これも青春ってか? ……嫌な青春だよ。
最終話投稿。これでラストショッピングはお終いです。
俺はセツナにどう気持ちを伝えればいいのか、散々悩んだ。悩んで悩んで答えは出たのかというと、まあ出なかったりする。いやだって仕方ねえよ。あいつ以外に異性とのつきあいがなかった俺が、女心なんてわかるわけねえ。
そこで俺は発想を変えてみた。俺が今までされて一番嬉しかった事をしてみよう。それしかないと思った。そりゃセツナと俺は考え方が違うけど、うだうだ悩むよりずっとましだ。
そのための行動中、俺の顔を見た店員さんに「ケンカした彼女のご機嫌取りですか?」と笑われながら問われた。もちろん「全然違います」と全力で否定してやった。
さて準備万端いざ出陣となった段階で気づいた。あれ、セツナってどこに居るんだ?
薬局かと思ったが、さすがにもう買い終えただろう。ということは、俺がいると思っている屋上に向かったか。……また屋上に戻んのか。それはそれで、なんか微妙な気分になるな。
そうもいってられず、俺は屋上に向かった。ガラス戸を引き開け、夕焼けが目立ち始めた空の下に出る。まだ少し寒い春風が、容赦なく吹きつけてきた。小さな屋上遊園地がある区画を背に、俺が座っていたベンチがある憩いの区画を見回すと、すぐに綺麗な黒髪を、風に任せるままでいるセツナが目に入った。
ドキッと胸が高鳴ったような気がしたが、ないないと無理やりなかったことにする。
トヨキチさんが気をきかせたのか、その姿は見受けられない。妙な安堵を覚えつつも、とにかく声をかけるべく近づく。
「よっ、セツナ。元気にしてるか」
第一声から間違った。なんだよ、この久しぶりに姪にあったおじさん的挨拶は。緊張だけはどうにか顔に出さず、セツナの反応を怖々と待った。
しかし、セツナは無反応。俺の愛想笑いがひきつるのに、時間はかからなかった。
「あの、セツナさん。なにかしらのリアクションをとっていただけたら、たいへんありがたいのですが」
俺のかなり情けない第二声に、ようやくセツナがこちらを見てくれた。
「……どこに行ってたの、臓物くん」
その罵倒には、もはや弱々しさしか感じることができなかった。俺の胸がキュッと痛む。
「まあ、いいわ。顔もっと近づけて。手当てするから」
「……ああ。助かる」
痛みはだいぶ収まっていたが、それでも素直に礼をいう。
セツナの手当ては鮮やかなもんだった。これも極道という生傷が絶えないお家柄のおかげか。
頬の手当てのため、必然的に互いの顔が近くなる。しかし俺はそのもの悲しげな表情に、ますます胸の痛みが強くなった。
ガーゼを張り、テープで固定しようとする最中、セツナが唐突に口を開いた。
「手当が終わったら、私は帰るわ。アンタの監視はトヨキチに任せておくから、せいぜいタイムリミットまでに、バカげた夢を果たすことね」
目線を軽く逸らし、口を引き結んで躊躇した後、セツナは最後にこうつけ加えた。
「……悪かったわ。アンタの邪魔して」
「いや、お前は悪くねえよ。だってアレ、半分嘘だから」
「え? ……どういうこと?」
そう問いながらも動かす手を弛めず、セツナは手当てを終わらせた。俺は「サンキュ」とセツナに礼をいうと、屋上の柵にもたれかかり、街並みを後ろ見た。
「ねえ、さっきのどういうことなの。半分嘘って、何が?」
俺の緩慢な動作に焦れたセツナが、柵に手をかけ、横目で訊いてくる。俺は目線をセツナに移して、苦笑いを浮かべた。
「ちょっとだけ、俺のバカな昔話につき合ってくれるか。バカさ加減なら、バイト中料理鷲掴み事件に優るぞ」
「……聞かせて」
セツナはためらいながらも、冗談混じりの言葉に真摯な態度で応じてくれた。それに俺の苦笑いが、喜びの笑顔に変わる。ゆっくりと、懐かしむように、俺は昔話を語り始めた。
