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「……いい。完璧だわ。この、見る者の美意識を根底から破壊するような冒涜的な色彩。そして、無意味に高価な素材の無駄遣い。これこそが今のガリアーディ家に相応しい『格付け』ですわね」


私は屋敷の広大なホールを見渡して、満足げに鼻を鳴らした。

目の前には、私が「ガリアーディ家秘蔵品・特別展示会」と銘打って、伯爵の許可(という名の、息子への甘やかしによる全権委任)を得てかき集めた品々が並んでいる。


黄金で装飾された「動かない時計」、希少な魔獣の皮で包まれた「中身のない本」、そして極めつけは、先代伯爵が酔狂で買い叩いたと言われる「伝説の呪いの石(ただし、見た目はただの大きな泥団子)」。

これらを、私は最高級のベルベットの上に並べさせた。

招待客は、この間私に煮え湯を飲まされた令嬢たち、そして、あの中身が空っぽのキラキラ王子、ルシアンだ。


「……ベリサリア。一つ確認だが。君が『伝説の聖遺物』として中央に鎮座させているその泥の塊……。私の記憶が確かならば、それは昨日、庭師が池の掃除をした際に掘り出したただの粘土層の一部だ。それを一千金貨で売却しようとしているのは、もはや詐欺というよりは芸術的な恐喝だな」


背後から、相変わらず氷点下の声をかけてくる男がいる。ヴァレリウスだ。

彼は、私が屋敷の財産を私物化し、あからさまに「ガリアーディ家の名声を泥に塗る」ような真似をしても、止めるどころか特等席でその「崩壊」を観察している。


「あら、失礼ですわね。これは『悠久の時を経て、大地の魔力と庭師の汗を吸い込んだ、沈黙の守護石』ですわよ。価値というものは、それ自体にあるのではなく、どれだけ馬鹿な相手に高く売りつけるかという『物語』に宿るのです。貴方のその、カチコチに凍りついた合理性では理解できないかしら?」


「物語、か。……確かに、君が嘘を重ね、人々を欺くその様は、どんな叙事詩よりも非論理的で美しい。構わん、続けろ。君がこの屋敷の名誉をすべて叩き売った後、残った『無一文の君』を私がどうやって買い直すか。その再計算を今、始めたところだ」


「……買い直す? 冗談はやめて。私はその金を持って、貴方が一生かかってもたどり着けない僻地の漁村で、毎日新鮮な魚を罵倒しながら隠居するんですのよ」


私が彼を睨みつけたその時、ホールの扉が重々しく開かれた。

現れたのは、まるで自分が神々の化身であると信じて疑わないような、過剰なオーラを放つルシアン王子だ。


「ベリサリア! 私の小鳥。君からの招待状を読んだ瞬間、私の心は春の訪れを知ったロック(巨鳥)のように囀り始めたよ。昨夜の君の言葉は、私の魂を浄化する聖水だった。……さあ、君が私に見せたいと言っていた『運命の輝き』とは、どこにあるのかな? ああ、ヴァレリウス。君もいたか」


王子の背後には、彼の熱烈な信奉者である令嬢たちが、私を殺さんばかりの視線で睨みつけながら従っている。

私は「プロの商人スマイル(殺意100%配合)」を浮かべ、中央の泥団子――もとい、聖遺物を指し示した。


「……お目が高いですわ、王子様。こちらこそが、ガリアーディ家が数百年の沈黙を破って公開する、唯一無二の至宝。名付けて『真実を映す無垢なる塊』ですの」


私は、昨夜考え抜いたデタラメな設定を滔々と語り始めた。

曰く、この石には人の欲望を吸い込む力があり、純粋な心を持つ者が触れれば黄金に変わり、卑しい心を持つ者が触れればそのまま石にされる……。


「……ふ。ルシアン、気をつけろ。その『聖遺物』は、触れた者の知能指数を所有者のレベルまで引き下げるという、恐ろしい呪いがかかっているらしいぞ」


ヴァレリウスが横から、最低の嘘を被せてきた。

(余計なこと言わないでよ! 私の詐欺計画が台無しになるじゃないの!)


