いつもの一日・放課後
これにて完結となります。彼らがまた頭の中に出てきたら書くことになるでしょう。おそらく
そこからは針のむしろのような状況をスルーして過ごし、あっという間に放課後。
今日も仕事だと若干げんなりした俺は、それでも席から立ち上がってけだるげに歩き出す。
「帰るのかしら?」
「いんや、バイト」
「そう」
今日はやたらと話しかけてくるなと思いながら教室を出て下駄箱へ。
うちの学校は部活に入ってる人が七割で、残り三割のうち一割が委員会、二割が帰宅部。
大半が残る中、俺は少数の中に紛れられず、一人目立ちながら廊下を歩く。
もはや周囲の怖がる視線は慣れた。視線を合わせようとしない奴らに対しても何も言う気はない。
なぜならいつもの事だから。自分という存在が生き続けている限りずっと続いていくことが明白だから。
やめりゃいいんだろうが、それはもう無理だしな……そんなセンチメンタルなことを思いながら下駄箱で靴を交換する。
と、「あ、あの、新垣先輩ですか!?」とテンパった声をかけられた。
時間はまだあるので俺は無視することはせず声がした方へ振り向くと、そこには緊張しているからか俯いている少女がいた。
なんだこいつは。真っ先に思ったその疑問をぶつけずに「ああ」と肯定すると、「こ、ここれを受け取ってください!!」と俯いたまま封筒を両手で差し出してきた。
一瞬逡巡したが、こういう役回りは大抵良家に渡すためや沙奈恵に渡すためだったりするので(ほぼ同学年の奴ら)後輩からは珍しいなと思い「ああ」と受け取る。
たったそれだけなのに緊張の糸が切れたのか「はうぅ」と言って廊下にへたり込んでしまった。
…………。中身を確認したいと思ったがすぐさま思い直し鞄に入れ、動かなくなったその少女を仕方ないので保健室へ連れて行くことにした。
無論、一部始終を他の奴らに見られているので俺の悪評は留まる事を知らないだろうが。
で、そこから家へと帰らずに電車に乗ってついたところは四駅先の繁華街。
時刻は夕方だからか通りは賑わいを見せ、人通りは相も変わらず多い。
その内の一人である俺は、別に夕飯の買い物などをしに来たわけではないので駅前すぐの裏路地に入ることにした。
「ウイッス」
「来たか、問題児」
路地裏を道なりに歩いていたところそんな声が聞こえたのでその先を見ると、上下黒いスーツにサングラス、右耳にピアスをつけている男がいた。……まぁいたのが分かったから挨拶したんだが。
その男は咥えていた煙草を地面に吐き捨てて革靴のかかとで潰すと、「ったく。なんでこんな奴と仕事しなきゃなんねぇんだよ」とぼやいた。
まぁ俺の問題っぷりは至る所で上がっているからな。と、大して益のない思考をした俺は、「着替えてきていいですか?」と質問する。
「アァ? さっさと行って来いよ。こっちはテメェ待ってるんだよ」
「うっす」
そう返事して、俺はその人の近くにあった階段を上った。
俺がやっている仕事、いやバイトか。まぁどちらでも一緒か。は、用心棒みたいなことである。
正確に言うならば風俗店などで迷惑だと判断される客を問答無用で追い出す仕事である。
なぜ高校生である俺がそんなことをできるのかというと、それがまた複雑な事情があるのだが、一つは春日井さんの紹介があったからだろう。あの人はあの人で未だに顔広いからな。
正直色々と生臭いものは在るが、そんなことは俺に関係ないのでただ追い出す・ボコボコにするという内容だけをやればいいので楽とは言えば楽。ちなみに日給三万円。
まぁぶっちゃけそれだけじゃないんだがな……。
先程の男と同じ格好(ピアスなし)になった俺は、ネクタイを締めてから部屋を出た。
「お、ようやく来たか。さっさと降りて来い」
「うっす」
言われた俺は階段の手すりに手をかけて飛び降りる。
音もなく着地したその姿を見たその男は「ふん」と鼻で笑ってから歩き出し、「俺は先行くぞ」と言った。
その後ろ姿を見た俺は、今日も頑張りますかと背伸びをしてから歩き出した。
「ただいま」
午前二時。高校生が帰宅するにはあまりにも遅いその時間帯に帰宅した俺は、当たり前の様に真っ暗な廊下をそのまままっすぐ歩く。
リビングに着いた俺は灯りをつけると、テーブルに紙が一枚だけ置いてあった。
「『お疲れ様でした』ね。……ったく。よくできた妹だよ、あいつは」
そう呟いた俺は、風呂入って歯を磨いて自分の部屋に入ったところ……何故か俺のベッドで良家が寝ていたのを発見したため、起こすのも面倒なので先に扉を開けてから良家を起こさぬように抱え、ゆっくりとベッドに戻してから、寝た。
若干心拍数が上がったが、それは起こさないよう慎重に行動したからだろう。
そんな、四月のお話。
お付き合いいただきありがとうございました。