「中一になる直前、大好きだったじいちゃんを亡くした男の子が居た。両親から愛情すら貰えなかった男の子は、唯一自分を愛してくれたじいちゃんが死んだことに深く傷ついた。傷つき過ぎて、前を向いて生きられなくなった。バカな男の子は、じいちゃんの遺産を貪るクソ両親を憎み、不良との喧嘩でうさを晴らそうとして、逆に暗くなる一方だった。いつしか地区最凶の不良のレッテルを張られた男の子は、クラスでも避けられ、学校にも居場所がなくなった。男の子は完全に孤立した。そのはずだったんだけどな。中一の夏、あいつが転校してきたんだ」
その温かくも優しい思い出を、泣き笑いのような表情で語る。
「フーカっていう、口の悪いがさつな女の子。だけどバカがつくくらいお節介でな、転校したてだっていうのに、クラスで孤立している男の子をどうにもほっとけなかった。もちろんいじけていた男の子は、初めは抵抗した。でも、あいつは無遠慮に男の子を遊びに引きずり回し、プライバシーに土足で踏み込んできやがった。それが不思議と上手くいったんだよな。もちろんいざこざはあったさ。でかい喧嘩もした。でも、本気でぶつかり合えたからこそ、親友になれたんだ。そこでようやく、男の子は気づいた。
自分はじいちゃんを亡くしても、一人で生きてるんじゃない、様々な人との絆があるから、生きていけるんだと。なにより自分は、そんな温かさを欲していたんだと。フーカは大切な事に気づかせてくれた、本当に大事な絆で結ばれた親友だ。――なのにだ。男の子は絆を断つような、最悪な事をやっちまった」
ほんと最悪なことだ。いくら自分を罵っても足らないくらい。
「次の夏、フーカはまた転校することになった。男の子は悲しんだが、ある事へのお礼をしようと張り切った。でも無茶し過ぎてな、疲れて道端で眠りこけてしまって、お礼をするどころか見送りにすら、少しの差で間に合わなかった。……ほんとすげえバカなやつだ。お礼なんて、んなもんよりも大事なものがあるのに、あいつの泣き顔を見るまで気づけなかった。ほんとバカだ。死んでしまえとすら思えてくるな」
柵から背を離し、俺はセツナに自嘲気味に笑った。
「これがすげえバカな話。滑稽だろう。笑い飛ばしてもいいぞ。本当にバカなんだからな」
だが、やはりセツナは笑わなかった。それはそうだろう。
「……笑えないわよ。私なんて……もっと最悪な事を、友達にしたんだから」
セツナもまた、親友を裏切るような事をしていたのだから。
今でも鮮明に思い出せる痛みに、セツナは泣きそうな顔をしている。
その顔を見て俺は思った。俺が選んだことは間違いではないと。この胸の痛みに正直に動いた俺は、今度こそ間違えていないと。俺は優しくセツナに微笑んだ。
「だから俺はもう、絆は断たないって決めた」
「……え?」
突拍子のない俺の言葉に、悲しみではない何かでセツナの瞳が揺れている。
「さっき俺の夢は半分は嘘っていったよな。確かに俺は高校生らしい買い物がしたいとずっと思っていた。でも買う物は、中学のあの日から決まってた」
懐から、あのお守りを取り出す。
「これ、フーカからの生まれて初めての誕生日プレゼントなんだ。じいちゃんは物より思い出派だったし。まあパッと見、ただの小汚いお守りにしか見えないかもしれない。けどな、ずっと俺の心の支えになってくれた。貰った時はすげえ嬉しかったなあ。……だから、俺はお返しがしたいとずっと思っていた。別れは最悪だったけど、いつかまた会った時に、今度は大事な事を忘れずに、心を込めて贈れるプレゼントが、俺はずっと欲しかった」
「……そう」
セツナは俯いた。顔から心をのぞかれるのを嫌がるように。でも俺は、無様に動揺したりはしない。この哀しみがとめられると、自分を信じてみたからだ。
お守りをしまい、代わりに懐から丁寧に包装された、四角い箱を取り出す。
「それが彼女へのプレゼント?」
セツナの問いに、俺は肯定も否定もせず、ただじっと大事な贈り物を見つめる。
「私って、アンタの邪魔ばかりしてたわね……」
