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ふたりで灯す、やさしさのかたち  作者: 流浪の旅人
第2章 ふたりで、ゆっくり歩き出す — “やってみたい”が、芽吹いた日
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8.扉の前 ― “やってみたい”が“やってみる”に変わるとき

日曜の午後。

風が穏やかで、静かな時間。


尚人は、ずっと開かずのままだったクローゼットの上の段に手を伸ばした。

そこにしまってあったのは――先日、通販で“こっそり”買ったままの、

ウィッグと初心者向けのメイクセット。


(見てるだけだったら、意味ないよな)


姉の言葉が、何度も思い出される。


「“好きなものに真っ直ぐでいられる自分”が、好きになれたの」

「“キャラになったつもり”で動いてると、自然とスイッチが入るよ」


(あれって、ただの言葉じゃなかったんだな)


尚人は深呼吸をして、クローゼットの扉を静かに開けた。

出てきた箱を、ゆっくりと抱えて机の上に置く。


中には――


ナチュラルなミディアムウィッグ


メイク初心者セット(BBクリーム、軽いリップ、アイブロウ)


控えめなデザインの、ちょっと可愛い系のシャツ


(……誰にも、見られないように)


そう思ってカーテンを閉め、鍵をかけ、

スマホを机に伏せて、鏡の前に立つ。


まずは、ウィッグをそっと被ってみた。

不器用な手つきながら、付属のネットで髪をまとめて、ふんわりと髪を整える。


(……あれ? 意外と、いける?)


続けて、メイク道具をおそるおそる開封する。


BBクリームをほんの少しだけ手に取り、頬に馴染ませてみると、

不思議と、“鏡の中の自分の輪郭”がやわらかくなるような気がした。


眉毛もほんの少しだけ整えて、リップを軽くつける。

そこに、シャツを羽織って――


尚人は、再び鏡の前に立った。


(…………これ、ほんとに、俺?)


驚くほど自然だった。

“女の子”というより、“中性的なアニメのキャラクター”に近い。


まるで、画面の中の誰かみたいな――

でも、確かに自分だった。


(姉ちゃんが言ってたこと、ちょっとだけわかった気がする)


“なりきっていると、自分のことも好きになれる”


あの言葉が、今、体の奥にスッと染みこんできた。


その夜。

尚人はベッドに横になりながら、スマホのカメラロールを開く。


試しに1枚だけ撮った、自分の“初めてのコスプレっぽい自撮り”。


まだまだ完成じゃない。

でも、これは確かに――自分が踏み出した、“最初の1歩”だった。


「もしかしたら、これ…俺、好きかもしれない。」


そう呟いた声は、誰にも届かない。

でも、明日からの景色が、少しだけ変わって見える気がしていた。

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