■第196話:膠着状態の打破! ……えっ、再戦の前に「ルーティング・ループ」と「TTL(生存期間)切れ」の説教ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・第1開発会議室】
「フハハハッ! 素晴らしい膠着状態だ!!」
神ドラマスは、メインモニターに映る「水路に引きこもる勇者たち」と「広場を埋め尽くすアンデッド」を見て、満足げに頷いた。
「レッドチームは戦略的撤退を選んだが、それは問題の先送りにすぎん! リッチの軍勢は数万のまま無傷! そしてアンデッドは『疲労』を知らん!! 膠着状態が長引けば長引くほど、食料も尽き、精神も摩耗していく人間側が圧倒的に不利なのだ!!」
開発主任の天使も、勝利を確信して笑う。
「はい! ヒナタがどんな小細工を弄しようと、数万の敵をゼロにしない限りボス部屋への再突入は不可能です! 指揮官リッチは、今度こそ安全な後方から一歩も動かず、彼らが餓死するか、痺れを切らして特攻してくるのを永遠に待つだけです!!」
【場所:人間界・王都地下下水道(レッドチーム一時待避所)】
「……ふぅ。なんとか体力は回復してきたな」
ウレタンで封鎖した水路の奥。安全なエアギャップ空間で、アーサーは携帯コンロで沸かしたスープをすすりながら息をついた。
「おう。だがよ、アーサー。これからどうするんだ? 親玉は広場に引きこもって、数万の化け物どもがガッチリとスクラムを組んで守りを固めてる。真正面から突っ込んだら、また幻覚を見せられて過労死(熱暴走)させられちまうぞ」
ゴズが、硬いパンをかじりながら険しい顔をする。
「うむ。膠着状態だ。だが我々には時間がない……。ヒナタ殿、安全圏から少しずつでも敵の数を減らす『魔法のアイテム』か何か、ないのだろうか?」
アーサーが、藁にもすがる思いでSOC(銀行)のヒナタに尋ねた。
「魔法のアイテム(チート)など使いません。ですが、敵の数を『全自動で、少しずつ、確実にゼロまで減らす』バックグラウンド処理なら、すでに実行中です」
通信越しに響いたヒナタの声は、極めて冷静で、そして恐ろしいほどロジカルだった。
『……エッ!?』
アーサーとゴズは、顔を見合わせた。
「じ、実行中!? 一体どうやって!?」
「アーサーさんたちの手元にある iPad Pro を見てください。地下墓地の広域ネットワークマップ(3D地図)を表示しています」
二人が画面を覗き込むと、そこには迷路のように入り組んだカタコンベの通路と、赤く光る無数のドット(アンデッド)が表示されていた。
しかし、その赤いドットの動きは、明らかにおかしかった。
数千、数万という赤いドットの群れが、カタコンベの特定の「ロ字型の通路(環状線)」を、ぐるぐると、ぐるぐると、終わりのないメリーゴーランドのように歩き回り続けているのだ。
「な、なんだこれは!? 化け物どもが、同じ通路の塊をひたすらグルグルと回っているぞ!?」
「はい。敵のボット(アンデッド)は、リッチの『ビーコン(命令の宛先)』に向かって進むプログラムです。そこで私は、王都の地上からドローンを使って、カタコンベの換気口から『4つの極小ハニーポット(偽ビーコン)』を、環状になった通路の四隅(交差点)に落としました」
ヒナタは、SOCのコンソールを叩きながら解説する。
「交差点Aに到達したゾンビは『次は交差点Bへ行け』という偽のルーティング情報を受け取ります。Bに着けばCへ、Cに着けばDへ、そしてDに着けば……再びAへ戻るように設定しました」
「AからB、C、D……そしてまたAへ……?」
「ネットワーク用語で『ルーティング・ループ(経路の無限ループ)』と呼ばれる、設定ミスのバグです! リッチの軍勢は今、完全に宛先を見失い、カタコンベの環状通路という『終わらない無限ループ』の中に閉じ込められて、永遠に行進し続けているんですよ!!」
「ブモォッ!!(なるほど!! 化け物どもはバカだから、目の前にぶら下げられたニンジン(偽の命令)を追いかけて、永遠に同じ迷路をグルグル歩き回ってるってわけか!!)」
ゴズが膝を叩いて爆笑した。
「だが、ヒナタ殿! 奴らを歩き回らせて足止め(遅延)しているのは分かったが、アンデッドは疲労を知らんぞ!? そのままではいつまで経っても数は減らない(膠着状態)ではないか!」
アーサーの疑問はもっともだった。アンデッドは疲れない。歩かせたところで倒れることはないはずだ。
しかし、ヒナタはフッと冷徹に笑った。
「『疲労』はしなくても、『摩耗(物理的損壊)』はするんですよ、アーサーさん。相手は死体です。骨や腐った肉でできているんです。……いいですか、ネットワーク通信において、無限ループに陥ったパケットがネットワークを永遠に圧迫し続けるのを防ぐために、『TTL(Time To Live:生存期間)』という仕様があります」