無言でセツナに目線を動かした。じっと、俯くセツナを見つめる。顔は良く見えないが、セツナが泣きそうなのはなんとなくわかった。
視線に耐えかね、セツナは急に背を向けた。一瞬だけ俺に微かに濡れた目を遣ると駆け出す。
セツナは逃げた。俺の全てを拒絶するかのように。
……そりゃあ逃げたいだろうな。ただでさえ必然の別れがある俺から、逃げたいはずだ。ナコさんの事があったしな。更に相手に拒絶されているかもしれないと考えると、怖くて怖くて逃げ出したくなるよな。断たれた絆の痛みを知るお前なら。
でもな、それを許してやる俺だと思うなよ。
「逃がすかぁ!」
もはや雄叫びに近いくらい声を張り上げ、ターゲット・ロックオン。目標、バカで意地っ張りで寂しがりやの女の子に向かって走り出す。
「え? えっ? なに、なんなの」
突然の俺の叫びにびっくりしたセツナが、後ろを振り向く。
「待てっ! このてめえ、逃げんな!」
「……ひっ。く、来るな!」
たぶんものすっごい形相をしてるだろう俺に、セツナは悲鳴を上げ、ものすごい勢いで走る。ちょっと傷ついたが、これくらいでへこたれてる場合じゃねえ。
「待て! とまれ!」
「絶対いや! ついてこないで!」
「いいからとまれっていってんだろうがぁ!」
「その顔キモイ! ついてこないでよストーカー!」
「誰がキモイだ! ていうかストーカー呼ばわりすんな!」
「じゃあ追うのやめなさいよ! ついでに息すんのもやめて!」
「それはできねえ相談だな! 俺はお前と話す事があるんだよ!」
「アンタと話すことなんかないわよ! そのキモ顔、見たくもないの!」
「いやあるね! ありまくりだね! 話してくれるまで、誰が諦めるかよ!」
屋上からひたすら下へ、下へ、俺とセツナが全力疾走する。周りの迷惑なんて考えちゃいない。これぞまさしく青春ってか。ったく、こんなんで体験するとは思わなかった。
セツナはとことん粘りやがった。デパート内をちょこまか逃げ、なかなか差が縮まらない。でも体力に差があるから、デパートから出て暫くもしない内に、ようやくあと少しというところまで追いついた。
「…………はあ、はあ……いいかげん……諦めなさいよ…………」
「……だから……はあ……話するまで……はあ……とまんないって…………」
「……もうっ!」
ようやく観念してセツナがとまった。俺も足をとめ、前屈みになって息を整える。視線を上にやってみる。セツナはつっ立ったまま、俺の方を向かずに呼吸を静めていた。
あー、とまったはいいが、コイツ絶対振り向かないだろうなー。意地っ張りだし。
息を整え終わり、背を真っすぐのばして、俺を拒むような背中を見つめた。
俺達はデパート近くの公園に居た。夕日はいつの間にか沈んでおり、夜の帳に包まれている。街灯がセツナの背を淡く照らしていた。
「…………それで、なに?」
セツナがつき放すように呟く。
「あのな、お前ってバカか?」
そんなセツナの心をほぐすように、冗談じみた口調で切り出す。
「はあ? なに、喧嘩売ってるの。散々追いかけ回してそれ?」
「お前は二つ勘違いしてる」
セツナの心がほぐすのを通り越して爆発する前に、本題をすぐさま続けた。
「俺の邪魔ばかりしたっていってたよな。そんなわけねえだろうが。答え聞く前に逃げ出すな。確かに、俺にあれだけ酷い目見せてたら、邪魔者にしか思ってないと勘違いするのも無理ないよな。でもみくびるなよ。これでも不幸には慣れてんだ。あんなもん屁でもねえ。それどころかな、凄く楽しかったさ。久しぶりに楽しいと思えた」
「……嘘つき。そんなわけないじゃない」
やはり拒絶するセツナに、塞がらない傷に触れる事を、静かに決意する。
「ナコさんの話は聞いた」
「トヨキチ、余計なまねを……」
セツナはギュッと拳を握った。
「それじゃあ何? それって同情ってわけ。だったらやめて。迷惑なのよ」
俺はこれでもかというほど、大きなためいきをついた。セツナがムッとする気配が伝わる。