だが王子は、ヴァレリウスの言葉を「自分への挑戦」と受け取ったらしい。

彼は優雅に顎を上げ、泥団子の前に立った。


「ヴァレリウス。君は相変わらず不粋だね。ベリサリアが用意したこの試練、私が受けて立とうじゃないか。……君への愛が真実であれば、この石は輝くはずだ!」


王子が泥団子にその白く細い手を触れた。

一瞬の静寂。

招待客の令嬢たちが息を呑み、ヴァレリウスが冷徹な瞳を細める。


当然何も起こらない。起こるはずもない。

泥は泥。昨日掘り出されたばかりの、ただの土の塊だ。


「……あ、あれ? 輝かないぞ? 聖水が、足りなかったかな?」


「王子様、落ち着いて。これは『心の純粋さ』が試されているのですわ。貴方の心が、あまりにも複雑に絡み合った『美しさ』ゆえに、石が解析に時間を要しているのですわ。……さあ、皆様も。この石に触れ、ガリアーディ家への誠意(金貨)を見せるのです! 一回につき、金貨十枚ですわよ!」


私は、もはやヤケクソで周囲の令嬢たちを煽った。

「おもしれー女」が主催する、怪しげな宗教勧誘『ユニ・サクリファイス(誰かの幸せのために、誰かを「犠牲にすることを推奨する慈善団体)』のような展示会。

普通ならここで「詐欺だ!」と糾弾されるはずだ。だが、今の私はガリアーディ家の婚約者候補という最強の盾を持っている。そして、ヴァレリウスが背後で「……興味深い。集団心理の崩壊現場だ」と呟きながら、私の不敬を肯定している。


令嬢たちは王子に倣い、競うように泥団子に触れ、私の差し出した金貨袋に(顔を歪めながらも)金を放り込み始めた。


「……ベリサリア。君のその、恥という概念をどこかに埋葬してきたような商魂。……素晴らしい。君は、この社交界という虚栄の戦場において、唯一『本物』を扱っているな。……『無価値なものに価値を捏造する』という、神にすら等しい不遜さだ」


ヴァレリウスが、私の腰をそっと抱き寄せる。

その指先の冷たさが、ドレス越しに伝わってきて、私は思わず彼の足をヒールで踏みつけた。


「……離れなさい。貴方のその、何でも美学に昇華させる脳内変換が一番気持ち悪いですわ。私はただ、この馬鹿な連中から金を巻き上げて、貴方の元から逃げるため(根回し)の軍資金を作っているだけですのよ」


「逃げる? 君はまだ、理解していないのか。……この泥団子に群がる人々は、私そのものだ。君という『理解不能で無価値(と君は思っているが、私にとっては至高)』な存在に、皆が必死に価値を見出そうとしている。君はすでに、この社交界の『偶像』となったのだよ、ベリサリア」


(偶像って。ただの詐欺師の間違いでしょ!?)


その時、一際大きな声を上げたのは、縦ロールこと、レティシアだった。

彼女は屈辱を晴らすべく、血眼になって泥団子を凝視していたが、ついに何かを見つけたらしい。


「――あー!! み、皆様、騙されてはいけませんわ! 私は見ました! この石の下から、さっきミミズが出てきましたわよ!!」


会場に激震が走る?

