9.推しの輪郭 ― 自分だけの“なってみたい”が動き出す
夜。
部屋の明かりを少し落として、尚人は机に向かっていた。
画面には、お気に入りのコスプレイヤーたちが並ぶSNSのタイムライン。
その中でも――目が止まったのは、ひとりのキャラクター。
銀髪の中性的な少年キャラ。
クールだけど、時折見せるやわらかい笑顔が印象的。
細身のシルエット。制服のようなシンプルな衣装。
(この子……やっぱ、好きだな)
ずっと前から好きだったキャラ。
でも最近は、どこか――「この子になれたら、どんな気持ちだろう」って、
そんなふうに思うようになっていた。
尚人は、紙のノートを開いて、ページの中央にキャラクターの名前を書いた。
【コスプレ研究ノート】
キャラ名:***
髪型:銀のショート/前髪やや斜め/襟足軽め
メイク:目元はスッとシャープ/リップは控えめ
衣装:ジャケット×シャツ/ネクタイあり
ポイント:姿勢はやや猫背、でも立ち姿に品がある
(……姉ちゃんみたいに、キャラを“生きる”ってこと、少し分かった気がする)
尚人は、YouTubeでメイク動画を再生しながら、
自分の目元に合うラインの入れ方や、
ウィッグの扱い方をメモし始めた。
SNSでRINA_cosの投稿も、改めて見返す。
「このキャラ、ずっと演じてみたくて、
心の中で何度も練習してたんです」
その一文に、尚人はふとペンを止める。
(俺も……心の中では、ずっと練習してたのかもしれない)
スマホのメモアプリには、新しいメモが追加された。
【自分なりの“なってみたい”】
・このキャラで初コスしたい
・ウィッグ&制服、探してみよう
・動き方・セリフ、真似してみたい
・まだ姉には言わない
→でも、見せても恥ずかしくないものにしたい
尚人の中で、
“見ているだけ”だったコスプレが、
“やってみたい”、そして――“やってみよう”に、
確かに姿を変えはじめていた。




