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受難続きのテラ惑星間貿易商  作者: 椎谷 急須
4章 再禍動乱
28/52

熱風至

--- 数日後


ビャーネ氏のネス邸の前に報道記者が殺到している。プロメンテに歯向かう逆賊から会社を狙われた哀れな老人まで好き勝手に書かれている。誹謗中傷から妬みまで凄い状態になっている。


彼は臆さない。自分の信念と会社を守り、社員の生活を守るために毅然と立ち向かう。


“降伏するのか?”

“戦うのか?”

“なぜ執政官に歯向かうのか?”

“住民を盾にして恥ずかしくないのか?”


などなど、意見が発せられる。

しかし、彼はいつもの穏やかな口調で言葉を紡ぐ


「私は、先の会談で一度でも彼に歯向かったことはありませんよ。彼は会社を共に経営したいと言っていた。 しかしそのビジョンが見えなかった。 会社は社員と共にあるならば、方針を共に決めるため質問をするのは必要でしょう。 これがその時の音声ですよ」


音声データを流す。

そこには、無理な理論で攻めたてるヒューリと終始落ち着いたビャーネ氏の問答が記録されている。


「我々は、暴徒ではないのです。ただ、この地で平穏に暮らす住民です。 会社もたまたま大きくなりましたが、プロメンテ内にある会社でどうしてプロメンテに歯向かうのでしょうか。


ここで暴動を起こしても我々に利益はあません。 それに、報道者の方々がご覧になっているように、この地で暴力的な状況もなく住民が唯々穀物を育てているだけの地域にどんな戦力があるのでしょうか?


暴徒鎮圧軍など派遣せず、他の執政官にもこの地に来ていただいて、状況を把握して頂ければと思います。


加えて、鎮圧法案を取り下げていただければと節に願います」


報道記者達は、何も言えなくなった。今回の出兵はむり筋過ぎる。

しかし、彼らもヒューリからの息がかかっている。挑発的な言葉で何とか失言を取ろうしている。


しかし、ビャーネさんは、何も動じることもなく報道陣に対して、ただただ鎮圧法案への取り下げを何度もお願いしていた。


その日の報道は、結局ビャーネさんの対応のみが流れることになる。

偏向報道するにも材料がなさすぎる。加えてネス・ビャーネの人柄で細工すらできなかったようだ。 


―― 人の良さが窮地を救ったか……

報道を見ながらタツマが苦笑する。


「タツマさん。どうしましたか?」

「いえ。相変わらず良いお茶と思って」

お茶を煎れて貰ったカップを前に出す。


「そうですか。 どうでした。 特に演技も細工もできていませんが」


「ええ。 問題ないですよ。 さてと、我々とアルプは、これから実戦準備に取り掛かります。 ビャーネさんは、住民への説得と戦闘参加の加入をお願いします」


「はい。 しかし、今まで農耕具しか扱ったことのない人間に人殺しとは……」

現在ヒルベルトのトークンが200体以上と最新のコンバットスーツが、300機確保できている。


「この地域を守るためです。それに戦闘経験がない者でも、コンバットスーツの戦闘支援プログラムにより命中率や危機回避などの機能により、素人でも数日で一般兵士以上の活躍ができるでしょう。 なので、戦闘参加できる人員が絶対必要になります。 必ず所定人数の確保をお願いします」


