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59話 マナ因子

 ――魔人に向かい、二人が駆け出す。


 ディランが加速して、クローベアの爪を叩き込む。

 瞬時に距離を詰めた鋭い一撃を、魔人は避けることなく左腕で受け止めた。


「なに!」


 確かな手応えと裏腹に、魔人は怯むことなく右腕を振り上げた。


 ディランが盾を構えた次の瞬間、振り下ろされた腕が盾に激突した。


 ――ドォンッ!!


 衝撃が腕を痺れさせる。


「ぐっ……!」


 歯を食いしばり、盾を押し上げる。


 体勢を崩した魔人の脇へ、フラムが滑り込んだ。


「はあっ!」


 炎を纏った剣が振り抜かれる。


 赤い軌跡が魔人の肩口を斬り裂き、肉が焼ける臭いが広がった。


 魔人が咆哮する。


 その一撃を受けても倒れることはなく、むしろ怒り狂ったように腕を振り回す。


「ちっ……!」


 ディランは盾でその一撃を受け流し、距離を取る。


 魔人は二人を睨み据えた。


 濁った目。


 その奥に、かすかに人の面影が残っている。


「……ギュメル」


 ディランが低く呟く。


 魔人の喉が震えた。


「……ぐ……」


 次の瞬間。


 魔人は頭を抱え、苦しむように呻いた。


 黒い靄が身体から噴き出す。


「……わた……しの」


 かすれた声。


 フラムが目を見開く。


「……喋った?」


 魔人の口が震える。


「……けっ……さく、を!」


 だが、その言葉は最後まで続かなかった。


 黒い靄が一気に膨れ上がる。


「ガァァァァァッ!!」


 理性が完全に消えた。


 魔人は咆哮し、再び突進してくる。


「ディラン!」


「ああ!」


 ディランは盾を前へ出し、正面から受け止めた。


 衝撃を殺し、その場に押し留める。


「今だ!」


 フラムが踏み込む。


 炎が剣に集まり、一気に燃え上がる。


「燃え尽きなさい!」


 振り下ろされた刃が、魔人の胸を深く斬り裂いた。


 赤い炎がその身体を包み込む。


 巨体が大きく揺れた。


 そして――


 ゆっくりと膝をつき、そのまま地面へ崩れ落ちた。


 静寂が戻る。


 魔人から溢れ出した黒い靄は徐々に薄れ、ギュメルを包み込んだ。


 アルフテッドが慎重に近づく。


 そして倒れた顔を見て、低く言った。


「……ギュメル」


 重い声だった。


 フラムは剣を下ろし、小さく息を吐く。


「結局、何も聞き出せなかったわね」


「……だが、どうしてギュメルは魔人に?」


 ディランはギュメルの亡骸を見下ろす。


「わかりません……聴取を行った者の報告では、突然苦しみだしたとしか」


 短い沈黙が落ちる。


 ディランは盾を握り直した。


「状況的に考えれば、教国の者がギュメルの口を封じるために何かしたか……」


 フラムが唇を噛む。


「捕まった仲間まで、こうやって口封じするの?」


 アルフテッドの表情も険しい。


「しかし、警備隊の地下牢に捕えられていたギュメルにどうやって?」


 ディランはゆっくり息を吐く。


「これは、あくまで俺の推測だが……イスフィールに関与できる力を教国が持っているのなら、不可能ではないはずだ」


 フラムが横に並ぶ。


「それって、どこにいても手を出せるってこと?」


 炎の剣がわずかに揺らめく。


「わからん……そういう魔法や手段が存在するかもしれないが」


 三人は深刻な表情で、黒い靄に包まれて崩れていくギュメルを見つめていた。



 ――その傍ら


 建物の陰からディランたちの様子を伺う人影があった。


「ギュメルの消滅を確認……"マナ因子"の直接的な投与では、魔獣と融合した場合と同様に自我を喪失」


 感情のない声音でそう告げると、男は黒いコートの胸元から黒い板を取り出す。

 その表面を指でなぞるように触れ、静かに呟く。


「……開け」


 その言葉を残して、男は闇の中に姿を消した。



 ――マナウルス教国


 地下研究所の一室に黒い靄が広がると、そこから黒いコートの男が姿を見せる。


「……ラジムはどこだ?」


「は、ラジムですか?あいつなら、自分の研究室にいるはずですが……」


「……」


 研究員の男から話を聞くと、黙ってその場から去っていった。


「……おい、今の黒服、諜報部隊の連中だろ?何だってこんなとこに」


「知らん、ラジムに用があるみたいだったが……関わりたくないな」



 ――ラジムの研究室


 黒いコートの男が部屋に入ると、ラジムは机に齧り付くように研究資料をまとめていた。


「お前がラジムか?」


 不意に声をかけられ、ラジムは肩を跳ね上げるように頭を上げた。


「は、はい!あ、あなたは?」


「……お前の提出した"マナ因子"だが、魔獣との融合実験と類似した反応が投与した者に見られた」


「は、え?あれを使ったんですか!?」


「魔獣を用いた実験とは違い、人の身体を維持し、自我を一時的に保つことができた」


「あれはまだ人に使える代物じゃありませんよ!そんなことをすれば……っ!」


 死んでしまう……ラジムはその言葉を飲み込んだ。

 死んでもいい人間に使ったのだと容易に想像できてしまった。


「ゲルハルト様にも報告しておく、今後も研究に励め」


 男はそう言い残して部屋を出た。


「マナ因子の抽出には成功した……だけど、それが我々の身体にどんな影響を与えるかはまだわからないと言うのに」


 ラジムは自分の研究成果によって誰かの命を奪われたことに、言葉にできない葛藤に苛まれていた。

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