「なにその生意気な態度? ため息つきたいのは、こっちだっていうのに」
「あのな、なんでお前はそうやって人の心を考えない」
「……どういう意味よ」
俺はセツナの背に向かって一歩踏み出す。セツナの肩がびくりと震えたが、逃げようとはしなかった。
「どういう意味じゃねえよ。なんでお前は、すぐ逃げようとするんだっていってんだ。そんなに人の本心を知るのが怖いのか? 拒絶されるのが怖いのか? ナコさんの時だって、傷つけたくないのもあったろうが、それより拒絶されるのが怖いから、自分から先に拒絶して逃げたんだろ。これから先そうやって生きていくつもりか? それじゃああんまりにも寂しいだろ」
「アンタなんかにわかんないわよ。私の気持ちなんて」
「いいやわかる。お前はじいちゃんが死んだ時の俺と同じだ。人が恋しいのに、意地になって誰とも関わろうとしないバカだ。自分を想う人のことぐらいわかれよ。いや、そうじゃないな。それよりもまず、自分の心に素直になれよ。本当はナコさんとずっと居たかったんだろ」
「……うるさい。うるさい、黙れ大バカ!」
怒りをぶつけるように、セツナが吠えた。でも、俺には泣いているようにしか見えない。
「素直になんてなれるわけないじゃない! 相手の気持ちなんて全然、わかんないよ。そんな見えないものの前で、正直になるのは怖いのよ。もし拒絶されたらって考えると、怖くて怖くて仕方がないの! だから……だからぁっ」
セツナはそれ以上言葉にする事ができなかった。嗚咽をこらえるのに必死で、手で胸を押さえている。そんなセツナに、俺の胸は何かでいっぱいになった。
静かに、セツナとの最後の距離を詰め、後ろから包み込むようにその手を握る。セツナが思わず顔だけ振り返り、俺を見つめた。
「だったらな、俺が目に見える気持ち、やるよ」
そう囁くと、握った手とは逆の手で、小さな四角い箱を取り出す。壊れ物でも扱うように、優しくセツナの手に握らせた。
「たく、人の話は最後まで聞けって教わらなかったのか? 俺だってこれ、結構恥ずかしいんだぞ。なんたって初めて人にあげるプレゼントだからな。それでも頑張って渡そうと思ったのに、勝手に逃げて。ますます恥ずかしい渡し方になったろうが」
「…………え?」
セツナはまだ状況がわかっていないのか、呆然と俺からの贈り物を見つめていた。
「まあ、うん。開けて見ろ」
セツナがいわれた通りに動くロボットのように、ぎこちなく包装紙を破り箱を開ける。
「……あ」
中に入っているのは天使の羽を模したピアスだ。セツナが短い驚きの声を上げる。
「お前が散々勝手に金を使ったから、あんまり高いものじゃないけどな。全財産はたいたプレゼントだ。死んでも大事にしろよ」
「これ、私に?」
「そうだよ。お前以外に誰がいる」
「でもフーカって子が……」
「もちろんフーカのプレゼントもいつか買うさ。大事な親友だからな。でもな、俺は今しか渡すことができないお前に貰って欲しいんだ。……その、お前も俺の大事な絆の一人だから」
セツナはやっと、身体全てを俺に向けてくれた。溢れ出る感情で頬は赤くなっていて、瞳は微かに潤んでいた。俺は照れた笑いで迎え入れてやる。
「俺の気持ち、伝わったか?」
セツナは何も答えなかった。答える代わりに俺の胸にしがみつき、顔をうずめて、小さく、本当に小さくだけど頷く。俺はセツナの背中を優しく抱いた。
充実感が俺を満たしていた。今度こそ後悔せずに済んだからか? セツナに俺の気持ちが伝わったからか? それもあるけど違うな。そんなことよりも、やっとセツナが自分に素直になってくれたから、こんなにも満たされた気持ちでいられるんだ。
俺は久しぶりに幸せな笑顔で笑った。
……だが、ここである重要な事に気づく。
ちょっと待てよ。ハッピーエンドに終わったけど、よく考えると、俺って全然ハッピーじゃないよな。だって俺、もうすぐ臓器を全部抜き取られるし。
うわあ、しまった! すっかり忘れとった!
