■第125話:心を読む妖怪・覚(さとり)! ……えっ、心を見透かす前に「不正アクセス」と「共感疲労」の説教ですか?
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【場所:天界・管理室】
「……フゥー。水槽のアクアリウムを眺めながら、プロットの整合性を確認する。実にクリエイティビティが高まる時間だ」
神ドラマスは、蟹坊主の教訓から導入した卓上アクアリウムの横で、自らの神話設定に矛盾がないか厳しくチェックしていた。
画面の中では、ヒナタたちが人の気配が全くない、鬱蒼とした深い山道を歩いている。
「ほう! 次なる『さ』の怪異は、人間の思考をすべて読み取るテレパシー妖怪、覚か!」
ドラマスはペンを置き、ニヤリと笑った。
「人間の恐れも、殺意も、次の行動も、完全に先読みして口に出す! 思考が読まれる以上、いかなる物理攻撃も説教のロジックも、放たれる前に潰される! ヒナタよ、この完全無欠の『先読みの迷宮』にどう立ち向かう!?」
【場所:人間界・人里離れた深い山道】
「う〜ん、この山は静かでいいですねぇ。空気も澄んでます」
ヒナタは、四次元リュックを背負って軽快に歩いていた。
「ゆ、勇者殿……! 前方の切り株に、猿のような、人のような奇妙な化け物が座っておりますぞ……!」
宰相セバスチャンが、杖を構えながらビクビクと身をすくませた。
『……お前、今「襲われたらどうしよう、怖い」って思ったな?』
切り株の上に座っていた毛むくじゃらの妖怪――覚が、ニタニタと笑いながらセバスチャンを指差した。
「ひぃぃぃッ!! で、出たァァッ!! 心を読んでおりますぞ!!」
『そっちの女騎士。「厄介な相手だ、飛びかかってきた瞬間に一刀両断してやる」……そう考えてるね? 無駄だぜ、俺様にはお前たちの思考が全部ダウンロードされてるからな!』
ヴァレリアが、ハッと息を呑んで剣の柄から手を離した。
『ギャハハハ! 隠しても無駄だ! 人間のドロドロした欲望も、恐怖も、全部丸見え……』
覚が、得意げに相手の思考を暴き続けようとした、その瞬間。
「ちょっと待って!!!」
ヒナタの、テレパシーの電波すら物理的に遮断する「システムエンジニア&心理カウンセラー(ガチギレ・トーン)」が山中に響き渡った。
『……ア? お前、「今から俺様に説教してやろう」って思って……』
覚がヒナタの心を読み取ろうとアクセスした、その瞬間。
ドゴォォォォォォン……ッ!!!
ヒナタの脳内から溢れ出した「圧倒的で過保護なまでのオカンの愛情と、健康・衛生管理に対する凄まじい熱量のド正論データ」が、覚の脳髄にダイレクトに流れ込んだ。
『ギ、ギヤァァァァッ!!? な、なんだこの緻密で膨大なロジックの波は!! 脳の処理が……処理が追いつかないッ!!』
覚は頭を抱えて切り株から転げ落ちた。
ヒナタは、四次元リュックをドンッと置き、鬼の形相で覚をビシッと指差した。
「あなた!! 相手の同意も得ずに、頭の中から思考データを無選別にダウンロードし続けるなんて、完全な『不正アクセス』および『個人情報保護法違反』です!! コンプライアンスと情報セキュリティの概念が完全に崩壊してますよ!!」
『ふ、不正アクセス……!? 情報セキュリティ……!?』
覚は、妖怪としての圧倒的優位性を「悪質なハッキング行為」として糾弾され、白目を剥いた。
「それに、根本的な原因はそこじゃありません!!」
ヒナタは、覚の疲れ切った毛むくじゃらの顔を指差した。
「フィルターもファイアウォールもなしに、他人のネガティブな感情や非構造化データ(雑念)を24時間フル稼働で受信し続けたら、あなたの脳(CPU)が熱暴走を起こすに決まってるじゃないですか!! 人の心に共感しすぎて自分がすり減る、重度の『エンパシー・ファティーグ(共感疲労)』と『HSP』の末期症状ですよ!! だから人里を離れてこんな山奥に引きこもってるんでしょ!! 自分のメンタルバウンダリー(心の境界線)を守りなさい!!」
『き、共感疲労……!? メンタルバウンダリー……!?』
覚は、何百年も他人のドロドロした思考をノーガードで浴び続けたことによる、自らの深刻な精神的疲労と孤独感を完璧に言い当てられ、毛むくじゃらの顔を覆って号泣し始めた。
「今日から、徹底的な『アクセス制限(ファイアウォール構築)』と『脳内リセット・プログラム』を実行します!!」