簡単に言えば、地域内の人間を徴兵する役目をビャーネさんに与えたことになる。

ビャーネさんとの協議の後、部屋を出る。


『上手くいきますかね』

「上手くいかせるんだ。明日を掴むためにもね」


『戦闘は、数と聞き及んでおります。 こちらが圧倒的に不利なのでは? 』

「戦は、数以外にも戦況を左右するものは、あるものさ」


さてと、こちらもじっとしている暇はない。

迎撃の準備をしなくては。タツマの顔つきが変わる。


「アルプ。 戦場予定地を調査するぞ。 付き合え」

『了解です』


--- 名もなき樹林帯 地域

プロメンテ農耕地区と北部プロメンテ・シティ地区との間には、樹林帯が広がっている。


樹林帯の中は、道が走っているだけで、特に開発されていない地域である。

しかし、交通量はそれなりに多い。


と言うのも東に向かえば、シメリア(鉱山都市国家)に西に向かえばヘスベリア(ヘラス海に面している港町)やメレア(ヘスベリアの衛星都市)に出る街道に繋がっている。


つまり、各都市がプロメンテ・シティ地区に直結可能になっているともいえる。


樹林帯へは、プロメンテ大橋を通って河川を渡り森の入口に向かう。


翌日、その樹林帯の入口に一台の車両が止まる。

中から出てきたのは、タツマとアルプのコンビである。


「アルプ。 今回の作戦は、奇襲だ」

『数の差をひっくり返すには、確かにそれしかありませね』


「速攻による決着を着ける必要がある。 そのために迅速な部隊運用と遅れのない作戦遂行が必要だ。 恐らく1日で形勢を決めないとこちらは敗北だ。 長期間の組織維持は不可能だ」


『了解です』


「河川の向こうとこちら側に陣を敷くが、主力はこの樹林帯の中でけりをつける必要がある。

プロメンテの主力が、樹林帯を抜けられた場合も敗北になる」


『敗北条件が多いですね。私を連れてきた理由は何でしょう? 』


「この樹林帯の中で、バグドローンのネットワークを張り巡らす。軍の規模や移動速度をリアルタイムに知るためだ。 今まで室内で行っていたのは、ただのシミュレーションだ。これからはフィールドワークさ。 シミュレーションを現実に落とし込む作業さ」


『なるほど』


「アルプには、場所と地形のデータ取得してもらう。こちらの数少ない利点として、戦場を事前調査できる点がある。これから1ヵ月間、ここに滞在して徹底的にこの地を調査し反抗作戦を練って迎え撃つ準備をする」


