■第186話:経路確保と一喝! ……えっ、突撃の前に「個別のプロセスキル」と「音声入力によるバッファオーバーフロー」の説教ですか?
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【場所:天界・第1開発会議室】
「フ、フフフ……。ヒナタめ、レッドチーム(データ奪取部隊)を編成したところまでは見事だった。だが、お前は大きなバグ(現実)を見落としている!」
神ドラマスは、メインモニターに映る王都の俯瞰マップを指差した。
「銀行から地下墓地(C2サーバー)までの経路には、依然として数万のアンデッドが敷き詰められている! 隠密行動にも限度がある。いくら精鋭部隊でも、この圧倒的な物理トラフィック(ゾンビの海)を前にしては、一歩進むごとに戦闘を余儀なくされ、地下に着く前にリソース(体力)がすり減って全滅するのだ!」
開発主任の天使が、計算機を弾いてニヤリと笑う。
「はい。対象のレッドチームは3名。対するボットネットは数万。確率論的に、彼らが無傷でサーバー室に到達する可能性は0.001%未満です!」
「さあヒナタよ! C2サーバーの位置が分かっても、そこに辿り着けなければ意味がない! この物理的な大渋滞(DDoS)をどうやって切り抜けるつもりだ!?」
【場所:人間界・王都中央銀行(SOC・レッドチーム出撃ゲート前)】
「ヒナタ殿、レッドチームの準備は完了した。……だが、外のモニターを見る限り、銀行の周辺だけでも数百のアンデッドがひしめいている。これをどうやって突破するのだ?」
艶消しマットの特殊装備に身を包んだアーサーが、僅かに緊張した面持ちで尋ねた。
「おう、俺が盾で跳ね飛ばして道を作るしかねぇだろうが、さすがに数が多すぎるぜ……」
ゴズも、戦斧を構えながら冷や汗を流している。
ヒナタは、SOCの iPad Pro で王宮のEDRチーム(神官たち)とVPN通話を繋ぎながら、平然と答えた。
「力押しは禁物です。まずは、王宮の神官たちによる『リモートからのルート確保(経路の最適化)』を行います」
『こちら王宮EDR監視網! ヒナタ殿の指示通り、対象ルート上のアンデッド(マルウェア)に対し、ピンポイントの無力化パッチ(狭い範囲の浄化魔法)をデプロイする!』
モニターの向こうで、最新のスマート・シーケンサーを構えた大神官が、静かに、そして極めて短い詠唱を行った。
『対象プロセスを特定……実行!』
ズシュッ!
銀行の裏口をうろついていた数体のゾンビの足元に、直径わずか数十センチの「極小の魔法陣」がピンポイントで展開され、浄化の光が文字通りゾンビの脳天だけを正確に撃ち抜いた。
撃ち抜かれたゾンビたちは、周囲に全く被害を出すことなく、パタリと糸が切れたように崩れ落ち、動かなくなった。
「おおおっ!! な、なんという精密さだ!! 以前のような大掛かりな光の壁ではなく、化け物一人一人を正確に狙い撃ちしている!!」
アーサーが感嘆の声を上げた。
「はい。これがEDR(振る舞い検知)によって最適化された『マイクロ・パッチ適用(対象プロセスのみのキル)』です!」
ヒナタは満足げに頷いた。
「システム全体を重くする広域魔法を捨て、脅威だけを個別に『タスクキル(強制終了)』する。これなら神官たちの魔力(CPU)消費も極小で済み、長時間のバックグラウンド支援が可能です」
ズシュッ! ズシュッ!
