ホエールバック鉱山
タツマ達の潜入調査が始まる。
「本日からここで一緒に働いてくれるヒルベルトさんと相棒のアルプさんだ。
彼らはプロメンテで農業に従事していたが、一山当てたくてここに来たそうだ。みんな分からないことがあれば教えてやってくれ」
もうね。紹介の文言が事実だよ。 潜入捜査なのか通常の労働か分からなくなってくる。
「本日からお世話になります」
『お世話になります』
―― 今度は農業従事者から鉱山労働者にジョブチェンジかー。 一体何をしているんだ?
タツマの中に疑問が浮かんでくる。 自ら選択した職業であっても、まさに現場最前線の作業。
他にもっといい案があったかもしれないとの思い。
しかし、その疑問を追及していくと、よくわかなくなるので、敢えて深堀を避けている。
ここは、シメリア鉱山開発社が、所有しているホエールバック鉱山。 一番の稼ぎ頭の鉱山である。
しかし、帳簿上は、黒字ギリギリらしい。
朝礼の後、早速坑道に入っていく。
多くの従業員は、鉱山用のパワードスーツを着ている。
会社からの支給かと思いきや自腹購入とは、どこまでしょぼい会社なんだ。
といっても、タツマは身の安全を考えて上位互換のコンバットスーツの装備になる。
「ヒルベルトさん。なんか凄いの着てますね」
「ええ。金貯めて買ったんすよ。鉱山で当てるには投資が重要でしょう。おれの全財産っす」
言葉もそれっぽくね。親方からも一発を当てにきていることが気に入られたようだ。
「おめーも馬鹿だな。こんな鉱山じゃ何もないぜ。しけた経営者しかいねえんだから」
「それでもっすよ。動かなきゃ当たらないじゃないですか? 」
「それで、その高そうなパワードスーツみてえのか? 」
「そうっすね。全財産っす」
もちろん素人には、“高そうな装備だな”程度はわかるが、パワードスーツもコンバットスーツもよく分からない。金がない演出も忘れずに。
「ところで、あの機械人形はなんだ? 」
「あれは自分の相棒っす」
「ああ。 トークンってやつだろ? この辺りはでは、気にするのも少ないが、北部に行けば差別の対象だから気を付けろ」
行動の親方の目が真剣だ。
「ええ。といってもただのロボットですよ」
「ヒルベルトは、テラ(地球)出身だからそんな感じかもしれないが、マールス(火星)は“ノーマンズ・ライジング”でひどい目にあっているからな。 あれ系の機械人形に嫌悪感があるやつも多い。 気を付けろ」
「4,000年以上前の話でしょ? 」
「それでもだ。 なんせマールス(火星)人類が、窮地に追い込まれていたからな。 そこからの復活に千年単位を必要としている。 こうして俺達が生きているのも奇跡だとか言っていた、考古学者もいたぐらいだ」
一度、悪化した環境を取り戻すためには多くの時間がかかる。
***
当時の記録によれば、化学兵器・生物兵器・核兵器に加えて、軌道兵器が登場する。
衛星軌道からの自由落下による巨大物体の威力は、周囲の地形を抉り、粉塵を空に巻き上げることになる。 舞い上がった粉塵は、マールス(火星)地表に降り注ぐ太陽の光を遮るには十分すぎるほどの威力を発揮し、意図的な寒冷時代を作り出すことになった。
戦いによる死傷者と、環境破壊による食料不足、伝染病の蔓延による死者、多くの災害が同時に発生することでマールス(火星)の状況は致命的な状態まで追い詰められていた。
そして、その戦争の主役は、マールス(火星)人 VS AI となっている。
これが、人なき反乱 “ノーマンズ・ライジング”の正体であった。
そこでの尖兵として使われたのが、このトークンのような人型ロボットになる。
***
―― 拒否感が根深く残るのも当然か。
「分かりました」
タツマが納得したとの返事をする。
「分かってくれればそれでいい。 ――それにしても、あれは結構、高えんだろ? 」
親方の視線が、作業準備をしているアルプに向けられる。
「高いですが、中古品を安く譲ってもらったんす。 修理費が掛かりますけど、俺の相棒っす」
「そうか。 くれぐれもエラーで暴走させて、坑道の仲間を危険に晒さすことはさせるなよ」
「うっす」
といっても、求人面接では、坑道ににち込んでよいとの許可は得ている。
その代わり、給料は、二人で一人分との条件を付けられた。
―― とんでもない会社だな。
トロッコ列車をおして鉱石を運び出す。コンバットスーツだから苦にならないが……。
どうして自動化しないの? 惑星間を飛び回る時代だろ!.