『了解です』

地道な調査が始まる。


戦況の推移として、まず回転翼機の空挺団がネス邸を抑えるだろう。

大将首を抑えるのは常道。 故に、ビャーネさんには、どこかに隠れてもらう。


おそらく、近隣を含めて屋敷内を空挺団が全力で探し回るだろう。

一晩だけ隠れてくれればケリは付けられる。


都市国家であるが故、兵力がそれほど豊富で無いのが、救いである。


一撃で致命的な打撃を与えて、後はシティ地区を恐怖に陥れれば、おおよそ勝利が見えてくるはず。 タツマの頭の中にはおおよその作戦が繰り返し、思考されていく。


―― その前にあのカーゴ群は移動させる必要があるよなーバリゲードのように、橋のたもとに並べるか……


前線指揮は白翼の騎士団が行うことにする。 住民が行ったとなれば、今後の生活に支障がでる可能性があるためである。


住民はプラカードと農耕具をもって後方で陣取ってもらう。

囮であっても武器らしいものを持っていない住民を機銃掃射はしないだろう。


―― ここにきてサナエさんの白翼の騎士団が役に立つとはね。

丁度いいスケープゴートをでっち上げることができる。


それに、敵はこちらを農民相手であり、実戦経験がないと侮っている。

この情報の不均衡は、勝利への絶対条件になる。


―― 部隊長の質が高くても緊張感は維持できないはず。つけ入るならばそこだな。


タツマが考えを巡らせながら樹林帯の中の道を歩いている。

『樹林帯ですが、片側1車線の2車線ですか。車両の通りもそれなりにありますね。本当にここを戦場にするんですか?』


「こちらとしては、そうしてもらわないと困る。 シティ地区とヘスベリア(港町)とシメリア(鉱山都市)を結ぶ動脈だが、ここでの戦闘でないと我々に勝機はないからな」


『地図を見ると3本の道路が通っているようです』


「そうだな。道が各方面に分かれるが、どの道を通ってもあのプロメンテ大橋につくようになっている」


西側には丘があり、東側には北側からの川が流れ込んでいる……。


樹林帯でかつ多少の丘になっている。 直線でも見通しは効き難く、道の両側も木々があるため、視界は悪い。


「アルプ。バグドローンでのネットワークを構築した場合、何体まで対応可能? 」


『バタフライタイプで同時に動かすのは100体が限界です。バグドローンを静止状態にしてネットワークとして情報を吸い上げるのでは、500体まで行けます』


「なるほど……。この樹林帯にバグドローンを配置して各道沿いに配置。敵の進軍状況を確認したいが、可能? 」


『移動がなければ問題ありません。各道沿いに150台のバタフライタイプを配置して、少量の偵察ドローンを飛ばすのでどうでしょう』


「その案でいこう」

風が吹き、森がざわめく。いい音だ……。頭を冷やすんだ。冷静に。冷静に。


「アルプは、トークンの同時制御は何基対応できる」

『監視をしながらでは、無理です。0基です。監視の負荷がなければ、10基といったところです。正直、タツマの要望に応えるのであればセレンに頼むしかないでしょう』


セレンの偉大さに感服するね。とにかく、今回の戦はセレン頼みだ。

いつも頼ってばかりだな。


『しかし、タツマ。 敵は本当にこの道を利用するのでしょうか。 樹林帯を通らずとも大きく東周りで進行して北東の平原での戦闘の方が、プロメンテ軍にとっては有利と考えます。


経済的な影響や危険を冒して樹林帯での戦闘を望むとは、合理性に欠けます』


「合理的にそれは正しい。 実際そうなったらこちらの負けだ。 しかし、相手はこちらをどう見ているか? 恐らく暴動している戦闘経験がない農民と見ているはずだ」


『慢心と侮りですか? しかし、白兵戦になればプロメンテ軍も無傷とはいいがたいですよ。 平原での正面衝突であれば、威嚇のみでこちらは降伏だと推測します』


「私が考えているのは、人の野心だよ」

『野心? 』


「プロメンテ軍は、前回の戦争でこっぴどく負けている。 政府としては、大勝利が欲しいだろう」


『なればこそ、平原で戦うことが最良になります』

「戦死者の処理はどうする? 」


『……』

「ここでの勝利とは、純粋な敵の死体の数だ。つまり農民の死体数だ。降伏ではないんだ。

しかし、通常の戦いに持ち込めば、同じプロメンテ領内の人間に対して一方的な虐殺が予測される。“これは戦いじゃない”そんな雰囲気に世論がなるはず。 実際に世論調査でもその傾向は出ている」


『例の作戦が、効果が効き始めているのですね』

ビャーネさんの情に訴えた、イメージ戦略である。


「そうなると虐殺シーンを見せずに勝利をする必要がある。平地などの開けた土地で戦った場合、死体はどうなる? 」


『野ざらしですか』


「そう。まさに悲惨な光景になるだろうね。そうなれば、軍の威信の問題が発生する。敵国であればいいけど。今回は自国内の住民相手だ。軍事政権下や恐怖政治が蔓延している国じゃない。そんな国家において自国内の住民を虐殺した軍隊となると。彼らの今後の活動に支障が出るはずだ。一方で、森の中の戦闘では? 」


『死体は見えにくいし隠しやすい』


「そうなる。多くの敵を倒したが、公表したくない。 自己満足に近い状態をつくりたい。 その状況を作るとなると、向こうさんも樹林帯での決戦を望んでいるはずだ。恐らくアクションも起こしてくれるさ。こっちは農民だから何も手を打たないだろうし、正面からくると考えるさ」