ヒナタは、四次元リュックから、「指紋がつきにくく光の反射を抑えた、マットな質感のプロ仕様ノイズキャンセリング・ヘッドホン」「ハイレゾ対応オーディオプレイヤー」、そして「機密保持契約書(NDA)の束」を取り出した。
「ゴズさん、覚さんがパニックにならないように背中をさすってあげて! ヴァレリアさん、そのNDAに署名と捺印の準備を!!」
「ブモォッ!(おう! 情報過多で頭がパンクするのは辛ぇからな! 落ち着け!)」
「ふむ。情報漏洩を防ぐ強固な契約……騎士の誓いにも似た重みがあるな」
『ナ、何ヲ……!? 俺様ノ読心術ガ……!』
「【究極のメンタル・ファイアウォール&情報アクセス最適化プログラム】です!!」
ヒナタは、泣きじゃくる覚の耳に、しっとりとしたマット仕上げのノイズキャンセリング・ヘッドホンを優しく装着させた。
『……っ!? な、なんだこれは……! 耳を覆った瞬間、外から流れ込んでくる周囲の「雑念データ(心の声)」が、完璧なノイズキャンセリング機能(物理ファイアウォール)によって一瞬で遮断されたぞ……! 頭の中が……信じられないくらい静かだ……!』
覚は、何百年ぶりとなる「自分の思考だけの静寂」に感動し、その場にへたり込んだ。
「はい、脳内が静かになったら、オーバーヒートしたCPUを優しくクールダウンさせますよ!」
ヒナタが、オーディオプレイヤーの再生ボタンを押す。
ヘッドホンの中に流れ出したのは、昭和のポップスや、80年代のアイドルたちの懐かしくも温かい名曲の数々だった。
『アァァァッ……!! なんだこのアナログで温かみのあるメロディは……! まっすぐで純粋な歌詞と、力強いボーカルが、すり減っていた俺の神経細胞を優しく、力強く修復していく……。複雑な他人の本音なんかより、このシンプルな8ビートの方が、ずっと心に響くじゃないか……!!』
覚は、80年代アイドルの清らかな歌声に完全に魅了され、ヘッドホンを押さえたままボロボロと浄化の涙を流した。
「これからは、他人の思考データにアクセスする時は、必ず『相手の許可』を取ること! そして情報管理を徹底してください!」
ヒナタがNDA(機密保持契約書)を差し出すと、覚は素直にペンを取り、力強くサインをした。
数日後。
そこには、山奥で通行人の心を読んで不気味に笑う妖怪の姿はなかった。
スタイリッシュなマットブラックのヘッドホンを首にかけ、機密保持契約を完璧に遵守しながら、言葉にできない人々のトラウマや悩みを的確に(許可を得た上で)読み取り、根本原因を特定して解決に導く「王都認定・超凄腕のシステム・カウンセラー(特級テスター)」として、オフィスで爽やかに働く青年の姿があった。
『はい、お客様。お悩みのルートコーズ(根本原因)はここですね。外部への情報漏洩は決してありませんので、ご安心ください。……ふふっ、休憩時間にはあのアイドルの名曲でリセットするのが一番ですよ!』
覚は、コンプライアンスを完璧に守りながら、人々の心のバグフィックスに全力を注いでいた。
「……ゆ、勇者殿。心を読む妖怪が……『不正アクセスを反省し、昭和ポップスで脳をリセットする、コンプラ遵守の凄腕カウンセラー』になってしまいましたぞ……」
セバスチャンは、完璧に守られたプライバシー環境に安堵し、自分も彼に王国のシステム監査を依頼しようと決めていた。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、卓上アクアリウムの照明を静かに落とした。
『覚が……「許可なき不正アクセス」と「フィルターなしの共感疲労」を指摘され、膨大なオカン的思考データで脳をパンクさせられた……』
『心を読む能力は「オーバータスク」と見抜かれ、マットな質感のヘッドホンと昭和ポップスで癒やされ、NDAを結んだシステム・カウンセラーになった……』
ドラマスは、深く、長く息を吐き出すと、もはや「心を読む絶対回避の妖怪」すら「セキュリティ意識の欠如とCPUの熱暴走」として論理的にデバッグしてしまうヒナタに完全降伏し、通販サイトで「マット仕上げの高音質ノイズキャンセリング・ヘッドホン」をポチり、自らの神殿のBGMを80年代のアイドル名曲プレイリストに設定して、究極のメンタルデトックスを開始することを固く誓うのだった。
(第125話・完)
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