転校生君とお隣さん
ちょっと予定より遅くなりました。
「聞いたぞ、中山」
暖かい太陽の光が窓から差し込む昼休み。
ご飯もそこそこに、前の席に座っている林道君は不貞腐れたように僕に対して話しかけてきた。
「え、何の話?」
「惚けるなよ。今朝川瀬さんと一緒に登校してきたんだろ?仲良さそうに歩いてたって噂が流れてるぞ」
「あー……。たまたま会っちゃったからね」
林道君も僕があんまり関わりたくないってことは知っているはずだけど、それでも嫉妬しちゃうのかな。
うーん、恋ってやつは怖いね。
お隣さんも他の子と話しているのにぴくっと反応してる辺り、聞き耳を立ててるみたいだった。
聞いても面白いことは何も出ないよ?
「たまたまで一緒に来る奴が……いや、中山なんだかんだ優しいもんな。どうせ無視して行こうとしたら引き留められたってところだろ」
「なんでわかるのかとか、僕が優しいとか何言ってんだとか、信じるの早すぎだとか、僕はキミにツッコミをいれるべきかな?」
僕が呆れたように言うと、心外だと言わんばかりに林道君は腕を組んでジッと見てくる。
「なんでだよ。流石に1ヶ月は一緒に勉強する仲だからわかるだろ」
「勉強ねえ?僕ら学校で会う以外で交流ないんだけど?」
「フォローを無駄にすんなよ!仲いいだろ俺ら!」
ぜえぜえ息を吐くくらいならそんなに怒らなくていいのにねえ。
そう思って周りを見ると、なぜか苦笑いを返してくるみんな。離れて見ている新谷さんや渡貫さんも同じような表情してるし、上村さんに至っては爆笑してる。あれえ……?
「つーか、あれだな。中山は一回水でもかぶって、みんなに謝るべきだと思うわ。というか俺に謝れ」
「ええー理不尽じゃない?」
とは言うものの、林道君の言い分も分からなくはない。自分が林道君の立場なら多分一発はたいてる。
林道君がさり気なく……でもないけど、仲が良いだろと言ってくれたのは本当に嬉しい。
嬉しいけれど、同時にその関係が疎ましく思えてしまう自分もいるのが、申し訳無かった。
「そ、そんなことよりさ!」
「うおっ!?な、なんだよ中山」
「今度同じような事があった時の為に、林道君をすぐ呼べるよう連絡先交換しない?」
「いや、それ呼んでどうにかなるもんか?まあ、中山と連絡は取りたかったから良いんだが」
急に声を上げて強引に自分の思考と話題逸らしをする僕に驚きつつ、まあいいかと自分のスマホを取り出し連絡先交換に応じてくれた林道君は良い人。
「これでよし。もしかして、中山にとっては俺が高校に入って初めての連絡先交換になるのか?」
「うん?ああ、あんまり他の人と関わってないもんね。でも、残念。新谷さんが初めてだよ」
「はー、意外とやることやってんだな」
「勘違いしてるかもだけど、委員会とか課外活動で連絡を取り合うためだからね」
「そういうことにしといてやるよ……お、おい、美山さん何してんの?」
林道君が驚いたように僕の隣の席に目を向けるから仕方なくそちらを見ると、お隣さんが机をガタガタやって……待って、机倒れるよそれ!?一緒にいる人が焦って支えてるけど!
「お箸、落ちたから」
「いや、落ちたからって……そんな乱暴に机どけようとしたら危ないだろ」
「気にしないで」
気にするなと言われると気になるんだけどなと思いつつも、お隣さん相手なのでスルー1択。視線を切りスマホを弄り始める。林道君の方を上目遣いにチラ見すると、そんな僕をマジかコイツという目で見つつ、分かったよと強引に思考を切り替えることにしたらしい。
お隣さんの周囲は、というかクラス中がざわざわして僕を見てるような気がするけど、おそらくお隣さんを見てるし無視だ無視。
「奏は気にしてほしい……」
恨みがましく呟かれた言葉はどうやら僕にだけ届いたらしく、周りの人に何か言った?と聞かれていた。
なんでそんなに僕にこだわるのかな、ホント。多々良君辺りを気にしてあげてよ。キミにべた惚れだよ?わざわざ僕なんかに突っかかるくらいなんだから。
「なあ、中山」
「なあに、林道君」
「俺、課外活動不安しかないんだけど?」
「僕は楽しみだよ。班も違うし、僕以外が仲良くやってる姿を見て楽しみたい」
「お前も仲良くなれよな……俺や新谷さんだけじゃなくて、あの3人や他のクラスメイトとも。孤立すんなよ、心配になるから」
スマホでゲームアプリのデイリーミッションに勤しみつつ、てきとうな返事を返していると呆れたように言われた。
「気が向いたらね」
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授業中、ぼーっと外を見ていると何かがカサリと僕の髪に当たった。先生にバレたかと思って前を見るが板書中でこちらには気づいていない。
じゃあなんだと机の周りを見るとくしゃくしゃに丸められた紙が落ちていた。まるで僕が捨てたかのように見えてしまうそれを拾い上げた。
誰かが僕に向かって投げたのか。そう思って隣を見ると、お隣さんと目が合う。お隣さんは手で開けるようにジェスチャーしている。
『開けないとダメ?』
口をパクパクと動かし、声を出さずに伝えるとお隣さんは小さく頷く。
厄介事なら嫌だなあと思いつつ、息を一つ吐いてくしゃくしゃの紙を広げると、小さくて丸いかわいい文字が……ん?
「ええ!?」
思わず声が出てしまい慌てて取り繕うとするが、静かな教室に響いてしまったので一部の生徒になんだと見られるはめになった。
「であるからして──うん?どうした中山」
「すみません先生。問題が難しすぎて思わず口に出ちゃいました」
「そうか?これは基本だからしっかり覚えてもらわなきゃ困るぞー」
「はい、分かってます……授業止めてすみません」
注目されて恥ずかしくなり、教科書で顔を隠し伏せる。
再び授業が進み始めたところで隠れてもう一度紙を見る。そこにはメッセージアプリのIDとメールアドレス、電話番号が記入されており、『彩愛のも登録してほしいです』と下に書いてある。
もう一度お隣さんを見ると、小さく『おねがい』と唇の動きで伝えてくる。
うーん……断るべきなんだけど……
と考えて、これ以上お隣さんに何かすると今度こそお隣さんを好きな人達に面倒くさそうな絡み方されそうだなとも頭によぎる。
授業時間いっぱい悩んで、下校時間。案の定、林道君に『中山、お前何してんだよ』と言われてしまったが、適当にはぐらかしてスマホに連絡先を登録する。
その姿を見て嬉しそうに口角を上げたような気がしたお隣さんはすぐに表情を消して帰っていく。
「……なあ、美山さんとなんかあったのか?」
「あったといえばあったかなあ……」
露骨という程でもないが態度に出ていた美山さんを見た後、林道君は僕の顔をジロジロと見てきたので、僕は苦笑いで返しておいた。
その夜には、林道君からは課外活動で川瀬さんとの距離を詰めたい件が送られてきたので、頑張ってと当たり触りないメッセージを送り、美山さんにはてきとうにテストメッセージと電話番号だけ送って放置しておいた。
新谷さんからは要約すると明日楽しみだねという旨のメッセージがきていたので、そちらも当たり触りないメッセージを送っておいたという事があったけど特に語ることもない平和な夜だった。