『……』


次の問題は、敵の大将首がどの道から来るかだ。


……恐らく丘陵地帯側になるだろう。この地形は全体に東側に傾斜しているから、中央が襲われたら動きやいのは西側になる。


なるほど、作戦が練りあがってきた。あとはセレンの能力しだいか。

引き続き、ドローンの設置位置と詳細な地形を記録していく。


--- 約1か月経過


一体どれだけ歩いただろう?樹林帯の獣道から地形の特徴をほぼ網羅が終わった。もはや住民以上に知っているかも知れない。カーゴは大橋の手前に設置するか。


バリケードに託ければ問題だろう。後はセレンしだいか。ここが要になる。場合によっては無条件降伏になる可能性すらある。相変わらずの綱渡りだな。


『タツマ。マスターからの連絡です』

「繋いで」


*** 通信中 ***


≪聞こえる?≫

≪聞こえているよ≫


≪気分はどう?≫

≪最悪だよ。セレンは?≫


≪あら。私の体調は、気にしてくれないの? ≫

≪すまない。気が回らなかった。 あまり余裕がなくてね。 サナエさんの体調は? ≫


≪そこそこよ~ ねぇタツマ……逃げないの? ≫

≪できればいいんだけどさー≫


≪そう……。 セレンの改良は完了したわ。起動をかけるわよ≫


カーゴ内の通信機の脇に放置されたトークンが一体いる。ぐったりと座り込んでいる。

ボディに<セレン>と書かれた張り紙がしてある。


サナエさん曰く、シップマスターを地上で動かすためのボディーを作ったとのこと。

突如としてトークンの大きなモノアイが点灯して立ち上がる。


≪おお! 流石。天才だね≫


≪お金は大事だと思うけどさ。逃げない? 会社ならまた一からスタートすればいいじゃない。今なら間に合う。惑星間貿易商の資格だってあるし。 


それにプロメンテは、あなたの故郷でも何でもないでしょう? 命を掛ける理由がない! ≫


スピーカの向こうからは、悲痛にも似た声が聞こえてくる。


≪何度も思ったさ。ここに来たばかりでなんのしがらみもなければ直ぐにでも逃げていただろうね。 でもね、この土地でさ、住民一緒に、ここまで復活させたんだ。


寒い日にも重機を動かして、汗をかいて作り上げた土地だ。おいそれと手放せないよ≫


我ながらセンチメンタルだと思う.


≪いつものリアリストはどこにいったの? 兵力では圧倒的に不利よ。それに正規軍よ≫

≪セレン次第さ。 それに、こちらが不利であっても完璧な作戦なんてない。 必ず穴があるもんだ≫


≪言っていることはわかるわ。でも戦力差が――≫

≪最初からの負け戦は、しない主義でね≫


≪……≫

≪知っているだろう? 100戦錬磨のヒルベルト商会だ。 大丈夫。 策はある。 それに最悪は逃げるさ≫


≪わかった――。スマイル号からの衛星通信だからスペックは落ちるけど、セレンの性能は、大幅に向上しているわ。


トークン全てからの情報を衛星軌道上で処理するから、多少は処理スペックは落ちるけど、起動したトークンをハブとして機能させることで兵隊トークンの円滑な運用が実現するはず≫


≪ありがたいことで≫

≪地上のトークンの数体にハブ機能を持たせて多少改造しているわ。いま起動したのもそのうちの一つ≫


≪へー≫


≪本当は宇宙から地上のトークンの集団制御の実験用に制作したのだけど、こんな形で利用するなんてね――地上での活動で性能を上げるには、スマイル号を中継局として用いることが必要よ。 故に中継局であるそのカーゴは絶対死守して。 それが破壊されたら運用性能が、著しく低下する恐れがあるわ≫


≪了解≫


≪カーゴが森の近くにいるようだけど樹林帯の中では、バグドローンによる無線回線を構築すれば通信圏外を補完できるはず。 とにかく無線回線の維持に努めちょうだい。


そうしてトークンへのネットワークを構築できれば、大量のトークンの同時運用が可能になるはずよ≫


≪助かった。ありがとう≫

≪生きて……生きて……カムカム号に……帰ってきなさい≫


≪もちろん≫


*** 通信終了 ***


『マスターを泣かせてしまいましたね』

アルプが呆れたような声を出してくる。


「お叱りは、生きて帰ったらいくらでも受けるさ」

『了解です』


さてセレン・トークンがこちらを見ている。

「セレン。お久しぶり。状態は? 」

『極めて良好ですよ! 』


……あれ? テンションが。

『さて、話は聞きました。プロメンテ軍をボコるんですよね。作戦は?』


何も話していないよ。


「……ああ。アルプ。作戦資料を」

『こちらです』


データを転送する。


『ほー。いいじゃない。なるほど、トークン部隊が要ね。なるほど、なるほど。そこでセレンの出番ってわけね』


「……アルプ。大丈夫なの?」

『不明です』


『何体の運用が必要?』

「3~400体の同時運用ができると助かる。出来なければ、巡回制御の運用を考えている」


『大丈夫。ギリギリ大丈夫。安心して』

「そ……そうか。因みに随分テンションが高めになったね」


『そうですか? 変わらないでしょう』


……サナエさん。一体何をしたんだい。


いや、ここで飲まれている場合じゃない。

作戦の詳細を詰めて、住民の戦闘訓練も行わないと。


それとカーゴで前線基地も設営しないとな。

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