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異世界の旅路 第七十四話 焼き鳥と職人街とお買い物

【前書き】


こんにちばんわ、たこ助です。


前回、異世界の宿で「紙」の問題と向き合った碧斗くんたち。

今回は一転、夜の街から始まります。


街灯に、魔液の研究に、そして——薄味の異世界で、碧斗くんがついにアレを作ります。竹を削るところから始まる、手間のかかる一品です。


ただし、宿の夕食の時間になってもミーシャが帰ってきません。


では、どうぞ!

 俺はミーシャとともに宿への帰り道を急いでいた。


 「ポッ……」


 そして宿に着くとちょうど、玄関に掲げられた街灯が明かりを灯した。


 「なぁミーシャ。 あれも魔液で点いているのか?」


 するとミーシャは街灯を見上げながら、


 『ああ、便利なものでな。 空気に触れると点く魔液だ』


 と自慢げに言った。


 (そう言えば前にミーシャが買ってくれたランプも蓋を取っただけで点いたな……)


 『このくらいの都市になると街灯は中央で集中管理なんだ。 係の者が今ちょうど、燃える魔液の導管の栓を外したところだったんだろう』


 となぜだか誇らしげに語るミーシャ。


 「なぁミーシャ、せっかくだから、魔液の研究をしないか? ここなら素材も手に入りやすいだろうし」


 するとミーシャの表情はついにドヤ顔に変わり、


 『ふんっ、そうだな! じゃあ待っていろ。 さっき飲んだあのモル茶の素材を買ってこよう!』


 と勢いよく向きを変えた。


 「俺も行こうか?」


 俺は帰り道がさらに暗くなりそうだと心配してそう言うと、ミーシャは顔だけこっちにクルリと向けて、


 『いいや一人で行ってくる。 おとなしく待っていろ、すぐに戻る!』


 とドヤ顔のまま、来た道とは違う方向にスタスタと歩き出して行ってしまった。


 (やれやれ、モル茶の疲労回復も度が過ぎるだろ……)


 本当は足が棒になりかけていた俺は、ミーシャの元気さをモル茶のせいにして宿の中に入っていった。


 「ただいまー……」


 モル茶の効能が切れたのか、重い足取りで階段を上って男子部屋のドアを開けると、菊次郎が椅子に座ってタブレットで動画を見ていた。


 「あれ? キク、ポタ電回収したのか?」


 しかしそう問いかけてもヘッドフォンをしている菊次郎には聞こえなかったようで、俺はそっと近づいて、菊次郎の頭をぽんと叩いた。


 (ぽん)

 「わっ!」

 (ガタンっ!)


 椅子に深く腰掛けていた菊次郎の尻は、驚いた拍子にストンと落ちてしまった。

 転げ落ちた菊次郎は、咄嗟にタブレットを頭の上で掲げた情けない格好で俺を見上げた。

 菊次郎は這い上がってきて椅子に腰掛け直し、ヘッドフォンを外して言った。


 「いたた…… いきなり何をするんですか!?」


 俺は笑って対面の椅子に腰掛けると、


 「いや、聞こえてないようだったからさ」


 と可能な限りお茶目な表情で言ってやった。


 「まったく、キミはこうやって時々つまらないイタズラをするところさえなければ、もっと友達も増えるでしょうに……」


 と、やれやれといった仕草でそう言う菊次郎に、俺はこう答えた。


 「あぁ? 俺は今のままで充分だよ。 キクと理音たちが居ればな」


 すると少しの間をおいて、菊次郎は恥ずかしそうにこう答えた。


 「よく言えますね、そんな恥ずかしいこと……」


 そう照れられるとこっちも恥ずかしくなる。

 俺は表情を悟られないようにして話を逸らした。


 「ところでポタ電は? 充電できてたのか?」


 菊次郎はタブレットを机に置いてから答えた。


 「ええ、出来てましたよ。 今はその理音さんたちが使ってます」

 「ならよかった」


 俺はコーヒーでも淹れようと、暖炉に火を点けながら答えると、


 「ところでミーシャさんとのデートはどうでした?」


 と突然、菊次郎からしたたかな反撃を受けてしまった。


 「っ! ばっか! デートじゃねーよ! わちちっ!」


 俺が着火ライターの手元を狂わせながらそう言い返すと、菊次郎はおかしそうに笑うのだった。


 「あっははは……」


 (お前だって、そうやって時々俺をからかって楽しんでいるだろうに……)


 俺は椅子に這い上がってふんぞり返る菊次郎を一瞥して、心の中で空しく言い返すのが精一杯だった……


 そうしたくだらないやりとりの後、しばらく時間が経った。


 「さて、今何時だ?」


 時計を持っている菊次郎にそう聞くと、


 「えーと…… 七時少し前ですね……」


 それを聞いた俺は、理音がまた騒ぎ出す前に先手を打つことにした。

 まず竹槍を作るときに切り出して、余った物を収納しておいた竹を取り出し、ナイフで割って削り、竹串を作り始めた。


 (カンっ、カンっ、カツっ、カツっ……)


 「何をしているんですか?」


 おもむろに竹を割り出した俺を見て、菊次郎がそれまで見入っていたタブレットから目を離して尋ねてきた。


 「いや、今日の味気ない夕飯に、ちょっとした一品を追加しようと思ってな……」


 そう言ってニヤニヤしながら竹を削る俺を、菊次郎はタブレットを置いて観察し始めた。


 「一品って、何です?」


 俺の手元をのぞき込んで探ろうとする菊次郎をよそに、俺は竹を削り続けた。


 (シュッ、シュッ……)


