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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
4章 再禍動乱
29/52

沸騰 プロメンテ

--- プロメンテ・シティ地区 議場


ヒューリの騒動から約2ヵ月が過ぎた。議論は出兵法案で持ち切りである。


派兵の規模は? 時期は? そもそも、住民に銃を向けていいのか? など様々な意見が飛び交う。


因みにビャーネ氏とヒューリの会談録音は、報道ではカットされている。


故にあの醜態の会話は、外には出ていない。


しかし、報道終了後、世論の流れは明らかに変わっている。


ビャーネ氏の誠実な対応により耕作地への軍隊派遣に関して異論も出始めている。


あの演説の効果が出ているようだ。 世論は派兵に対して拮抗している。

しかし、ヒューリが一度決めたことを覆す可能性もない。


三頭政治は議論が続いている。


「ヒューリ殿はどのくらいの派兵を考えておられるのだ」

「派兵の規模は、大きければ大きいほど良いではないか。政府に歯向かう者は殲滅あるのみ!」


「しかし……住民相手に」

「何を甘いことを。彼らは我ら政府を侮っているのですぞ!! 」


もちろん、法案はこれだけではないが、出兵法案に対して多くの時間が割り当てられている。


※1主席補佐官が割って入ってきた。


「閣下。かつて南部の農民暴動が発生したときですが、1,200名の派兵により治めた前例があります。今回も 1,200名 の派兵が適切かと思われます」


「我がプロメンテには、5千の軍人がおるのだぞ!!少なすぎる」


「そもそも、軍とは住民を守るのが使命。それを住民と倒すために使用するのは、本来の目的から大きく外れます」


補佐官が食い下がる。あの演説に行政内も同情的な意見があるようだ。

ましてや、同じ国の民への暴力行為の執行である。通常であれば認められるはずもない。


「……1,200名であれば問題ないのか? 根拠は? 」

一人の執政官が、問いただす。


「はい。 暴徒鎮圧の目的として、20年ほど前も当時の執政官が、了承しております。 これであれば、周辺国への理解も得られると思います」


「わかった」

「何を勝手なことを!! 」


「ならばヒューリ殿あなたが、説明をなさるか? 」

「……わかった。了承しよう」


「当時の編成はどうなっている」

「歩兵戦闘車のみと記載があります」


「だめだ!!航空戦力でつぶすんだ!! 」

「1個中隊の空挺師団の追加だ。 これ以上の力は、国民からの理解が得らえない」


「貴様~」


「私はこの法案が通過したら、執政官を辞任する。貴様程度に付け込まれたのは、身から出た錆でもあるり、私の人生最大の汚点だ。 よかったな、ヒューリ。これで邪魔者がまたいなくなるぞ」


「……ふん」


その日、派兵規模1,200程度が公表された。

あくまでも暴徒鎮圧のため、情報公開をしたようだ。 そして執政官の一人の辞任も決まった。


総司令官は、ヒューリとなった。

情報はプロメンテ中を駆け巡り、あとは開戦の日程を残すのみとなった。


---議場終了後

彼は機嫌がいい。 厄介者は自ら辞任。 残りの一人は、こちらの傀儡になっている。

ドアがノックされる。


「入れ! 開いているぞ」


秘書リーラインが、入室してくる。

「失礼いたします……ご機嫌がよろしいようでなによりです。閣下」


「ああ。こんなに上手くいくものとは、思わなかった。私がこの国の中心の様だ」

「閣下は、既に中心におられますよ」


「おお。そうだったな。ところで、何用だ? 」


「先日言われておりました、指揮官の選出が完了いたしましたので、リストをお持ちいたしました」


「見てみようじゃないか。 目ぼしいのはいるのか」


「やはり実戦を経験した人物がよろしいかと思います。近年ですとキンメリア・サバエアの動乱時にトロイ島攻防戦へ1個中隊を派遣しております。その時の司令官がよろしいと思います」


