■第108話:泥沼の怨念・泥田坊! ……えっ、田を返す前に「低体温症のケア」と「極上クレイパック」の説教ですか?
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それでは、本編をお楽しみください!
【場所:天界・管理室】
「……ピピッ。うむ、ワインセラーの中心温度は完璧な10度だ。これで神の飲み物も、豆腐の鮮度も完璧に保たれるぞ」
神ドラマスは、豆腐小僧の一件で導入した高性能ワインセラーの温度をデジタル温度計でチェックし、満足げに頷いていた。
ふとモニターを見下ろすと、ヒナタたちは王都郊外にある、荒れ果てた「泥田」のあぜ道を歩いていた。
「ほう、次なる怪異は泥田坊か!」
ドラマスは、冷えたミネラルウォーターを取り出しながら身を乗り出した。
「他人に奪われた田んぼへの執着から生まれ、夜な夜な泥の中から一つ目の上半身だけを現し、『田を返せ!』と泣き叫ぶ不気味な怨霊! この土地に染み付いた重い執念と、泥まみれの不衛生なビジュアルの前に、ヒナタの物理ド正論もついに足を取られて沈むはずだ!!」
【場所:人間界・王都郊外の泥田】
「う〜ん、土のいい匂いがしますねぇ。カエルの鳴き声も風情があります」
ヒナタは、ぬかるむあぜ道を長靴でチャプチャプと歩いていた。
「ゆ、勇者殿……。この辺りの田んぼは、昔、悪徳商人に騙し取られた農民の怨念が渦巻いていると噂ですぞ……」
宰相セバスチャンが、ランタンの光を震わせながら泥田を照らした。
ボコッ……ドロドロドロ……。
突然、ヒナタたちの目の前の泥水が泡立ち、そこから真っ黒な泥にまみれた巨大な「一つ目の男の上半身」が、ズブズブとせり上がってきた。
指は3本しかなく、その顔は深い恨みに歪んでいる。
『……田を……返せぇぇ……。俺の……田を……返せぇぇぇッ!!』
地底から響くような不気味な声が、夜の田園地帯に木霊した。
「ひぃぃぃッ!! で、出たァァッ!! 泥の化け物ですぞォォッ!!」
セバスチャンが悲鳴を上げて後ずさる。
『俺の田を奪った人間どもめ……。泥の底へ、一緒に引きずり込んでやるぅぅ……!』
泥田坊が、泥まみれの3本指の手をヒナタの足首めがけて伸ばした、その瞬間。
「ちょっと待って!!!」
ヒナタの、カエルの大合唱すら一瞬で黙らせる「救命救急医&美容部員」が響き渡った。
『……エッ?』
泥田坊は、泥だらけの手を伸ばしたままポカンと固まった。
ヒナタは、四次元リュックをドンッと置き、鬼の形相で泥田坊の「泥水に浸かった上半身」をビシッと指差した。
「あなた!! こんな冷え込む夜の泥水の中に、ずっと上半身裸で浸かっているなんて正気の沙汰ですか!! 泥は水分を含んでいて体温を急激に奪うんです! 深部体温が35度を下回ったら『低体温症』で心機能が停止しますよ!! 今すぐお風呂に入って体を温めなさい!!」
『て、低体温症……!? 心機能停止……!?』
泥田坊は、言われてみれば手足の感覚がずっと前から麻痺し、ガタガタと震えが止まらなかったことを思い出し、一つ目を泳がせた。
「大体、その顔にへばりついてる泥!!」
ヒナタは今度、泥田坊の顔面を指差した。
「それはただの泥じゃない! 太古の植物や微生物が分解されてできたミネラルとフルボ酸がたっぷり詰まった『天然の極上クレイ(泥)』じゃないですか!! そんな美容特効薬を、ただの嫌がらせの演出に使うなんて宝の持ち腐れです!! 泥のミネラル成分への冒涜ですよ!!」
『み、ミネラル……!? 極上クレイ……!? いや、俺は怨念で泥まみれに……』
「今日から、徹底的な『深部体温の回復』と『極上クレイパックによるスキンケア』を行います!!」
ヒナタは、四次元リュックから、「保温用アルミサバイバルシート」「クレイパック用スパチュラ(ヘラ)」「オーガニック保湿化粧水」、そして「農業用・土壌分析キット」を取り出した。
「ゴズさん、泥田坊を泥から引っ張り出してアルミシートでくるんで! ヴァレリアさん、その良質な泥をバケツに集めて!!」
「ブモォッ!(おう! 冷えは万病の元だからな! ほら、上がれ!)」
「ふむ。この泥、確かに不純物が少なくて極上の質だ。集めがいがあるな」
