85.言葉があふれすぎて、言葉にならない ― 姉が涙する夜
スマホの画面に表示された投稿。
ことりは、それを何度目かわからないほど見つめていた。
キャラが微笑み、やさしく手を差し出している。
キャプションの言葉は、まだ胸の奥でくり返し響いていた。
「伝えたいけど、伝えきれない。
でも、それでも。
“あなたがいてくれてよかった”って、心から思ってます。」
(……こんなの、どうやって返事すればいいの)
コメント欄を開いた。
キーボードが表示される。
でも――
指は動かなかった。
(言いたいことは、たくさんあるのに)
(ありがとうって。
大好きって。
あなたの言葉に、毎日救われてるって)
けれど、そのどれもが“軽く”見えてしまった。
今、自分の胸にある想いは、
そのどれよりもずっと――
深くて、重くて、あたたかかった。
(これってもう、“好き”なんだよ…)
そして、はっきりと気づいてしまった。
(知らない人に。
名前も顔も知らないのに――
私は、本気でこの人を好きになってしまってる)
コメント欄の画面を見つめたまま、
ぽろりと、涙がひと粒こぼれた。
ことりは手でそっと目元をぬぐったけれど、
すぐに、もうひと粒。
そして、あとひと粒。
(ねぇ、どうして……
こんなにも言葉が出てこないの)
(あなたの言葉は、
こんなに私の心を動かしてくれるのに――)
ことりは、スマホをそっと胸に抱きしめた。
コメント欄は、何も書かれないまま、
静かに閉じられた。
「ごめんね。
今日はまだ、言葉にできそうにないや…」
でもその夜、ことりは静かに微笑んでいた。
(あなたの言葉が、
私の“心”に届いてることだけは、
ちゃんと伝わっててほしい)