「あの負け戦の将か……」


「しかし、実戦を経験しているのとしていないのでは、やはり練度に差があると思いますが」


「わかった。 まずは、リストを確認するとしよう」

「こちらに」


秘書リーラインから、リストが渡される。


--- 指揮官面接


ヒューリは、ソファに腰掛け、秘書リーラインがもってきたリストを眺める。

執務室のトークン(火星産)が、紅茶を出してくる。


香りの高さと、口に含んだうまみと苦みの調和がちょうどいい。


秘書リーラインは、執政官ヒューリの前の席に座り、彼がリストを確認している様子をお茶を飲みながら次の指示を待っている。


リスト内には、確かに優秀そうな人物が列挙されているが、どれも災害時の実績ばかりで肝心の戦闘経験者が少ない。 事実、めぼしい人物となるとやはりトロイ島防衛作戦を経験したものが、素人目にも適切に思うことなる。


「トロイ島防衛作戦の経験者で軍を指揮できるものは……」


ヒューリの目に2人の人物が目に留まる。 グルジョ大佐とラグレン中佐になる。 

彼らは、防衛作戦におけるプロメンテ部隊の司令官と副司令官であった。


「この2名か……」

しかし、リストだけでは、人となりが不明である。そもそも余程の愚行をしない限り、このリストには汚点は乗ってこない。


となれば、本人に直接今回の作戦の意見を聞くのが的確だろう。

「リーライン」

「はい」


「この2名に面接を実施したい。日時をアレンジしてくれ」

「承知しました。 閣下」


こうして2人に面接を行うことになった。


--- 大佐グルジョの場合

数日経過したのちの執政官執務室


「ご足労痛み入るよ。大佐」

「閣下のご命令であれば、いつでも馳せ参じます」


「さっそくだが、プロメンテ農業地区への鎮圧計画は知っていると思う。その件で大佐にご助言を伺えればと思ってな」


「何なりと」


「結構。 では大佐ならこの計画にどう対応する? それとただの雑談と思ってくれて構わない。 私もいざ軍を動かすとなると素人でな、実際に前線を指揮した人物から忌憚のない意見が聞きたいと思っただけなのだ」


「まず、1,200名の全軍を用いてプロメンテ農業地区の北東側平原に陣を敷きます。

歩兵戦闘車といえども、素人目には戦車同様、まずは空砲による威圧を行います」


「ほう」


「相手はただの住民。これで彼らの交戦意志は砕け、投降を呼びかける策になります」

「彼らがそれでも、交戦意志を折らなかったら」


「次段は、実弾による威嚇を行います。実際の土煙をみることで、暴徒共も怯むでしょう。武器があっても、所詮、猟銃や農耕器具程度。 この段階ですでに勝敗はついております」


「……敵の人命優先か?」


「いえ。自軍の損失を最小限に抑える方法と考えます。 猟銃や農耕具であっても凶器には変わりません。 できるだけ、白兵戦のような近接戦闘は避けるべきと考えます」


「それでも向かってきたときは?」


「……もちろん、撃破します。 歩兵戦闘車と住民では戦力が違いすぎます。 まず勝利は揺るがないでしょう」


「会い分かった。我に時間を割いてくれて感謝する。作戦の一考にさせてもらう」

大佐は敬礼をし、執務室を退室していった。


「どう思う?」

秘書官に話しかける。


「正攻法だと思います。 農民との力の差は歴然。 兵に傷を負わせる事なく勝利を目指す方針は、まさに最適解といってもいいでしょう」


しかし、秘書リーラインの回答に、ヒューリはどうも腑に落ちない様子である。

「……違うな。そうじゃない。もっとこう圧倒的というか大いなる勝利が欲しいのだ」

(ほう――どん欲だな)

 

--- 中佐ラグレンの場合

日をずらし、執政官執務室には、もう一人の人物を呼ぶことになる。


「失礼します」

「よく来てくれた。中佐」


「私のような若輩者への面会ありがとうございます」


「まぁ固くなるな。ところで、プロメンテ農業地区への鎮圧計画は知っていると思うが、その件で中佐の意見を伺えればと思ってな。 ただの雑談と思って答えてくれればいい」


コーヒーを一口に入れる。

「貴殿ならどのような計画をたてられるか?」


「はい。 まずプロメンテ北の森に誘い込みそこで交戦を行います」

「……樹林帯の中での交戦か。理由をお聞きしよう」


「彼らは暴徒であり、賊軍になります。賊軍はプロメテの秩序を保つためにも殲滅される必要があります。しかし、北東の平原で殲滅した場合、多数の住民の死体が問題になります」