「TTL(生存期間)……?」
「パケットは、ルーター(交差点)を通過するたびにTTL(寿命)が減り、ゼロになった瞬間に『通信ネットワークから強制的に破棄』されます!! これを物理的なアンデッドの無限ループに当てはめるとどうなるか!!」
ヒナタのロジックが、アンデッドの物理的構造の脆弱性を残酷に突き刺した。
「彼らは疲労を感じなくても、歩けば歩くほど足の骨は削れ、関節の軟骨は擦り切れ、腐った筋肉は千切れていくんです!! 無限の環状線をただひたすらに、何日も何日も歩き続けさせられた死体は、やがて自重と摩擦に耐えきれなくなり、足の骨がへし折れて『物理的に歩行不能(TTL切れによるパケット破棄)』に陥る!!」
『……ッ!!!』
アーサーとゴズは、あまりにも恐ろしい「物理的摩耗による全自動自滅システム」に背筋を凍らせた。
iPad Pro の画面。
何万という赤いドットが環状線をグルグルと回っている。
そして、画面をよく見ると……数分に一回、あるいは数十秒に一回。
『プツッ……』と、赤いドットが一つ、また一つと、静かに消滅しているではないか。
「見ての通りです。関節が外れ、足の骨がすり減り、自らの体重を支えきれなくなった個体から順に、地面に崩れ落ちて『ただの動かないゴミ(廃棄パケット)』へと変換されています。私たちがここでコーヒーを飲んで安全に休んでいる間にも、バックグラウンド処理(無限ループ)によって、敵の数は少しずつ、しかし確実に削られ続けているんです!!」
「な、なんという……。剣も魔法も使わず、ただ『歩き続けさせる』だけで、敵の軍勢の骨を粉々にすり減らして自滅させるとは……」
アーサーは、ITインフラのバグ(無限ループ)を物理攻撃に転用した悪魔的な発想に、ただただ戦慄した。
一方、その頃。
広い部屋の奥(安全圏)に引きこもっていた死霊術師リッチは、全く戻ってこない自らの軍勢に苛立ちを募らせていた。
『遅い!! なぜだ!? 奴らが水路に逃げ込んでからもう数日経つというのに、なぜ我が軍勢は奴らを連れてこない!? 一体どこで何をしているのだ!!』
リッチが骨の杖を振り回して状況を確認しようとするが、彼が得られるログ(報告)は、ただただ「軍勢は現在、目的地へ向かって正常に行進中(※ループ中)」というステータスのみ。
有能な指揮官であるリッチであっても、軍勢が「ちゃんと動いている」ように見える以上、それが「同じ場所を回らされて足の骨をすり減らしている(TTLを削られている)」ことに気づくすべはなかったのである。
「さて、アーサーさん。このまま数日待てば、敵のハードウェア(足の骨)はTTL切れを起こし、数万の軍勢はすべて『ただの骨の残骸』になります。完全に数がゼロ(安全)になるまで、引き続きDRサイトで鋭気を養ってください」
「ああ、了解した、ヒナタ殿。……まったく、君を敵に回さなくて本当に良かったと、心底思うよ」
特級レッドチームは、敵が全自動で自らの足をすり減らして自滅していく心地よいログ(消滅していく赤いドット)を眺めながら、今度こそ完全に安全が保障された究極の休息(リソース回復)を謳歌するのであった。
【場所:天界・第1開発会議室】
『…………(あまりの陰湿さに震え上がる)』
神ドラマスは、自分が設定した「アンデッドは疲労しない」という最強のバフが、最悪の形で逆手に取られたことに、ガチガチと歯を鳴らして震えていた。
『膠着状態という時間稼ぎが……「ルーティング・ループ(無限ループ)」によって、ただの散歩コースに変更され……』
『疲労しないというアンデッドの利点が……「疲労しないからこそ限界を超えて歩き続け、足の骨や関節が物理的に摩耗してへし折れる(TTL切れによるパケットドロップ)」という、最も残酷でロジカルなハードウェアの物理的損壊(全自動自滅)へと昇華されてしまった……』
ドラマスは、深く、長く息を吐き出すと、もはや「チートアイテム」はおろか「指一本すら動かさず」に、敵の数万の軍勢を全自動で少しずつゼロへと削り取っていく凄腕SEの少年の悪魔的ロジックに完全降伏し、通販サイトで「TTL(Time To Live)の設定とルーティング・ループの検知システム」の専門書を即座にポチり、自らの神殿のプロット構成を、いかなる経路のバグに陥っても自動で引き返せる(ループを検知して修復する)完璧な動的ルーティング環境へとアップデートするための、終わらないネットワーク再設計を開始するのだった。
(第196話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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