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エピローグ 雨の日の番傘


 京の町に秋の長くシトシトした雨が降り注ぐ。

 朝晩は冷え込んで来た。


 総司は空を見上げている。特に意味はない。

「総司、テメェ、今日の買い出しだろうがっ!! 」

 歳三が総司の部屋に乗り込んでくる。総司は素早く移動し、歳三から隠れる。全く持って意味など存在していなかったが。

「嫌ですよ、雨じゃないですか。風邪引いたらどうするんですか? 」

 総司は口では不満を言いながらこの状況を楽しんでいる。その証拠に顔は笑顔のままだ。しかも、笑わないように意識しているせいか、声が震えている。

 鬼の副長土方歳三がここまで手を焼く奴は総司以外にいないだろう。

「ほら、土方さん、皺、取れなくなりますよ? 」

 総司がニコニコしながら立ち上がった。

「誰のせいだと思ってんだっ!! 」

 素早く歳三が突っ込む。

 総司は珍しさに少し黙った後、吹いた。歳三が顔まで赤くしていたからだ。おかげで総司は笑いをこらえることに全精神力を使わなければならなかった。

 歳三の怒りが頂点に達する前に総司は押入れから紫の傘を出す。

「行ってきますよ」

 総司は歳三に言う。

 歳三は総司の変わりように何か口の中で文句を言っていたが結局はっきりした音にならない。歳三はそれらをまとめてため息で吐き出した。

 そこへ総司が戻って顔を出した。

「土方さん。さっきの面白かったです」

 いたずらの笑顔を総司は歳三に向けた。


 総司はそれから屯所の中を駆けていく。

 もちろん、歳三から逃げるためだ。

「おお? 総司また、土方さんを怒らしたな? 」

 総司とすれ違った原田左之助が言う。最早、総司と歳三の鬼ごっこは屯所内では当たり前の風景だ。

「いいじゃねえか」

 ひょっこり、永倉新八が左之助の後ろから声をかける。左之助が持っている荷物を新八は持ち上げる。あれが無いとつまらない、と続けながら。

 総司はそのまま走り抜ける。

「ごめんね」

 夕希の隣を走り抜け、平助で道を塞ぐ。

「ちょ、総司ィ!! 」

 そのせいで、一緒に歳三に追われる羽目になった平助は総司の隣を並走する。

 ところが総司は玄関まで来ると表に出てしまう。自分の緑の傘を持って。

「そんなあっ!! 」

 後は平助の悲鳴が残った。


 総司は外に出ると一息ついた。

 少し肌寒い空気が総司を撫でていく。雨は冷たい。

 総司は笑みをこぼした。明らかに総司は変わった。今までより、ずっと素直になれたし、本当の意味で一人ではなくなった。

 総司は緑の番傘を差す。


「あーあ、買う物たくさんあり過ぎ」

 総司は重くなった籠を背負いながら文句を言う。

 雨は相変わらずだ。

 その時、総司は見慣れた後ろ姿を見つけた。人ごみの中に。

 その人は雨だというのに傘を持っていない。雨に打たれるまま歩いている。人ごみに紛れて今にも見失いそうだった。

 総司は人を掻き分けながら進む。

「傘、貸してあげる」

 総司は緑の傘を差しだした。

 代わりに紫の傘をさす。

「ありがとう。でも、総司、私の傘じゃないよ? 私の傘はそっちの……」

 続きの言葉を総司は言わせない。

「夢だと嫌だから、屯所に戻ろう? 神華」

 総司の目線の先には神華がいた。少し背が伸びている。赤い髪は後ろでひとくくりにされている。紅の瞳は相変わらず透き通っている。異国の服装は目立つ。

「せっかくの再開なのに、こんな天気で残念だわ」

 神華が膨れて文句を言った。

 だけれども、総司は笑った。

「いいじゃない。僕らにはこっちの方がお似合いだよ」


 二人は歩き出す。

 もう、一人では無い。

 悲しい表情はもう、ない。二人の間には確かな絆があった。


 二人が去った後に雲は晴れて綺麗な夕焼けが空を真紅しんくに染めていた。


こんにちは。

作品を呼んでいただき、ありがとうございました。


個人的には上手くいった作品だと思います。

楽しんでいただけたなら幸いです。

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