【3-8-4】
私達の姿に気づいたのか遠目から此方へと手を振る人がいた。判然としないものの恐らくドミニクだ。家の横に馬車を止めているようだった。
「リーザ大丈夫? もう少しだからね」
リーザの呼吸はどんどん粗くなっている。早めに休ませ身体を診てあげたほうがいいだろう。
「急ぐぞっ!!」
イオリの声で雪を踏みしきり先へと進む。後ろを振り返ると闇に包まれた街の中にユラユラと光が見えた。私達を探している使徒だろうが幸いまだ気づいていないようだ。
「……これなら何とか逃げられそうかな」
「ああ。何とかな。……なんだ?」
何やら声が聞こえる。ドミニクがこちらへと何か伝えようとしていた。
「んー? 何か言っているみたいだね?」
「おおかた早く来いとか言ってんのか? ったく。デカい声出したらバレるってんだよな」
イオリは苛立たしげにそんな事を言っているが、遠目にいるドミニクは何度も何度も何かをこちらへと伝えようとしているようだった。
「――ッ!!」
『あーもう今行くって!』なんてイオリは声を上げていた。
「――ろって!!」
彼が叫ぶ声はようやく私達へと届き始めた。その言葉にイオリも怪訝な表情を浮かべていた。
「……ん? なんつってんだ?」
近づくにつれドミニクの表情までも目で捉えられた。
「イオリ、これって……」
彼は明らかに焦りと、そして怯えが顔に現れていた。
「――逃げろッ!!」
「イオリ、リーザ!! 別の道から――」
私達が動く前に魔法陣が足元に形成される。それは、私たちの足元から沸々と脹れ始め、そして破裂音と共に爆ぜた。
「――ったく!! クッソ。バレてたって事かよ!?」
「リーザ!! 大丈夫!?」
その場を即座に離れたために深手は負ってはいない。ただ、爆発の衝撃波により身体のそこかしこは傷を負っていた。私は慌ててリーザの様子を見る。顔や腕などに多少の傷は負っているものの大事はなさそうだった。
辺りからは数名の使徒が現れる。その表情はあの時のラフィエル達と同様に恍惚としていた。
「……無事に逃げられるってのは甘い考えだったわけだ」
イオリは腰に携えていた剣を鞘から抜く。外見から以前にも思っていたが、それはやはり日本刀に酷似したものだった。そういえばいつぞやの野盗も同じ武器を使っていた気がする。ただ今は目の前の状況に集中する。
「イオリはアイツら知り合いなんじゃないの? 争いたくないなら別に無理しなくても」
私がやるよ。と、口には出さなかったがその意図は通じたようだった。イオリは必要ないと首を振る。
「使徒と争う事になる可能性なんて当然想定済みだ。こんな所で尻込みするアホじゃねえよ」
『お前はリーザを見てろ』と言われイオリは使徒達へとその剣を振り翳しながらにその場を駆ける。
「……リーザ? 大丈夫?」
イオリの事も心配ではあるものの私はリーザへと目を向ける。ただでさえ身体が苦しいはずなのだ。
「無理しないでさ。しんどかったら私がおぶってあげ――」
フルフルと大丈夫だと言うリーザを見て、私は言葉が止まってしまう。
――なんだ、それ?
私の表情を見たからかリーザは、どうしたの? と言いたげだった。でもそんな状況じゃない。
「……リーザ? あのさその身体って」
リーザは慌てて自分の身体を見る。そしてばっとバツが悪そうに腕を隠した。
「ダメッ! 見せて!」
私は嫌がるリーザを抑え腕を此方へと向けさせる。そこには先ほどの爆発の影響からか血が垂れている。リーザの服にも地面にもその痕跡は残っている。
――そのはずなのに、彼女の身体からはもう傷が無くなっている。
「嘘でしょ……。これって」
私は今度は顔の傷へと目を向ける。小さな氷がその傷口を覆い始めていて、やがてそれは全て覆つくし砕けた。
「リーザ……? 大丈夫なの?」
氷が砕けた後を見るともうリーザの傷は残ってはいない。彼女は私へ問題ないですよ。と言いたげに腕を振って、此方へ大丈夫だと伝えていた。
「その身体ってさ、やっぱり……」
言うまでもない事だ。これは、きっと私の身体を移植した影響なのだ。炎でなくて氷である理由は分からないけれどもこの反応は間違いない。
「……ごめんね。ごめん。リーザ。本当にごめん」
普通の女の子だったはずのリーザを私のせいでバケモノにしてしまった。私は彼女を抱きしめる。最初ジタバタと暴れていたものの、やがて受け入れたのかただ受け入れていた。
「貴方の人生を、壊してしまった……。こんなハズじゃなかったのに」
私はただ、リーザに生きていて欲しかった。楽しい事も経験してほしかった。何よりもっともっと一緒にいたかったのだ。彼女は私を抱きしめ返して頭を撫でてくれた。気になどしていないですよ。大丈夫ですよ。と伝えるかのように。
「――リム、リーザ!! 走って馬車に乗れ!」
その声でハッと顔を上げる。イオリはまだ使徒達と交戦中ではあったものの、気がつけば相手方の殆どを打ち倒していて残るは一人のみだった。
「すぐに他の使徒も来るだろう! 急いでこっから逃げ――」
最後の使徒にイオリの剣が突き刺さる。相手は呻き声をあげ、ただニヤリと笑みを浮かべた。
「――アヌ神の祝福が在らん事を」
その声と同時に彼は上空へと魔法を放った。それは暗闇の中辺りを照らして、その音は隠しようもないほどに響き渡った。
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