金星衛星
我々の世界の金星には、衛星はありません。 しかし、この世界のウェヌスには、衛星があります。 その名もクピドー。 太陽に近い為、宇宙での人工物の劣化が早いウェヌス宙域でその価値は絶大であり、ウェヌスにおける宇宙の重要拠点になっています。
--- ウェヌス衛星 クピドーの宇宙港
ウェヌスポータルを抜けるとブリッジのパネルに太陽が映っている。
「少し大きく見えるわね」
「実際、太陽に近いているからね」
「マールスが欲して止まないものよ。 もう少し近くにあればマールスも温かくなるんだけど」
サナエさんがモニターを見ながらつぶやく。
「でもあれでしょ。 進んでいるんでしょ? 人工恒星計画」
「どうだか。 人工恒星計画の概要をあの姑から見せてもらったけど、あれはないわ」
「そうなの? 」
タツマが怪訝そうにサナエさんに聞き返す。
「人工重力石の生成には成功したのは大きな一歩なのは確かよ。 でも、核融合を持続的に行う、ガスをどこからか持ってくるかって話よ」
「どこから? 」
「ユピテル宙域から持ってくることよ」
「へー……エッ? 出来るの?」
「まったく。 とんでもないやり方よ。 マールスのエリス国家宇宙局から、ここ一年以内にユピテルに隕石が落ちる予測が出ているらしいの」
「隕石とはずいぶんと穏やかじゃない話だけど、大丈夫なの? 」
―― 天体ショーは、いつも激しい。
「さぁ? でもユピテル自体からすれば僅からしいそうよ。 うちに落ちたら星がなくなるらしいけど」
「また……それで? 」
「ユピテルは、ガス惑星。 そこに隕石が落ちると、反動でガスが巻き上がるわよね」
「それを取り込むの? 」
「簡単に言えばね」
―― しかし、ユピテルの重力圏からガスを引きずり出すことなんかできるのか?
「まっ、自然だのみってところが、今の人類の限界よね」
なるほど、運任せであるが、構築フローは出来ているのか。
それにしてもダイナミックな方法なこと
そんな会話をしているとモニターの一つが切り替わり、ウェヌスが画面に映る。
「おお! ウェヌスね! やっぱり水が多いわねー」
水の惑星、ウェヌス。 目視で見ても陸地が少なく感じる。 とはいえ、惑星を見ると少し落ち着くのは、宇宙の苛酷さを知っている為だろうか。
ウェヌスは、ビッグフォールにより当時のインフラがことごとく破壊され。
文明再構築も中々進まないでいる。 加えて環境の激変により、ウェヌスには軌道エレベーターがない。
そのため、ウェヌスの衛星クピドーの宇宙港から降下することになる。 惑星軌道上からの配送・降下は基本禁止になっている。
技術的な面からではなく、商業的な面からのルールになる。 ウェヌスの一大惑星惑星間貿易商クピドー衛星ギルド。
名前の通りウェヌスで商いをする企業の連合体の総称になる。 ここがウェヌスの流通をある程度牛耳っている感じである。
そして、そのクピドー衛星ギルドの本山が、この衛星クピドーになる。 この衛星クピドー。
ウェヌスの勢力圏であるが、各国政府の勢力範囲から外れており、ウェヌスの宙域貿易商や惑星間貿易商が管理している。
政府を超えた管理体制故、彼らはかなりの力がある。
「軌道エレベーターがないと不便ね」
サナエさんが軽く愚痴る
「惑星の環境に左右されるからね」
ちなみに、衛星クピドーに宇宙船を係留できることで、太陽風の影響を直接受けない為、船乗りには好評である。
不便とか着星時間が掛かるなんて問題は、船の損傷を考えれば些細なことでしかない。 そしてこの、衛星クピドーこそが、ウェヌスの衛星ステーションになる。
簡単に言えば荷受け場になる。
太陽と反対の方向に係留基地が設置されており、太陽からの放射線から守ってくる仕様だ。
ルーナと同じように常に同じ面を向けているため、可能な芸当である。
ハッピーカムカム号は、ベイに向けて進んでいる。 モニターから移るベイ付近の様子は何処も変化がない。 ここの発着ベイもまた、中型・小型船の列が出来ている。
「ステーション・ステーション。こちらヒルベルト惑星間貿易、登録番号と送信します。進入許可をお願いします」
アリエフが、いつものように所属や船名を答えていく。
<了解。登録番号確認。寄港許可確認。 進路 5番へ。 ようこそ水の惑星、ウェヌスへ。 歓迎します>