「問題になるのか? 」


「多数の死体が野ざらしになることで、見方によっては住民を虐殺した軍隊になってしまいます。 恐らく政権の印象も著しく悪化するでしょう。 事実、現在、プロメンテ・シティ地区の中には、暴徒に対して同情的な雰囲気がるのも事実。 ヒューリ様の印象を悪化させることは、避けねばなりません」


「……それで」


「樹林帯での攻防であれば、死体の隠ぺいは容易ですし、探すのも苦労するはずです。 死者の数が合わなくとも行方不明で片づけることが可能です。 政権への被害を最小に抑え、国民には、暗黙の恐怖を受け付けることもできます」


「……続けろ」


「大まかな作戦内容ですが、部隊を3つに分けて中央を囮として、暴徒共をひきつけます。その後、自陣深く誘い込んで包囲し殲滅を仕掛ける算段としております。 戦闘後は何が起きたか分からないが、人がいなくなった。その状況を作ります」


「……大佐グルジョは、別の意見だったようだが?」


「今回は、雑談とのことでよろしいでしょうか?」

「もちろん。 忌憚のない意見が欲しいからな」


大佐グルジョは正直に申しまして、決断力に掛ける部分があります。 素早い判断こそが戦局を大きく分ける。 たしかに、トロイ島防衛は失敗しましたが敗因は、決断力の遅さだと考えております。 それに、大佐は政権に関してご心配されておられましたか?」


「……いや」


「私はヒューリ様の体面も考慮しての作戦になります。 ぜひ私を討伐の指揮官にしていただけばと」


彼の眼には野心を見逃すほどヒューリも間抜けではない。

「ほぅ。 大きく出てきたな。 ……何が望みだ?」


「作戦成功の暁には、軍権を私に任せて貰えないでしょうか。 さすれば私は、ヒューリ様に絶対の忠誠を誓いましょう。 結果としてヒューリ様は、政治と軍事を抑えたことに等しくなり、今後の政権も安泰と存じます」


「……長い付き合いになりそうだな」

中佐は敬礼をして、執務室を後にしていった。


これで両名の面接が完了したことになる。

執務室には、ヒューリと秘書リーラインが残ることになる。


しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのは、ヒューリであった。


「いい案だな。 無茶な出兵かと思ったが存外、面白い方に転がる。 盤石な政権基盤を作る一助になるとは……奴を指揮官に任命する」


「承知しました。 各方面に対しての書類の作成に入ります」


執務室を後にするリーライン。 庁舎内の廊下を考え事をしながら進んでいく。


野心家の軍人か。ヒューリに取り入り出世を望むか……今のところラグレンの案は、住民の命と引き換えに、政権基盤を強固にするのに大いに役立つ。 まず失敗はないだろう。


我々にとっては好都合……だが、ヒルベルト商会が気になる。 調べていけば行くほど、底が見えない奴らだ。


ただの商人かと思ったが宇宙海賊相手の戦闘経験が、異常なほど突出している。

しかも、まだ商いをしているところから、すべて打ち勝ってきていると観ていいだろう。


百戦錬磨との言葉がこれ程似合う組織もない。


とはいえ、本国(タニア連合王国)からは静観せよとの指示が出ているため、私としてはどちらに転んでも問題ないところではある。 とりあえず書類の作成を始めようか。

 

--- プロメンテ動乱の幕開け


タツマとビャーネ氏は、商社プロメンテの執務室でモニターを見ている。

「始まったね」

「……そうですね」


報道中継からヒューリの演説が流れている。

“プロメンテの自由と正義を脅かすネス・ビャーネ氏は打倒される必要があり、農業地区は新たな統治者によって解放さるべきだ……。


もはや話し合いは意味をなさず、言葉はただの雑音になってしまった。我は苦渋の決断として鎮圧計画を実行するに至る。


往年の執政官も農業地区への鎮圧部隊を送った経験があり、それに沿った派兵であり規模も同様である。


そのため、今回の派兵も適切である。巷でいわれるような住民虐殺のような規模ではない。

我々はプロメンテの自由と正義のために苦渋の決断さえいとわない。


死者を出す罪は全て私の失政によるもの。この罪は一生背負っていく。しかし、進まねばならないのだ!! ”


