アンドロイド
どんよりとした曇天の下を、和佳菜と二人で歩く。俺の手には食料品や機械の部品など、アガットから頼まれて買い込んだ商品でいっぱいだった。
「……雨、降りそうだな……」
両手で抱えるように持った荷物の隙間から、俺は空を仰ぎ見る。青空は薄汚れたぞうきんみたいな色で塗りつぶされていた。
「そうですね……雨……嫌です」
心ここにあらずといった返答を寄越す和佳菜。その姿はまるで、帰る居場所を探している夢遊病者のようだった。
「どうした? 何か雨に嫌な思い出でもあるのか?」
「あ、えっと……昔、嫌な物を見てしまいまして……。雨を見るたんびに思い起こされるんです」
「……訊いてもいいか?」
「ダメではないですけど、あまり面白いお話しではありませんよ」
比較的軽い手荷物を揺らしながら、和佳菜はぽつりぽつりと語り出した。周りの喧噪に比べれば格段に小さい声なのに、なぜかよく通る不思議な声色で。
「わたしがまだ、師匠と出会う前の話なんですけど――雨の日に、やることがなかったので近所の図書館に行こうとしてたんですよ。そしたら、近所のゴミ捨て場に一体のアンドロイドが捨ててあったんです。……両腕は肩から下が千切れていて、人工皮膚をカラスがつついていました。光り物が好きだからか、くちばしにアンドロイドの眼球を咥えていたりもして……」
当時のビジョンを思い出しているのか、和佳菜にしては珍しく苦々しい表情を見せる。
『うわぁ……それはずいぶんグロテスクね。幼い頃にそんなの見たらトラウマにもなるでしょうに』
『だな。少し悪いことを訊いたかもしれない。――ていうか、アンドロイドってそんなとこに捨てていいのか?』
『ダメに決まってるじゃない。本来はアンドロイド処理を専門にしている企業に受け渡す必要があるんだけど……ロボット一体捨てるのもお金がかかる時代なのよ。そういったお金を惜しんだ人が、ゴミ捨て場に不法投棄したんでしょうね。購入履歴を消せば、誰が捨てたかなんてわからないもの』
『そうか……どこにでもある嫌な話だな』
『その通り、どこにでもあるわ。ありふれていて、つまらないほどに』
俺の気持ちを代弁するかのように、空は泥水のような薄暗い光を地上に落とし続けていた。
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アンドロイド――AIを基に行動する人間型のロボット。人工筋肉を用いて、外見だけではほとんど人間と区別がつかないようになっている。
非人間型のロボットと区別するために、この呼び名が定着した。
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