―― ここのオペレーターは感じがいい。
ベイに近づくとトラクタービームを検知し、受け入れを許可するといつも通りに自動運転モードに入る。
今回はウェヌス航路の船が多かったが、基本、ウェヌス航路の船は、マールスと比べると少なめである。
マールスは、それなりに安定している地域が多いが、ウェヌス内は不安定な地域が多い。
星全体がビックフォールという災害に見舞われえているため仕方がないにしろ、商いをするとなると私情は二の次になる。
結果、全体的に信用スコアが低いのがウェヌスであり、それが取引量に影響する。
全体的に信用スコアが低いウェヌス(金星)であるが、その中で、確固たる基盤を作り上げたのが、イシュタル帝国となる。 弊社のお得意様であり、サナエさんが向かう先でもある。
といっても、イシュタル帝国だけがウェヌス(金星)人の住処ではないし、信用スコアが高い国以外にも人が住んでいる。
そうなると、信用スコアが低い国が、他の惑星からの取引をどうするか?
はっきり言って信用上、直接取引ができない。
そこで活躍するのが、それらの地域をまとめる統括組織として、クピドー衛星ギルドがでてくる算段になっている。 不安定な地域をまとめて一つの組合を作り信用スコアを上げる方法になる。
ゆえにウェヌス商人は、ウェヌス内での信用が高い。 そして、タツマが副社長からの提案が、きな臭いといったのはこの点にある。
ウェヌス内の商業関連は、既にクピドー衛星ギルドがある。 ここで新たに新組織を作るにしてもそれが、衛星ギルドへの反抗なのか、それとも野心的な試みなのか。
正直、どちらの意図であっても組したくないし、既にそれは伝えてある。 しかし、どうやらそういう問題でないということと、どうしても自分の力が必要とのこと。
ウェヌスの問題であれば、ウェヌスの組織の方が有利なのでに、なぜ部外者であるヒルベルト商に話を振ってきたのか? 多くの疑問が残る。
しかし、副社長には、育ててもらった恩も命を助けられたこともある。
―― まったく。 恩を返したがる自分の性格が嫌になる。
結局、引き受けるため、ウェヌスの地上に向かうことになる。
--- 衛星クピドー ステーション
船がドックに停泊すると、荷下ろしを実施する。 といっても、いつも通りに船のコンテナエリアを開放し、ベイ側からのドローンがコンテナを取りに来てくれる。 コンテナは自動で運び出されていく。
ベイとのやり取りをアリエフ、鄭で行っており業務は、滞りなく進んでいる。
モニターでその状況を横目で見ながら、タツマ達は、ハッピーカムカム号内でバタバタしている。
―― これなら大丈夫そうだな。
そんな安心感が、出発前のタツマの気持ちを多少は和らげる。
「準備できた? 」
サナエさんに状況を確認する。
「もーちょっとー」
女性の旅支度は時間が掛かる? と言うと問題が生じるので、サナエさんの旅支度は、時間が掛かるようだ。
「取り敢えず、ブリッジに行っているねー」
プライベートルームから荷物を持ってブリッジに向かう。
一方、見習い社長であるケルンは、相変わらず、セレン教育を受けている最中である。
『何を甘い事をいっているんですか? 難波中の海賊船は撃破が必須です! 』
「しかし、動けない相手を……」
『動いたらこちらが攻撃されるんですよ? それと救難信号も海賊の可能性もあります。 無暗に救助に行こうとしないこと! 』
「しかし、本当の救難信号だった場合は? 」
『少なくともタツマ以上の力を持ってから言うべき言葉です! いいですかこの空間では、力亡き者は淘汰される可能性があるのです』
うーん。かなりやり合っている。セレンの熱の入れようが何だか熱血教師に思えて来る。
脇に待機しているアルプにタツマが話しかける。
「アルプ。 そろそろ出発だ。 準備はできている? 」
『了解です』
「セレンは? 」
『マスターを迎えに行っているようです』
「了解」
『でっどうするのです? 』
「どうするとは? 」
『タツマは、私とセレンどちらを従える気ですか? 』
「アルプだな」
かなりの即答になる。
『理由をお聞きしても』
「まだ、セレンは、生まれたばかり。 安全圏の方がいいだろうさ」
『データの共有化は済んでしますので、能力の長短に存在期間長短は、無関係と思いますが』
