39.神の声、降臨 ― お姉ちゃん講座が始まった日
カフェでまったりしていた午後。
コスプレ談義に花が咲いていた姉・ことりが、ふと思いついたように言った。
「あ、そうだ。
最近“初めてコスプレしたっぽい人”の写真を見てて思ったんだけど――
初心者さん向けに、ちょっとしたコツまとめてみようかなぁ?」
「……えっ」
尚人の背筋がピンッと伸びる。
(ま、待って。
い、今の俺にピッタリすぎる話題……!)
ことりは、クリームソーダのストローをくるくる回しながら、
気まぐれな女神のように、何気なく話し出す。
「たとえばね、表情って“目の力”が9割。
笑うときでも、“頬じゃなくて目元をゆるめる”のがポイントだったりするんだよね〜」
(……目元、ゆるめる……! はい、神メモ……!)
尚人は即座にスマホを取り出し、メモアプリを起動。
「あと、ポーズって“完璧”よりも“動きかけ”がいいの。
決めポーズよりも、動く直前とか、振り返りかけが自然に見えるんだよ〜」
(動きかけ……振り返り……マジか……)
「ウィッグの毛先がバサッて動いてるくらいが、
“そのキャラがそこにいる”って空気になるよね!」
尚人の指は止まらない。
「表情=目元」「ポーズ=途中」「毛先=空気感」などなど……
メモアプリの画面が、あっという間に埋まっていく。
(姉ちゃん……天然なくせに、
どうしてこんなに的確で、優しくて、最高なんだよ……!!)
その夜、帰宅してから。
尚人はカフェで取ったメモを、丁寧にノートに書き写していた。
【姉ちゃん(神)の初心者向けコスプレTips】
・目元に感情を込める
・ポーズは“途中”を切り取る
・毛先や服の“空気感”を意識する
・キャラの心を動かしてから、シャッターを切ること
最後に、そっと一言を添える。
「天然な女神のアドバイス、全部宝物みたいだった。
……これ、実は弟に言ってるって、いつか気づいてくれる日がくるのかな」
ページを閉じるとき、尚人はちょっとだけ笑った。
「俺、もっと上手くなるからね。
そして、いつか……隣で撮られる側にも、なるから」