神官たちの正確なリモート浄化により、銀行から路地裏へと続くルート上のゾンビが、次々と排除されていく。
「よし! 道が空いたぞ! この隙に――」
アーサーたちが裏口のドアを開け、路地へと飛び出した、その瞬間。
『シャァァァッ!!』
路地の死角から、音に反応した数十体のゾンビの群れが、異常な速度でアーサーたちに襲いかかってきた。
『ヒナタ殿! 死角からのポップ(出現)だ! パッチのデプロイが間に合わん!!』
モニター越しに大神官が叫ぶ。
「チィッ! やはり一戦交えるしか――!」
アーサーが大剣を抜き、ゾンビの群れに斬りかかろうとした、その時。
「ちょっと待って!!!」
ヒナタの、敵のシステム的脆弱性を突く「凄腕エクスプロイト・コーダー(ガチギレ・トーン)」が、路地裏に轟音となって鳴り響いた。
『……エッ!?(ピタッ)』
大剣を振り上げたアーサーだけでなく、なんと襲いかかってきていた数十体のゾンビたちまでもが、空中で不自然に硬直し、地面にドサッと落ちてピクピクと痙攣し始めたのだ。
「な、なんだと!? ヒナタ殿が叫んだだけで、アンデッドどもが妖怪の時のように動きを止めたぞ!?」
アーサーが、痙攣するゾンビたちを見下ろして驚愕した。
ヒナタは、銀行のドアから顔を出し、鬼の形相でアーサーの大剣をビシッと指差した。
「あなた!! 何度言ったら分かるんですか! 末端のボット(ゾンビ)を物理的に破壊(斬撃)しようとすれば、こちらの刃が摩耗して、肝心のC2サーバー(地下墓地)に着く前にリソースが尽きるでしょうが!! 物理戦闘を極限まで避けるのがレッドチームの基本です!!」
「ひ、物理戦闘の回避……!? ハードウェアの摩耗……!?」
アーサーは、自らの騎士としての本能(斬撃)を「ただの無駄な消耗戦」としてエンジニアの少年に説教され、大剣をスッと鞘に収めた。
「し、しかしヒナタ殿! なぜ知性(OS)を持たないはずのアンデッドどもが、あなたの一喝で動きを止めたのだ!?」
「妖怪のように言葉(意味)を理解して止まったわけではありません!」
ヒナタは、痙攣して動けないゾンビたちを冷徹に見下ろした。
「ゾンビというマルウェアは、『人間の発する音や動きを検知して追従する』という極めて単純なI/O(入出力)プロセスで動く軽量なボットです! つまり、奴らの『音声入力バッファ』は非常に小さく設計されている! そこに、私のこの極めて声量の大きな、かつ特定の周波数を含んだ大容量の音声データを叩き込めば、どうなるか!!」
「お、音声データの叩き込み……!?」
「入力値の限界を超えたデータ(一喝)を受け取ったゾンビの音声処理プロセスは、メモリ領域を溢れさせて『バッファオーバーフロー(致命的エラー)』を起こし、適切に例外処理を記述していないが故に、システム全体が『ハングアップ(一時的なフリーズ)』を引き起こすんです!! これは説教ではなく、物理的な『ハードウェア割り込み(NMI)』を利用したゼロデイ攻撃ですよ!!」
「バ、バッファオーバーフロー……!? NMIを利用した音声ハッキング……!?」
セバスチャンは、勇者の気迫(一喝)を「ただのプログラムの欠陥を突いた音声パケット攻撃」として解説され、目を白黒させた。
「今日から、徹底的な『例外処理の欠落の悪用』と『シン・音声バッファオーバーフロー(非破壊制圧)プログラム』をルート確保の標準手順とします!!」
ヒナタは、四次元リュックから、「光を反射しない艶消しマットブラック仕上げの、軍用・超指向性パラメトリック・スピーカー」と、「艶消しマットブラックの『iPad Pro(特定周波数ジェネレーター)』」を取り出し、アーサーに手渡した。
