35.あの日見た言葉を、今度は自分の声で ― 3度目の投稿を前に
夕方。
尚人は、スマホの画面に向かっていた。
そこに映っていたのは、
今日撮影した1枚の写真。
やさしさを込めた、静かな一枚――
完璧じゃない。
でも、このキャラを、そして“誰かの心をふっとゆるめたい”という想いを、
今の自分なりに、精一杯写し込んだ写真。
尚人は、そっと心の中でつぶやいた。
(この写真、出してみよう)
でも――
問題は、「言葉」だった。
尚人の頭の中には、あの日見た姉の投稿が浮かんでいた。
「あなたが疲れたときに、ふっと力を抜けるような、
そんな写真になれたらって思って撮りました。」
尚人は、スマホを握る手にほんの少し力を入れて、
ゆっくりと文字を打ち始めた。
「同じように、誰かの背中をそっと撫でるような、
そんな一枚になっていたら嬉しいです。」
「このキャラがくれたやさしさを、
今度は誰かに渡したくて――
その想いを込めて撮りました。」
読み返してみる。
姉の言葉と、確かに似ている。
でも――
そのどれもが、ちゃんと「尚人の声」で紡がれていた。
尚人は深く息を吐いて、
スマホの投稿画面を見つめる。
@trace_nao
投稿数:2 → 3
投稿ボタンの上に指を置きながら、
小さく呟いた。
「姉ちゃんと“同じ場所”に、一歩近づける気がする」
「……行ってこい、俺のやさしさ」
“投稿する”
ボタンを押したその瞬間――
画面には、やさしい笑みを浮かべたキャラの顔と、
尚人のあたたかいことばが、静かに並んだ。
投稿一覧には、新たに3枚目の写真が加わる。
尚人はスマホをそっと置いて、
目を閉じながら、心の中でつぶやいた。
「俺も、“伝える側”になれてるのかな…
姉ちゃん、どこかで見てくれてたら、ちょっと嬉しいな」




