気がする。大丈夫かな、僕が入って通報されないよね?
入ってからも不安からあちこちに目をやる僕は、はたから見れば不審者そのものだと思う。それでも何も言われないのは隣の妹と服を探しているように見えるからなんだろうか。まさかカップルには見えないだろう。
それにしても女性物ってなんでこんなに種類があるんだろうか。僕にはどれがなんという種類の物かがわからない。
うわ、これ思っている以上にひらひらだ……女子にしては高身長の響ではあるけど、案外似合いそう。こっちは……ワンピースってやつかな?
隣で服を手に取りながらブツブツ言っている妹を見て、一旦思考をストップさせる。
「ひびちゃんは何か気に入った服あったかな?」
「んー……これなんだけど、値段がちょっと厳しい」
手に取っている服についた値札を見せてくれるが、なるほど。中学生にはちょっとお高い。
悩みながらも一旦保留ということで元あった場所へと戻すことにしたらしい。流石に僕にも余裕はあまりないので『買ってあげる!』なんて言えるわけもなく。
そんな調子で何軒もまわり、気に入った物で安価な服を購入することになった。
「ん〜……よし、服はこのくらいにして。お腹空いたね、フードコートにでも行こっ」
「荷物ロッカーに預けてからにしない?」
「言うほど手荷物多くないよ。もう少し増えたらにしよう」
「ひびちゃんがそう言うなら、わかった。ほら、それ持つから貸して。僕だけ手持ちがないのはちょっと落ち着かないから」
「どんな言い回し?でも、そうだね、かなくんにお願いするね!」
両手で持っていた荷物のうちいくつかを貸してもらい、片手で持つ。僕の空いた片手を見て響はにんまりと笑い、自分の手と繋いできた。
「……一応聞くけど、なんで?」
「何度でも言うけど、デートだからね!」
「まあ、いいけどさ。ひびちゃんは恥ずかしくないの?」
「小さい頃にたくさん手は繋いでたから今更でしょ?それにさっきもしてたし」
そういう物なのかな?と疑問に思いつつもフードコートへと向かう。席は少し早めに食事にしようと考えたおかげか空いていたのは運が良かった。
僕はうどん、響はハンバーガーを食べたくらいで、他は特に何もなく、他愛もない会話をしつつゆっくり過ごした。
いつも読んでいただきありがとうございます。