と心の中で愚痴りもするが、作業を開始する。
作業手順は、コンバットスーツにデータをダウンロードするとバイザーメットに指示が出るため、人さえいれば、研修なく作業を行うことができる。
そんなこんなでアルプと一緒に肉体労働しながら日が過ぎて行く。
因みに、帰りは大型カーゴで多くの従業員と乗り合わせで、モーテル近くまで送ってもらうことになっている。
山から町の郊外まで徒歩はきつ過ぎるしね。
しかし、荷物用のカーゴで従業員を運ぶ当たり、この会社の従業員への扱いがよくわかる。
因みに、アルプとは郊外の安アパートに寝泊りしている設定になっている。
--- 鉱山労働のある日
初日から真面目に労働するタツマ達。
タツマは、前線の採掘係であり、トロッコを押したりしての肉体労働の日々である。
一方、アルプは後方の環境観測係になる。 例の山を調べるため、多くの機材をもちいながら、酸素濃度やガスの噴出。それこそ放射線を測定しながら行動の安全対策係を行っていた。
そろそろ初任給の日が近づくほどには、時が経過している。
“はー今日も終わりだ。終わり。お疲れ様~”
「おつかれーっす」
労働者達が家路につく。
バイザーメットを外して外の空気を吸う。いい気分だ。今日の夕食を美味しく頂けそうだ。
昼食は50マリベル(500円)の食事だからな。運動量に対してかなり足りない。
しかし、それもまた健康の秘訣かもしれない。 加えて最近、早寝早起きが習慣になってきている。
なんか体を動かす労働の方があっているような気がする。
実際、潜入捜査なのだが、普通に働いてしまっている。
仕事終わりの日々の達成感を自ているとアルプが話しかけてくる。
『タツマ。 少し話が』
「どうしたアルプ? 」
集団から少し離れた場所に向かう。
鉱山だけあって見晴らしがよく夕焼けもそれなりに綺麗である。
アルプが、こちらを向き、タツマの背後の山を示し、語りかけてくる。
『可能性の話と聞いてください。この山の鉱床ですが、爆雷石があるかもしれません』
「爆雷石――ハァー? こんなくたびれた山に? まさかー」
『断続して起こる微弱な放射線を調査していますが恐らくは――確定には、もう少し詳しい調査が必要になります』
「※1オガネソンの鉱床……ね」
『どうします? 』
「どうしますって……どうしよう」
いきなり希少鉱物があるって言われれば、戸惑うよ。
『ビャーネ社長やあの共同経営者に話してみます?』
「それ回答が分かっていて聞いているだろう。確か近々、発破工程があったね」
『はい』
「その時に、詳細なデータを取得して最終確認をしよう。もし、良好な結果がでたら……この会社乗っ取るか? 」
『それがヒルベルト商会の利益になると思います。しかし、ただ売ってくださいと言えば、あの男は必ず怪しみます。そして恐らく調査もするでしょうね。 かなりの手練れですよ』
「だろうな。少し考えさせてくれ」
『了解です』
“おーいカーゴが出るぞー!!”
駐車場からの呼び声が聞こえてくる。
「今、行きまーす!!」
とりあえず、帰宅手段の確保が先だ。
*
既に1ヵ月は過ぎようとしていたが、さらなる延長して1ヵ月をモーテルの主人に伝えたところ喜んで了承してくれた。
サナエさんは、仕方ない雰囲気を出しているが、プロメンテ(穀倉地帯)よりも涼しいため避暑地として考えると悪くはない。
ビャーネ社長にはやることができたと言ったら、快く了承してくれた。
そうそう爆薬の件だが、想定通りだった。鉱山の労働者を少しでも多く長く雇いたいのとの申し出でだったので、無償で提供したとのこと。
ダメでしょう。 社長なんだから、お金をもらって仕事しないと。
まぁ小言は後にする。 いずれ商社プロメンテの鉱山共同経営権も必要になるからね。
さて、衝撃的な告白から半月ほど経過したある日、アルプが変な機器をモーテルに持ち込んできた。
「これは?」
『放射線測定器です。原子核が崩壊する際に出る放射線を測定し、元の物質を調べるものです』
「そこそこの大きさだけど、これを設置するの?」
『発破時に発生する放射線のデータを無線により収集します。 これで、鉱山の地下に埋まっている物質が分かります』
―― でかいけど。まぁ設置できるか?