泥団子からミミズ。あまりにも現実的で、あまりにも「聖遺物」からかけ離れた事実に、王子も令嬢たちも、泥団子のように固まった。


「……ミミズ? あら、失礼。それはこの石が守護する『大地の化身』ですわ。貴女のように、他人のアラを探すことに全神経を尖らせている方には、ただの不潔な虫に見えるのかもしれませんわね。……残念ですわ、レティシア様。貴女、せっかくの『真実を映す石』に拒絶されてしまったようですわよ?」


「な……っ!? 貴女、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのよ! このペテン師!」


「馬鹿にしているのは、貴女自身のその浅薄な思考ですわ。……さあ、王子様。ミミズは聖遺物の涙、結晶、宝。今すぐ、この石とミミズをセットで、100金貨でお買い上げいただけますわよね? 貴方の私への愛が本物なら、安いものですわよ?」


私は王子のプライドという名の崖っぷちに、特大のプレッシャーをかけた。

王子は一瞬、顔を引き攣らせたが、ヴァレリウスが横で「……ルシアン。君が買わないなら、私がこれを101金貨で買い取ろう。君の愛が、私の『研究費』に負けるということなら、な」と、最悪のガソリンを投下した。


「――買う! 買わせてもらおうじゃないか! この……『大地の化身?』ごと!」


王子が叫んだ。

会場に響き渡る令嬢たちの悲鳴。

私は心の中でガッツポーズを超えた、盛大な勝利の変なダンスを踊っていた。


(……よっしゃあああ!! 100金貨ゲット! ちょろい! ミミズ一匹とそこらの泥で100金貨! これよ、これが私の求めていた『おもしれー女』の正しいブランド収益よ!)


だが私は見逃していなかった。

ヴァレリウスが、王子の腕を掴み、その耳元で何かを囁いたのを。


「……ルシアン。それは今日から、君の枕元に置いておけ。夜な夜なミミズが這い出るたびに、君はベリサリアの『毒』を思い出し、自分の愚かさを噛み締めることになる。……それが、私から君への、最高に合理的な『嫉妬』の表現だ」


王子の顔から、一気に血の気が引いていく。

だが一度「愛の証明」として買ってしまった以上、引くことはできない。


その日の夕暮れ。

客たちが去り、残されたのは、泥だらけの台座と、金貨で膨らみきった私の金庫。

そして満足げに私を眺めるヴァレリウスだ。


「……ベリサリア。今日の君は、一段と輝いていた。他人の自尊心を餌にして、物理的な富を生成する。その過程において、君は一瞬たりとも良心の呵責を感じていなかった。……素晴らしい、やはり君は、私が生涯をかけて解明すべき『悪意の極致』だ」


「……悪意の極致、結構ですわ。私はこれで、明日こそ精鋭の傭兵雇ってこの国を出ます。もう貴方の顔を見なくて済むと思うと、この100金貨の重みが、聖母の抱擁のように優しく感じられますわ」


私は彼に背を向け、自室へと戻ろうとした。

だがヴァレリウスは、私の手首ではなく、私の影をそっと踏んだ。


「……逃げろ。どこへでも。だが、その金貨の一枚一枚には、王家の紋章が刻まれている。君がどこでその金を使おうと、その瞬間に私は君の居場所を特定するのは容易だろう。君が金を使えば使うほど、君と私の『絆』は強固なものとなる。……金という鎖は、物理的な鎖よりもずっと深く、君の魂を私に繋ぎ止めるのだから」


「…………」


私はゆっくりと振り返った。

目の前の男は、狂っている。

自分の家の金を奪われることすら、私を追い詰めるための「トラッキング・システム」として利用している節がある。


「……ヴァレリウス様。……貴方、本当に、死んでも治らないバカですわね」


「ああ。君に治されるのを、心待ちにしているよ」


夜の帳が下りる中、私の「おもしれー女」大作戦は、もはや「どちらが先に常識を壊すか」という、国家存亡の危機へと足を突っ込み始めていた。

私の手元には、大金。

背後には、美貌のイカれたストーカー。

目の前には、ミミズを大事そうに抱えて帰路につく哀れな王子の馬車。


……どうしてこうなったのかしら。私はただ、贅沢に暮らしたいだけだったのに。


私の心の絶叫は、豪華絢爛な伯爵邸の壁に吸い込まれ、ただヴァレリウスの満足げな溜息に変換されるだけだったのだ。

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