44.“この写真…ちょっと、惹かれるかも” ― 姉の視点、知らぬままの交差点
夜。
ことりは、紅茶を飲みながら
SNSをふらふらとスクロールしていた。
「今日は何か素敵なの、流れてこないかな〜」
そんな気持ちで、いつものタグをぽちぽちと巡っていく。
#初心者レイヤー
#男装コスプレ
#空気感
ふと、ある投稿が目に留まった。
キャラは、どこかで見たことのある少年タイプ。
やや振り返り気味で、ウィッグの毛先がふわりと空に舞っている。
「目が合ったその瞬間に、
言葉よりも先に“空気”が届くような――
そんな写真を目指してみました
…たぶん、毛先がいい仕事してくれたと思います(笑)」
ことりは、一瞬笑った。
「毛先、がんばってるって何…?(笑)
でも…たしかに、良いな」
画面をスワイプして、もう一度写真を見返す。
柔らかな光、自然な表情、そして――
キャラになりきっているというより、キャラとして“そこにいる”空気。
「……え、ちょっとこの子、うまいかも」
自然と、指が「いいね」に触れていた。
ソファに背を預けながら、ことりは考える。
(最近、初心者レイヤーさんの中に
“空気感”のある人、増えてきた気がする)
(この子も…見つけたばかりだけど、
きっと何か“大事にしてるもの”がある)
そして、ふと呟く。
「こんな風に、
“見せる”じゃなくて“寄り添う”って感じの写真、
もっと私も撮ってみたいな…」
ことりはそのまま、
そのレイヤーのアカウントをぽちっとフォローした。
@trace_nao:投稿3件/フォロワー数、急上昇中
名前を見ても、ピンとこない。
でも、どこか懐かしさを感じる空気。
「また流れてきたら見ようっと。
なんか……ちょっと、気になるし」
もちろん、
それが“尚人”だとは、思いもしないまま――。




