【1-8-2】
「ほらリーザご挨拶」
私の言葉にリーザはぺこりと頭を下げる。誰だろうと疑問の表情だ。
「あ、ウワサのリーザちゃんですか?」
「……へーほーふーん」
モノがリーザの周りをくるくると周りながらに様子を見ている。コラコラリーザが困ってるでしょうに。
「それでどうしてここにモノとジーがいるのさ?」
「お二人にはあるクエストに参加して頂く予定で、ここにきて貰ったんです」
『ちょうど貴方と会えたのは偶然ですね』とマーニャさんが説明してくれる。
「ふーん。でクエストっていうのは?」
「最近獣人族と竜人族の里の中間辺りにヒュドラが出るみたいなんですわ。それがまためっぽう強いみたいで、お二人の力を借りる事になったんです」
ヒュドラ? といえば随分と危険なモンスターで、その獰猛さから危険度はかなり高い。普通の冒険者では太刀打ち出来ない存在の筈だ。
「ただでさえ最近はギルドへの依頼が多いというのに、なんだかやたらと強いモンスターが出現してて困っとるんですよね」
『今回はモノさんとジーさんが参加してくれるという事で助かりました』と言っている。確かにこの二人なら並大抵の相手に遅れをとることはないだろうけれど。
「最難関のリム様の了解も今回は取れましたし、ホンマ良かったですわ」
それはそうだろう。あの人はお金とかには無頓着で、自分の研究に活かせるかどうかが判断基準なのだろうから。
「じゃ何かしらあの人も注目してる部分があるんだ」
私はジーの顔をチラリとみる。彼女はそれを肯定するように頷いていた。
「それでいつ頃に出るのかな?」
「ええ。とりあえず今日はマーニャレスカさんにクエストの話を聞く予定で明日には発とうかと。……ジーもお腹空かせちゃってますからね」
「……甘いもの。美味しいもの」
相変わらず食いしん坊な様子に苦笑を禁じ得ない。ただそれであればこちらとしても都合がいい。
「ね、じゃあお願いがあるんだけどさ?」
「はい?」
私の言葉にジーがなんだろうという表情を浮かべていた。マーニャさんもきっとそのつもりでこの話を言っていたのだろう。特に私のお願いに口を挟んでくることはなかった。
ーーそんなこんなで、翌日私達は同じ荷車に乗ってヒュドラが出るという湿原地帯へと向かった。
「しかし魔法の特訓ですかー。なんだか懐かしいですね」
「ね。今もう扱えるようになったけど昔はてんで駄目だったからねー」
そもそもが素養が無いと言われていたのだ。それが今では一端に扱えるようになったのはアンジェルやカイリの要因も大きいが、ジーに色々と教えて貰った影響が大きい。
クイクイとモノが私の服の服の裾を引き、私は? と見つめてくる。
「勿論モノもだよ。ホントありがとね」
頭を撫でてあげるとムフーと満足げにしていた。なんだか昔の生活が戻ってきたみたいで懐かしくて安心する。
「そういえばあの人は元気にしてるの?」
「あの人ってご主人の事ですか? 勿論お元気ですよ。もっぱら研究漬けですけどね」
相変わらず変わりのないようだ。それともう一個聞いておきたいことがあった。
「……ちなみに、あの子は何してるの?」
……ぶっちゃけ問題とか起こしてないだろうか。知らぬ内にまた借金が増えるとかは勘弁してほしいのだが。
「あー、あの方の事ですかね? まあお元気ですよ。力はまだ戻ってないみたいですがそれはそれで新鮮のようで」
「そっか。それならよかったよ。でも何してるの?」
その言葉に一安心だが、ただ特にやる事もないはずだ。
「えっと、まあ家事手伝い的な?」
何だか歯切れが悪い。ただまあ問題ないのなら良いだろう。……ぶっちゃけ変な事に巻き込まれたくもないし。
「でも貴方の事気にされてましたよ?」
『たまには顔を見せにきてあげてください?』と言われるが、確かにそろそろ一回戻ってみてもいいかもしれない。ずっとお金を稼ぐ事に必死で帰る暇もなかったが、今は比較的割のいいクエストも増えてきたし。前ほど切羽詰まっているわけでもないのだ。
「そーだね。ちょっと落ち着いたら顔出しに行こっかな」
「ええぜひ。……それで魔法の話でしたね?」
ジーがリーザを見つめる。リーザはどこか緊張した面持ちだ。
「うん。まー本当はあんまり教えたくないんだけどね」
あの時を思い出す。勿論死人族との一件だ。あの時私は隣にリーザがいない事に気づき、血の気が引く思いだった。その後に周囲を探してようやくリーザを見つけることが出来たけれど、今後の為にも最低限の護身は身に付けさせた方が良いと思ったのだ。
勿論基本的にはそんな展開にさせるつもりはないし、いざとなれば私が身を挺して守る事に変わりはないのだけれども。
「……そもそも、連れ歩かなければいいんじゃ?」
「ゔ……。まあ確かにそれはその通り」
いやそれが一番良いことは私も分かっている。ただでもリーザが頑として受け入れてくれないのだから、仕方ないじゃないか。ほら今も横にいるリーザはフルフルと首を振っている。
「……ご主人がいたら、また甘いことだなんて言われちゃいそうですね」
『ま、いーんだけどね』なんて言われるも、確かにその通りで何も言い返せない。きっとあの人は呆れた表情を作ってため息でも吐くのだろう。
「じゃちょっと診てみましょうか。時間もある事ですし」
バルディアを出てからずっと荷車に揺られてはいるが、まだ目的地へ着くには時間が掛かるはずだった。ただ風景を眺めているよりは何かしらやる事がある方が皆んないいはず。というのは肯定的に捉えすぎだろうか。
「リーザちゃん? じゃ手を私の方へ」
リーザがおずおずと手を伸ばす。それをジーが掴み目を瞑る。昔に私がジーに魔法の素養を診てもらった時と全く一緒の光景だった。
「……ん? うーん、これは」
ジーが何やらぶつぶつと言っている。いったいどういう反応なのだろうか。リーザもソワソワとしているがこっちまでドキドキしてしまう。
「……はい。分かりました。もういいですよ」
その言葉と同時に手を離す。ふぅと息を吐いてジーがリーザを見つめる。
「リーザちゃん、貴方の魔法の素養ですが……」
どうだったのだろう。私とリーザはジーを見つめる。
「――何というか、普通ですね」
その言葉に前屈みだった私とリーザは、あわや転んでしまいそうになってしまった。
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