「どうだろうね。 どうも有機AIってのは、経験の蓄積があるようでね。データだけではないと感じている」
『“感じている”……ですか』
「そう。第六感を信じるタイプなんで」
『マールス人すら疑っている感覚ですがね』
アルプが反論してくる。
そんな会話をしていると、荷物を持ってきたサナエさんブリッジ到着する。
「お待たせー」
『マスター。それだけの荷づくりに時間を掛け過ぎでは? 』
「ほっときなさいよ! 」
「じゃぁ。アリエフさん、鄭さん、ケルン、それにセレン。 行ってくる」
説教が止み、こちらに話しかけてくる。
『了解しました。 無理をしないでください。 良い旅を』
セレンから送り出しの言葉を受ける。
「それじゃケルン。 しばらく、ヒルベルト商会を頼んだよ」
「大丈夫です! 頑張ります」
説教にもめげていない。 まぁ、AIであるため不条理なパワハラは無いか。
「二代目も早く帰ってきてくださいね」
鄭さんが、こちらに振り向きながら挨拶してくる。
「バルティスを早めに連れ戻してくださいね」
アリエフさんも軽い別れの挨拶になる。
「じゃぁねー」
サナエさんが軽い返事でブリッジを後にする。
タツマもその後をついていく。
「帝国ってどんな場所かしら? やっぱり悪の国っぽいのかしら? 」
ニコニコしながら話している。 実際、写真で見ているはずだが質問してくる。
「多くの人が、ふつうに住んでいるんだ。 アニメのような夜だけで稲妻が鳴っているような状況じゃないさ」
「ふふふ。 それも面白そう」
カムカム号と衛星クピドーステーションの接続する連絡通路を通る。 連絡通路からは、ウェヌスは、見えない。 それもそのはず。 太陽に近い為、宇宙港が衛星クピドーの内部に造られているため周囲は岩肌ばかりになる。
「ちぇー。面白くない風景ね」
「ここは、クピドー貿易港になるからね。商業港に移動時にはウェヌスが見られると思うよ」
「見た。 見た! パンフレットで! 観光ルートでのビークル移動がいい! 」
思いっきり観光気分である。
「高いんだけど――」
「気にしない! 人生を楽しむためにお金は使わないとね! 」
---衛星クピドー 商業港 内
商業港内はそれなりに混んでいる。衛星であるがそれなりの大きさがあり、重力がある。
といっても浮いている感じには変わりないが。
大規模な商談エリアがあるぐらい、ここでの商談は多い。 そして取引は、ウェヌスに行かなくともここで終わりにする業者が大半である。
「さてさて。シャトル乗り場を探すのが、まずのミッションねー」
サナエさんが、ワクワクしながら先に進んでいる。
案内板を発見したようであり、案内板を見ている。
ウェヌスへの行先は、惑星だけあってそこそこある。
「“ティエンフー” 、“チーヌー” 、“アリステリア” 、“ナブカ” 、“島嶼宇宙港” 、“ユルト”……」
サナエさん行先を確認している。 主な地上の宇宙港がありさらにそこから各地に散らばる感じになる。
「かなり多いのね。 これだけマスドライバーがあるの?」
一通り確認し終えると、サナエさんはこちらを向きタツマに話しかける。
「降下だけの宇宙港だね。 宇宙に上がれる宇宙港はもっと少ないさ」
「へー」
「ウェヌス内のマスドライバーは、4基ほどだったかな? だから、宇宙船でウェヌスに降りた場所と、宇宙に上がる場所は違う同じ場所もあるけど、ほとんどが違う感じかな」
「面倒くさいわね」
「まぁ。 マスドライバー自体が高いし、ウェヌス内でも設置できる技術、地形と資金が必要だからね」
「じゃぁ。 宇宙に上がれる箇所は、こんなに多くはないのね」
「だね。 あとは、通常の発射台がある場所かな。 値段は時価になるけど。 ある程度費用を抑えるならやっぱりマスドライバーかな」
行先案内板を見ながら話している。ウェヌスの地図に行先が示してある。
「サナエさんは、“ティエンフー”だね」
「あんたは? 」
「“ユルト”」
“ティエンフー”の出発時刻の方が早いようだ。イシュタル帝国領のため航空便もかなりある。
ウェヌス最大の国家だから、便も輸送船も大きい。 今から行けばちょうどよいタイミングになる。
―― “ユルト”の本数は……少なっ。 週に一便。 それにこれって出発時刻が深夜で到着が昼じゃない?