逃げるのは簡単……とまではいかなくても、やれるはず。今まで色んな修羅場を経験してきたから。でもな、俺の気持ちやるよとかいってカッコよくプレゼント渡したのに、逃げ出すってどうだ。まんま裏切りみてえじゃねえか。くそ、どうする、どうすりゃいいんだ?
そんな無様に慌ててばかりいたから、俺は気づけなかった。セツナが震えている事に。ここで普通なら、嬉し泣きしていると思うだろう。だけどコイツはセツナだ。嬉し泣きのはずなかった。……ここで気づけば、逃げることだってできたのになあ。
「……ぷ」
その音が、セツナの笑い声だと気づいた時には、もう遅かった。
「ぷっ、あははははははは! あは、ははははははははは!」
バカみたいにわき目も振らずに、セツナが笑う。はあ? なにこいつ、なんで笑ってんだ?
「あははは! なに、なにその臭すぎる演出? 元々私が恵んであげたお金なのに『目に見える気持ち、やるよ』ってプレゼント買って渡して、『俺の気持ち、伝わったか?』って。くさっ! よくそんな人間離れした、くさーい演出やるわねえ。さすが臓物くん!」
そういいながら、セツナは嬉し涙ではなく、笑い涙をぬぐう。
「それにその顔、解体ショーから逃げたいけど、私を置いて逃げられないって考えてたんでしょう? 安心して、あれ冗談よ。死なないくらいに臓器を抜くだけだったから。うちの組はね、麻薬と素人さんを殺すことだけはしないのよ」
お前、俺をだまして楽しんでたんかい。てか、死なないくらいでも臓器抜くなんて、十分怖いわ。トヨキチさんが命に別状がないっていってたのは、このことだったのか。
そう思いながらも、命だけは助かるとわかって安心していた俺は、ほんとバカだった。
「でもね、臓器ももういらないわ」
悪魔娘が、哀れな生け贄の俺に告げる。
「代わりにアンタは私が買ってあげる」
……ん? 買う? アホかこの娘。この場合飼うが正しいだろ。あまりの事態に、俺の脳味噌がぐずぐず腐った。
「今からアンタは一生私に尽くすの。なに、簡単な事よ。臓物から家畜になるだけだから。可愛くて美人なご主人様に精一杯ご奉仕すれば、エサもちゃんとあげる」
……家畜? エサ? わあーい。だったらこれからずっとお腹空かなくて済むぞー。
「これからもよろしくね、家畜くんっ♪」
悪魔女が、詐欺そのものの天使の笑みを浮かべる。そこでようやく正常に戻った。
「なんじゃそりゃー!」
それと同時に叫んだ。この理不尽な世の中に。この悪辣外道悪魔女に買(飼)われる現実に。声が涸れるまで叫び続けた。
そんな自分にいっぱいいっぱいな俺を、セツナは微笑みながら見つめていた。
頬を薄い朱色に染め、本当に小さく、誰にも秘密にするようにつぶやいた。
「……ありがとう、――」
俺の名を呼んだ素直な言葉は、俺のバカみたいにでかい叫び声に、ひっそり隠れた。
中途半端な終わり方かもしれませんけど、もともと短編で書いていたものなので、この話はこれで終わりです。続きは他の話も掲載していますので、申し訳ないですけどたぶん書きません。
拙い文章にお付き合い頂き、ありがとうございました。