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涙の代わりに
この作品は、日々、並々に生きる人々の、日々、並々ならぬ出来事や思い出を綴った超短編小説集です。
今日も上手く生きられなかった。
そんな私を見てきっと後ろ指を指しているだろう人たちを思うと、内臓がぎゅうと縮こまり呼吸が急に苦しくなる。バイトの帰り道。繁華街のネオンと酔っ払いの楽しそうな声。私だけがお葬式みたいな顔。
泣けば楽になる気がするのに気持ちに反して涙は全く生成されない。腹の奥に溜まった感情たちが行き場をなくして不快な熱と共にグルグルと体中を巡り出す。もう我慢できない。私はスゥと腹の底まで息を吸い込むと、それはそれは大きな声で歌を歌った。体全身に響かせて。
歌うのは大声で泣いているのと似ている。突然のできごとに周りの人が目を丸くしたけど、そんなことは関係ない。泣くよりいい。顔がぐちゃぐちゃにならないし、こんな私でも精一杯生きてるってことに気づいてもらえる気がする。だから歌う。涙の代わりに。嫌なこと全部がなくなるまで。
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