『タツマの方は、鉱山共同経営権を奪取する方策はどうです? 』
「うーん、まぁ、なんとなくかな。あの手の疑り深いのを騙すのは難しいようで簡単なんだよ」
『了解しました』
--- 発破作業前日
「ヒルベルトさん悪いねぇ。 夜勤の見張り交代してもらって」
「問題ないっすよ」
昼間は労働して、夜は見張りか……手を抜いて仕事した分、疲れは少なくて済んでいる。
―― これもコンバットスーツのおかげか。
取り敢えず、金が欲しいとのことで夜勤の交代をかって出る。
こんな、くたびれた山に盗むものなんかないのだが、一応、重機や機械類はあるので見張りを置くようだ。
現在、広い鉱山の入口の警備小屋にいる。
「さてアルプこれから夜警だ。 荷物は持った? 」
『持ちましたよ。 明日の発破場所も確認ずみです。出発しますか? 』
「そうだな。早めに対応して、楽をしようか」
夜警小屋から出て目的地に向かう。
鉱山道を外れ、岩山の傾斜を上り、岩肌を這いつくばって向かう。
ライトを照らすと目立つため、暗視機能による進行になる。
道から外れているため、足場は悪い。
「歩きにくいな 」
『それでも下見をしているだけましです。こんな重たいものを持って、事前知識なくここには来たくないですね』
時たまバランスを崩しながら、先に進む。
「ここだ」
周囲は漆黒であり何も見えない。
が、そんな中だと光源は良く目立つ。
「おい! あれ」
タツマが、山裾に十数名のヘッドライトの光を見つける。
『あそこは運び出しの鉄道があるところですね――横流しの現場でしょうか? 』
「それ以外に考えられないだろうこの時間だぞ! 」
『例のパーシ氏もいるんですかね? 』
「くっそ! 一生懸命働いた成果物の横取りで小遣い稼ぎとは」
『高ぶっても解決しませんよ。こちらの作業を勧めましょう』
冷静なトークンからの助言により作業にかかる。
目的の場所にハーケンを打ち込み引っ掛かりつける。
それに機器を固定し作業を完了する。
「電源は、入れていいのか? 」
『入れてください。明日の夕方まで連続稼働できるだけの容量はあります』
機器のスイッチを入れると機器から低い機械音が聞こえてくる。
「どうだ。 数値は出ているか? 」
『いいえ。今のところ何も観測されていません。機器との通信確認。 作業完了です。戻りましょう』
機器の稼働は問題なし。明日が楽しみだ。
--- 発破作業当日
「おーい新入り!!そっちの爆薬設置はどうだー」
「問題ないっす。こっちは設置場所に全部設置完了でーす」
タツマも爆薬確認班として最終チェックを行っている。
爆雷石の鉱床は、現在掘削している坑道よりさらに下部にあると推測されている。 今回は、上部で巨大な発破時の振動と爆発の圧力で破壊される爆雷石の状況を見ることになる。
―― 爆薬もセットしたし、あとは、結果待ちか
そんな思いで確認作業を続ける。
*
チェックが終わると、鉱山労働者一同が広場に集められ、発破作業のセレモニーが始まる。
勿論、壇上にいるのは、例の詐欺師である。
“輝かしい鉱山の未来にために” 自分に酔った演説をしているが、傍から見れば、白々しいのにもほどがある。
―― 坑道も下へ下へと来ている。 見つかるのも時間の問題か
演説も終わり、彼の合図でスイッチが点火され爆薬が轟音と共に爆発する。
地面が揺れ、籠った突き上げるような音が周囲の空気を揺らす。
鉱山周囲が莫大な砂煙に覆われ、地響きもまるで地面が動いているようだ。
―― 凄いな。 これが発破作業か……。
完了すると拍手が関係者間で起きる。成功を讃えているようだ。 詐欺師も満足げに振舞っている。
「アルプ。 どう?」
『間違いありませんね。計測機が振り切れています。爆発により多くの放射線を近接で観測しました。 爆雷石の鉱床が、この鉱山にはあります』
アルプが断言してくる。
「なるほどね。さて、次の作戦にいきますか。ビャーネ社長にも少し動いてもらいますか」
詐欺師は詐欺に気づきにくい。なぜなら騙されないと思っているから。
その傲慢さよる失敗、身をもって体験させてやるか。
※1 四フッ化オガネソン: 通称、爆雷石。 非常に希少な鉱石であり、現在はテンペ大陸のクサンテ(鉱山都市国家)が、産出地になる。 濃縮、生成されたものに、数万A程度を加える事で瞬時的に莫大な熱を放出する特徴がある。端的に言えば、電気で起爆するお手軽な原爆といったところになる。
利用価値が多い鉱物でもあるが、欠点として、反応が安定していないことが上げられる。 こぶし大のオガネソンの塊に電流を通電した際は、都市一つを吹き飛ばす破壊力から、爆発もせず、崩壊を起こして別の物質になるだけと非常に扱いに困る代物になる。通電のタイミングや入力電流等が繊細なため扱いが難しい。
実用例としては、少量のオガネソンのペレットを多数設置し、数万Aの電流を通電させることで、十数億度の熱エネルギーを発生させ核融合の起爆剤として利用されている。