「トークンはどうするの? 」
サナエさんから班分けの依頼が来る。
「アルプは、こっちに来てもらう。 セレン。サナエさんをお願い」
タツマが、サナエさんの質問に回答する。
『了解です』
セレンが回答する。
『セレン。 マスターの悪ふざけには厳しく当たってください。 大事になりますから』
アルプは、マスターへの指摘を忘れない。
「アルプ!! 少しはマスターを信用しようとは思わないの? 」
『諫言をするのが私の役目です。 毎度毎度、面白半分で妙なことを引きおこして』
彼女たちのやり取りも相かわらずである。ニヤニヤしながら見ている。
不意にサナエさんがこちらを見てくる。
「……なんかないの? 」
「何かって? 」
「しばらく会えないのよ! 」
「元気でね。何かあったら連絡して」
「あんたはもう……まぁいいわ。浮気したら切り落とすから!! 」
何この殺気
「しませんよ。 親父のように色男ではないし」
「アルプ。 怪しい行動があったら報告しなさい」
『了解です』
「ちょっと、ひどくない? 」
タツマからの物言いが入る。
『私のマスターは、サナエです。 残念ながらタツマではないので』
主人思いですこと
「いってくるわ。 無茶しちゃだめよ」
「はいはい。 気を付けてねー」
サナエさんが背を向けて目的地に向かって歩き出していく。
後ろにセレンが付いている。
宇宙港で歩く姿は、様になっているね。
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サナエさんを宇宙港で見送るタツマとアルプ。 出発までまだかなりの時間がある。 リラックスしているかと思いきや、タツマ自身の雰囲気は多少張りつめている。
『セレンが、本当に向こう側でよかったのですか? 』
「調整もあるしね」
『ウェヌスのことは分かりませんが、副社長のこの案件。 間違いなく荒事ですよ』
「アルプは、セレンよりも性能が落ちると?」
『性能面でセレンには、かないません』
「それで終わり」
『タツマの言う経験からの直感では、こちらの方が上です』
「なら結構だ。 ところで改良もしているよね。 最大制御数は? 」
『トークンでは50体が、限界ですね』
やはり1000体と比べると性能差は、如何ともしがたいか。
といっても今から向かう先のアフロディア大陸の南部地域は、かなりの荒廃した場所と聞いている。 トークンなどの高級品はないとのこと。
それにバルティスがいる。 人員の確保はしているはずだ。
「例の武装搬送は? 」
『カムカム号からの搬送は予定通りです。 副社長の要望の品物も問題なく』
「結構。さてと、コーヒーショップで現在のウェヌス状況の確認でもするか?」
さてさて、今度はどんな冒険になるんだか。
ここからウェヌス編は、アフロディア大陸パートとイシュタル帝国パートに分かれます。
一つに出来ないか試みたのですが、どうしても上手くいきませんでした。
というわけで、 「サナエさんのイシュタル帝国編~受難続きのテラ惑星間貿易商 外伝~」
という別建てを作ります。 なんか別建てが多くて申し訳ない。 内容としては、サナエさんと現地の仲間たちの騒動の物語です。
更新のため少しお時間をいただきます。




