覚悟の日—壱
俺は暖かな——クッソ暑い日光を浴びて覚醒を促される。
「10時か」
俺は目覚まし時計を確認する、
10時。
午後ではない。流石に午前だ。
昨日のことを思い出す。
師匠の家に乗り込んで、一回胸を貫かれて、生き返って。そんで、俺は師匠の顔面を殴りかけて.....。
あれ? 全然記憶がねぇ。
「おはよう」
「ん、おはよう」
普通にアブァが入ってきた。
「ニクス君。君の記憶は十分しょっぱなからない
よ」
「マジか。あの俺のおとり作戦からの敵を秒でミ
ンチにしたのかと思ってたわ」
ベッドで寝ていた重い体を起こす。
十分こっちは心読まれてるな。
下心は働かせられねぇ。
「そんなわけないじゃないか。そんなにやわじゃな
い。ま、僕に取っちゃあ朝飯前。さっき食べてき
たけど」
「なぁアブァ」
「どうしたんだい?」
「いや、昨日の結果を聞いていいか?」
「9時38分に君は失神、五感を失い君の全体重、即
ち57キロをお姫様抱っこして僕はこの家まで走っ
てきた。その上、アーサーと一緒に一時的だが、
失った五感の治療をした。それが50分くらいか
な。そっから僕は看病をアーサーに任せて直ぐに
また道場に行って——」
「すんませんでした! 昨日のようなことは2度とい
たしません。あーたんにも感謝の言葉を送ってお
きます!」
アブァは朝っぱらから嫌なとこついてくんなぁ(自分のせい)。
俺は段階を踏むようにして立ち上がり、
「って、そうじゃねぇよ。俺はあの後あい——」
つが。と言うのを遮って彼は、
「死んだよ」
低く、いつもの茶化すような声ではなく静かに言った。
「————‼︎」
死んだよ。
その言葉を待っていました。
そう言ってやりたい。
そう茶化すのが俺だ。
なのに、何故だ。
何か気持ち悪い。
あいつは死んだんだ。
死んだよ。
そんな言葉、聞いた事ねぇ。
初めて聞いたわ。
胃の中に何も入ってないせいか。
胃腸が縮むような気持ち悪さがある。
なんなんだ。
死んだんだぞ。
勝ったんだぞ。
次は誰だ.....。
「大丈夫かい?」
「いや、悪ぃ。ちょっと1人にしてくれるか」
彼は笑わず、真顔で
「ご飯はおかずないって」
「————」
そう言って部屋から出ていった。
ツッコミを入れる気力が全くない。
人殺し。
そんな単語が脳裏をちらつく。
正当防衛だ。
確実に必要なものだった。
「ニクス」
そこには、長い銀髪の少女、アナの姿があった。
新調した服が可愛い。が、それを心で思うだけでもう俺の心は崩壊しそうだ。決壊しそうだ。
今は俺らのやった昨日のことを振り返るだけで精一杯だ。
「貴方に必要なのは理由じゃないわよ」
「———————」
「言い訳なんていらない。誰も欲しがらない。私達
の上がった舞台はそんな論理的ではないのよ?
自分の命をかけて自分の願いを叶えるものが集
う。それがこの戦争よ。ニクスに必要なのは覚悟
よね」
「——っ‼︎」
ポロポロと、出てきた。
出てきたのは涙であった。
その涙は俺の心の弱さだ。
心が弱い——少し強く言われるだけで萎える。
萎えるとはいえ、今回は急すぎた。
急にことが起こりすぎた。
起こったことを全て理解するのは難かった。
理解するには覚悟が足りないことぐらいわかってる。
覚悟が足りないことぐらいわかってる——つもりだ。
つもりなだけで、なんでもない。
なんでもないんだ。
全てがカメオのように綺麗事では終わらないと実感させられた。
「なん.....か、ご.....めん...ひっ...な」
涙は止まらない。
言葉をうまく喋れない。
彼女はそんな俺に、
「私には悲しみの感情がないの
「だから、私はお爺さんを倒しても、殺しても何も思
わない
「そして、ニクスがなぜ悩むのかを理解はできない
「だからこそ、私は「奇跡の輝石」が欲しい
「ニクスと一緒に悩みたい
「ニクスと一緒に普通に生活をしたい
「恋とかではなくてね
「でも、恋もしてみたい
「ただ、人と一緒に生活して、学んで、人並みになる
だけでもいい
「ただ、それが私の願い
「それが叶わないのなら死んでるのと同じだと思うほ
どに
「あなたに辛い思いをさせるのも知ってる
「当たり前だけど引き込んだのも私
「それでも来てくれる?
「それでもついてきてくれる?
「—————————————————————」
その声は本気だった。
もう、涙なんて止まった。
彼女の願いに対する覚悟は尋常ではないことを再確認する。
俺は引き込まれた。
引き受けたんだ。
「アナ」
「何よ文句あるの?」
いつもの感じに戻したアナに対して、俺はいつも通りの茶化しは無しに、真面目に
「人間は辛いぜ。誰かが死ぬと悲しい。自分の知り
合いが死んだらもっと悲しい。自分の目の前で死
んだ人がいるのならそいつは多分一生罪悪感に苛
まれるくらい。それでもいいのか? 人間の恋模
様ってこええんだぞ? 人間並みつってるけど人
間どっかのホムクルよりすごいとは思ねぇよ?
それでもいいってんなら」
「やってやるよ」
俺の覚悟はまだ薄い。
でも、その覚悟は全て彼女に捧げることになる。
名誉か、それ以外か。はたまた意味無しか。
それでも俺は尽くしてもいいと思った。
「じゃ、行くわよ」
「どこにだよ」
「リビングに決まってるでしょう? 私がないおか
ず作ってあげるわよ」
「それは勘弁しろよ」
彼女は「そうね」と、少し引きつった笑いで答え、俺は盛大に笑った。
彼女もつられて笑いは激しくなり、
笑いの不協和音は後に、あたりの人々を呼んだ。