『ナ、何ヲ……!? 俺ノ怨念ノ泥ガ……!』
「【究極の低体温症ケア&天然ミネラル・クレイ美容プログラム】です!!」
ヒナタとゴズの手により、泥田からスポンッ!と大根のように引き抜かれた泥田坊は、すぐに金色のサバイバルシートでぐるぐると巻かれ、焚き火のそばで徹底的に保温された。
『アァァァッ……!! こ、凍りついていた体の芯が……アルミシートの反射熱でジンジンと温まっていく……。内臓が……生き返るようだ……!』
「体温が戻ってきたら、次はスキンケアです! あなたの顔についてるその泥、ただ乗せてるだけじゃ乾燥してシワの原因になりますよ! しっかりと均一に塗ってパックするんです!」
ヒナタは、ヴァレリアが集めた泥をスパチュラで滑らかに練り直し、泥田坊の顔(一つ目の周り)にプロのエステティシャンの手つきで美しく塗り広げた。
「はい、このまま10分放置してミネラルを浸透させます! その間に、この土壌分析キットであなたの田んぼのポテンシャルを測りますよ!」
ヒナタが泥を試験管に入れてシャカシャカ振ると、見事な数値が出た。
「ほら見て! 窒素、リン酸、カリウムのバランスが完璧! この泥田、お米だけじゃなくて『高級オーガニック美容泥』の産地として莫大な価値がありますよ!!」
『お、オーガニック美容泥……!? 俺の……俺の田んぼが……!?』
「田んぼを返してほしいなら、夜中に化けて出るより、この極上クレイの成分をアピールして『美容ブランド』として買い戻せばいいじゃないですか! 泣き寝入りしてる暇があったら起業しなさい!!」
ヒナタは、時間がきた泥田坊の顔の泥を温かいお湯で丁寧に洗い流し、たっぷりの化粧水で保湿した。
『おおっ……!? 泥の下の肌が……信じられないくらいモッチモチのツルツルになってる!! 一つ目の周りの小ジワも完全に消えたぞ!! これが……俺の田んぼの泥の力……!!』
数日後。
そこには、泥の中から「田を返せ」と泣き叫ぶ哀れな妖怪の姿はなかった。
ツヤツヤの美肌を輝かせ、パリッとしたスーツ(農作業用)を着こなした泥田坊が、王都のセレブたちに向けて「一つ目も驚く! 天然ミネラルクレイパック(産地直送)」を実演販売し、飛ぶように売れる泥パックの利益で、見事に自分の田んぼを買い戻す契約書にサインする姿があった。
『まいどあり! 奪われた田んぼは、美容ビジネスの利益で買い戻す! これが令和の妖怪の戦い方だぜ!!』
泥田坊は、一つ目をウインクさせて、自分の田んぼ(新・美容農園)へと意気揚々と帰っていくのだった。
「……ゆ、勇者殿。泥の怨念が……『低体温症を克服し、オーガニック美容ブランドを立ち上げた敏腕若手社長』になってしまいましたぞ……」
セバスチャンは、お試しでもらったクレイパックを手の甲に塗りながら、そのスベスベ感に感嘆のため息を漏らしていた。
【場所:天界・管理室】
『…………』
神ドラマスは、ミネラルウォーターのペットボトルを静かに置いた。
『泥田坊が……「低体温症のリスク」を指摘され、サバイバルシートで温められた……』
『泥は「極上クレイの無駄遣い」と怒られ、クレイパックと化粧水で美肌にされた……』
ドラマスは、深く、長く息を吐き出すと、もはや「土地への執着」すら「オーガニックビジネスの起業チャンス」として論破するヒナタに完全降伏し、通販サイトで「天然海泥クレイパック(大容量)」と「洗顔用ヘアバンド」をポチり、自らの神々しい美肌を極限まで磨き上げるための夜のスキンケア・ルーティンを開始するのだった。
(第108話・完)
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ヒナタのマイペースな異世界蹂躙はまだまだ続きます。魔王軍の胃の痛みが限界を迎える前に、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】からの評価や、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!
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