要約すると以上のようだ。よく言えたもんだな。続いて指揮官の任命だ。


中佐を鎮圧作戦の指揮官に任命するとのこと。

普通は大佐以上のような気がするが。中佐の演説も流れてくる。


“悪辣なネス・ビャーネ氏とその一党は速やかに降伏しろ。さすれば命の保証はする。我々は何も恐れない。何物にも邪魔をされない。自由を正義の旗印の下、プロメンテ大橋を正面から渡り、威風堂々と農業地区へと行進する”などなど。


「聞くに堪えないな」

タツマの眉間に皺が寄る。


最後にヒューリから、降伏までの時間を与える。

1ヵ月以内に投降すれば本作戦は中止し住民の安全を約束する。よくよく熟慮し回答せよ。


とのことだ。恐らく、鎮圧軍の編成への時間だろう。こちらが降参しますといったところで無視されそうな勢いである。


「それにしても、本当にアクションを起こしてくたね。 重要な作戦ルートまで示してくるとは――といっても、こっちの兵力が地域住民と思っているのだから当然か」


陽動の可能性もあるが、わざわざ大橋からお邪魔すると言っている辺り、樹林帯にこいよってことだろね。


お茶を一口飲む。

「アルプ。この中佐ラグレンってどんな奴?」


『軍のネットワークまでは無理です。 ただ、プロパガンダ情報として、キンメリア・サバエア動乱に副指揮官として従軍との見出しはあります』


「副? それなら、当時の指揮官を当てるべきと思うけどな――」

タツマが疑問を口に述べるがそれ以上の解答はない。


当時の指揮官に問題があり過ぎたのか、こいつ(ラグレン)が政権と癒着しているかのどっちかかー。

後者なら大いに歓迎なんだけど。


「中佐が指揮官ね。 ビャーネさん。 その辺り何か分かります? 」


「それは、必要な情報でしょうか? 」

「かなり重要かもしれない。 指揮官の能力を知ることは、戦を優位に進める一歩だし」


「承知しました。このような老いぼれでも顔は広いので調査しておきます」

「ありがとうございます」


タツマはカップに残った最後の紅茶を飲み干す。


「アルプ。 現状の訓練状況は?」


『南方の樹林帯内で順調に進んでいます。コンバットスーツ300体はかなりの出費ですですが、運用も順調です。カービン銃の扱い方にも慣れてきています。セレンとの制御区分も訓練を通して順調に進んでいます。 樹林帯の仕込みも完了済みです』


「了解だ。 出動指揮・配置・整備計画の進捗は?」

『ほぼ完了しており、現在最終確認中です。 数日以内には迎撃の準備が整います』


「上出来だ」

平穏な土地での戦とは、これほど厄介なことをよくやるよ。


「それとカーゴで陣地作成に取り掛かってくれ。 兵士の移動も頼む。 兵士・地域住民には、コンバットスーツの情報が外に漏れないことを徹底してくれ。 もし情報が洩れたこちらが不利になる」


『了解です。 行動に移ります』


後日であるが、ビャーネさんより情報がもたらされる。


奴は、ナーミャンと知り合いらしく彼女をライバル視していたこと。

トロイ島上陸作戦時は、彼女が総指揮官にいたことで最終的に出張ってきたらしい。


イラついていたのはテッサリアの総指揮官ではなく、こいつかー。

作戦の総司令官に上申したのだろう。それで作戦を失敗したと。


実戦で相対したときに、かたや総指揮官と自分は一中隊の副指揮官で拗らせたといったところだろう。

―― それで、作戦をダメにするとは……


どうやらボンクラのようだ。


―― 多少は、風が吹いてきたか? この程度のハンデがなくては、こちらに勝ち目はない。


※1主席補佐官:官僚のトップであり、官僚組織と執政官を繋げる橋渡し役。


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