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12 初めまして、お久しぶりです

「おい、お前らせめて路地裏出てから話せ。つーかこんなとこに座り込んで駄弁るとか、さっきまで殺されそうになってたとは思えねぇほど吞気だな」


 背後からかかった低い声が、私たちの声しかしなかった路地裏に響く。


 低い男の人の声だったが、どこか温かみを感じる。それは私が彼を(一方的に)知ってるからだろうか。おかげで普段なら怯えてしまいそうな相手にも拘らず、私の顔はむしろ綻ぶのを抑えていた。


「あ、カシオ。女の子助けるのに車使うような軟弱男に言われる筋合いはないの」


「ハァ……あのな、俺は生身で無防備に飛び込むような無鉄砲な男じゃないんだ。あの状況の中ここに突っ込んだだけでもう賞状が贈られてもおかしくないほどの頑張りなんだ。

 確かに生身であの数に勝てたらそりゃカッコイイだろうがな、武術とは無縁の生活を送っている俺にそんなことできるわけないだろ」


「えっと……?」


 商人カシオとは親しい間柄だったと記憶しているが、それも昔の話。今の私とカシオの間には何も接点がないのだ。そんな状態の人間から名前を呼ばれたり親しげに話しかけられたりするのは少し怖いだろうと思い、初対面らしく振舞う。


「このもはや開き直ってるバカみたいな男がカシオなの。戦闘に関しては無能なの。ちょっと変な名前だからすぐ覚えられると思うの」


「バカとか無能とか変とかいうな。名前については俺の先祖に謝れ」


「だが断る」


「ちょっと使い方おかしいぞ。その言葉どこで覚えた」


 トントンと進んでいく、まるでコントのような会話に目を白黒させる。


 この二人、お互いに対して全く遠慮というものがないわ……。

 自分と義母のことを棚に上げ、そんなことを思う白雪であった。


「……カシオさん、ですね。初めまして。私のことは白雪とお呼びください」


 初めまして、か。


 会話が一旦落ち着いたところで口を挟み、丁寧に頭を下げる。

 隣でフィリアルが「こんな男に頭を下げる必要なんてないの」とか言っていたが、これでも命の恩人なのだ。本当に、賞状を送ってもいいぐらいなのだ。


 ……いや、まぁ確かに、車の中から威嚇されるより一人で戦って拳で勝ってくれた方がかっこいい!ってなったとは思うけれど、助けられ方についてとやかく言うつもりはない。


 彼は私を助けた。それだけで十分なのだ。

 早くもあの恐怖は消えかかっているが、殺されかかっていたあの四面楚歌のような状態のところでたった一人でも味方が来てくれたとわかった時には、全身から力が抜けるほど心から安心したものだ。


 怖かった。また死ぬと思った。


 だから、丁寧に接するのは当たり前。できれば何かお礼がしたいものだが……。


「俺なんかに敬語使う必要はねぇぞ。よろしくな、白雪」


「そう?命の恩人にそんな対応失礼だと思うけど……貴方とは仲良くなりたいし、お言葉に甘えさせていただこうかしら」


「おう」


 破顔した彼を見て、きっとお礼を受け取ってもらえないことを悟る。そういえば、カシオはそういう人だった。普段はちょっとだらしないのに、ずるいなぁ。


 思わず小さく笑ってしまい、慌てて表情を消した。


 何もしてないのにいきなり相手が笑いだしたら気持ち悪がられる!心の中で青ざめながら、二人の様子をうかがう。しかし、二人とも私が笑っていたことに気づかなかったようだ。


 カシオは何か考えているようだし、フィリアルはその様子を見守っている。どうしたのだろうか。

 

「……あー、白雪?」


「なぁに?」


 首を少しかしげて返事をする。

 ああ、もう笑顔が抑えられない。口角がヒクヒクしてる。


 彼らのような対等な会話のできる人が今までいなかった。今回の人生ではお義母様と、お父様と、使用人と鏡さんとしかまともに話したことがなかったのだ。


 しかもその全員が、どこか一線引いているような気がするのだった。

 だって、私か相手のどちらかが敬語を使っているし、基本的に必要最低限の会話しかしない。


 お義母様がまだ一番近い存在ね。あと鏡さん。実の父親(血縁関係者)より近いって……と思ってしまうのは仕方ないだろう。


 だから、敬語を使わずに会話できる人ができて、嬉しくてたまらない。

 お友達になってくれるだろうか。せめてたくさん話したい。


 こんなの小人たち以来だ。


 昔会った時も、彼らにとって私は所詮お客さんでしかなかった。愚痴を聞いてくれるただの知り合いでしかなかった。


 浮かれるのも仕方ないだろう。

 ニヤつきそうになりつつも、それを抑えてカシオの言葉を待つ。


 しかしその浮かれた状態も、長くは続かなかった。


「……もし間違ってたら悪いが、お前さん、この国の姫――エイル・アルヴィッタか?」

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