「アーサーさん! 敵と遭遇したら、剣で斬るのではなく、このマットなスピーカーから『私のガチギレ音声データの圧縮パケット』を指向性ビームとして敵の群れに照射しなさい!! 対象の音声入力バッファをオーバーフローさせて数秒間フリーズさせ、その隙に戦闘をバイパス(回避)して進むのです!! ゴズさん、フリーズした敵を盾で押しのけてルートを開拓して!! ヴァレリアさん、死角は神官たちのマイクロパッチで随時クリアリング(タスクキル)させなさい!!」
「ブモォッ!(おう! 固まった化け物どもを、ただの障害物としてどかしながら進めばいいんだな!)」
「ふむ。敵を殺すのではなく『思考』を一瞬だけ停止させ、その隙を駆け抜ける……無駄な血を流さない、究極の隠密行だな!」
「【究極のゼロデイ・エクスプロイト(脆弱性攻撃)&シン・非破壊ルーティング(戦闘回避)プログラム】です!!」
アーサーが、ヒナタから渡されたパラメトリック・スピーカーを構え、路地の奥から現れた新たなゾンビの群れに照射した。
『――ちょっと待って!!!(超音波で圧縮されたヒナタの怒声)』
その指向性音波(異常パケット)を「耳」で受信した瞬間、数十体のゾンビたちが一斉に『ビクゥッ!』と硬直し、システムエラーでその場に崩れ落ちた。
『おおっ……!? な、なんだこれは……! 大剣を振り回して体力を消耗せずとも、この漆黒のスピーカーから放たれる「ヒナタ殿の怒り(異常データ)」だけで、化け物どもが無力化していく……! しかも、神官殿の精密な狙撃と組み合わせれば、我々は一切の物理戦闘を行うことなく、完璧なステルスで地下墓地(敵の中枢)まで到達できるぞ……!!』
アーサーは、最新のサイバー攻撃(音声ハッキング)の圧倒的な効率性と、リソースを全く消費しないエコな進軍(非破壊ルーティング)に感動し、無謀な斬り合い(無駄なトラフィック処理)を速やかに破棄して、マットブラックのスピーカーを構える「特級エクスプロイト・オペレーター(バッファオーバーフロー実行役)」としての任務を開始した。
数時間後。
そこには、無限に湧くアンデッドと馬鹿正直に剣で斬り合い、地下に着く前に力尽きるレガシーな騎士たちの姿はなかった。
ヒナタの「一喝」を録音したパラメトリック・スピーカーをクールに使いこなし、敵の入力処理の脆弱性を突きながら、一切の無駄な戦闘(リソース消費)を避けて最短経路を無傷で進軍する「王都認定・特級レッドチーム(兼・脆弱性攻撃スペシャリスト)」として、極めてロジカルに地下墓地の深淵へと潜行していく特殊部隊の姿があった。
【場所:天界・第1開発会議室】
『…………』
神ドラマスは、手に持っていた「終わらない消耗戦で勇者軍が力尽きるシナリオ」を、無言でシュレッダーにかけた。
『神官の浄化魔法による支援が……「重いフルスキャンの廃止と、マイクロ・パッチ(個別プロセス・キル)による軽量化」として最適化された……』
『知性のないアンデッドへの気迫(一喝)の効果は「オカルトな威圧」ではなく、「音声入力バッファの小ささを突いたバッファオーバーフロー攻撃」と論理的に解釈され、パラメトリック・スピーカーによる無力化兵器にされてしまった……』
ドラマスは、深く、長く息を吐き出すと、もはや「数万のゾンビによる物理的な障害物(トラフィックの大渋滞)」すら「敵システムの例外処理の甘さを突いた脆弱性攻撃」として凄腕SEの少年に完璧に論破され、戦闘を完全にバイパス(回避)されてしまうことに完全降伏し、通販サイトで「エンタープライズ向け・エッジデバイス用入力値サニタイズ(無害化)ツール」と「セキュアコーディングの専門書」を即座にポチり、自らの神殿のすべてのアンデッド(マルウェア)のソースコードに、いかなる異常な音声パケット(怒声)を受信しても絶対にフリーズしない完璧なエラーハンドリング(例外処理)を実装するための、終わらないリファクタリング(デスマーチ)を開始するのだった。
(第186話・完)
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