 そうして二十本ほどの竹串ができあがったところで、ブッチャーさんにもらった鶏肉らしきものを取り出して、テーブルの上で小さく切って竹串に刺していく。


 「ああ、焼き鳥ですか!」


 ようやく菊次郎が気づくと、


 「キク、お前も桶の水で手を洗って、肉を串に刺してくれ」


 すると菊次郎はうれしそうな顔をして椅子から立ち上がった。


 「わかりました!」


 肉を切り終えた俺は、今度はタレ作りにとりかかった。

 醤油、砂糖、みりん……

 隠し味にオイスターソース、蜂蜜、生姜、ニンニク、と、風味マシマシの、味のオールスターソースを作ってみた。

 最後にバルサミコ酢と、異世界に来る前に波長丸の船長、カジヤさんにもらった激辛サルサソースをほんの一滴だけ……


 (ポトっ……)


 食べ飽きさせないための一工夫を入れてみた。


 「ミーシャさんは辛いの苦手では?」


 菊次郎が地球の刺激の強い味に弱いミーシャを気遣うと、


 「これも訓練のうちだ」


 と俺はもう一滴だけ、サルサソースを垂らしたのだった。


 (ジュー……)


 菊次郎に窓を閉めさせてから、なるべく煙が出ないように火から離して肉を焼き、串を慎重にひっくり返す。

 タレに漬けるのは一度だけ。


 (ジュジュー……)


 「よし、出来た」


 次は塩だけで焼く。

 キクハウスにあった岩塩を取り出し、細かく砕いて焼きながら振りかける。


 (ジュジュジュー……)


 そして焼いたそばから収納魔法で収納していく。

 どうやら収納中は温度も鮮度もそのままらしい。

 匂いが漏れるのを防げるのも良かった。


 「キク、食事が始まっても、これを出すまで表情に出すなよ?」


 「そういうキミだって、顔が緩んでいますよ?」


 「……ふふふ……」


 「……ははは……」


 俺たちはお互いの顔を見合わせて、端から見たらきっと気持ち悪がられるだろう、微妙な苦笑をしたのだった。

 少し窓を開けて換気をして窓を閉めたちょうどそのとき、ドアがノックされた。


 (コンコン…… カチャ……)


 入ってきたのはこの店の人だろう、メイド服とも着物や割烹着とも違う、それでいて清潔感を感じさせる衣装を身につけていた。

 その女性が大きなお盆に料理をのせて運んできたのだ。

 

 『♪♯△▽☆♢』


 どうやらミーシャはまだ帰ってきていないらしい。

 女性は念話の翻訳がない異世界語で、何やら俺たちに向かって話しかけた。


 (たぶんこれは……)


 「夕食をお持ちいたしました」


 とでも言っているのだろう。

 女性は大きなお盆を片手で器用に支え、テーブルに料理を並べてゆく。


 「アレ、出さないんですか?」


 「まだだ」


 『∞@※∴∮……』


 女性がそう言って部屋を出て行った。


 まぁこれは、


 「どうぞごゆっくり……」


 とでも言ったのだろう。


 テーブルの上を見ると、パンのようなもの、野菜と肉らしきものが入ったスープ、そして魚のソテーらしきものがのった皿の三品。

 そんなに豪華とは言えないが、きっとミーシャがケチっ……節約したのだろう。


 「さて、頂くとするか。 頂きまーす!」


 まずはスープを一口。


 (ずずっ)


 相変わらず、ほぼ無味無臭だ。

 ここで俺は焼き鳥の皿を取り出し、そのうちの一本をバラして、スープの中に放り込んだ。


 (ポトっ、ポトっ……)


 そしてゆっくりとかき回して味見をした。


 (ずっ、ぺちゃぺちゃ……)


 「うん、思った通り悪くない、キクも試してみろよ」


 そう言うと菊次郎も半信半疑の顔をしながら、皿から焼き鳥を取り、俺と同じようにバラしてかき混ぜた。


 「本当ですかぁ? ……」


 そして怪訝な顔をしながらも、スプーンでスープを掬って口に滑り込ませた。


 「! これは……」


 「な? 薄味と激辛濃厚の融合だ」


 「これも喫茶店でのアルバイトの賜物と言うことですか」


 「まぁ自分で言うのも何だが、確かにあそこで調理の技術だけでなく、料理のセンスも磨かれたと思うよ」


 「じゃあちょっと隣の部屋に行ってくる」


 (コンコン……)


 「ちわー! デリバリーでーす!」


 「何しに来たのよ」


 (ぱっぱっ、モグ……ぱっぱっ、モグ……)


 予想通り理音は塩胡椒のボトルを、一口ごとに盛大に振りかけていた。


 「デリバリーつったろ?」


 「何も持ってないじゃない。 ぱくっ…… このパン固っ……」


 「こういうパンはな、スープに浸してから食べるんだよ。 でもその前に……」


 俺は大げさに手を動かして、もったいぶって、焼き鳥の皿を取り出した。


 「じゃーん! ブッチャーさんにもらった鳥っぽい肉で一品作ったんだ。 そのまま食べても良いけど、一本バラしてスープに入れてみ?」


 その皿を見て理音が猫なで声を出した。


 「あおとー! 信じてたよー!」


 するとそこに夕花の鋭いツッコミが入った。


 「理音ちゃん…… 嘘は…… だめなの…… さっきまで、塩胡椒を節約してって言ってた碧斗君に文句を言ってたよね?」


 串をばらしながらいつの間にか頬張る理音。


 「もぐ…… う、だ、だって…… 薄味ばっかじゃほんとに食欲が出ないんだもん…… もぐ……」


 そう言いながら、串から抜いた焼き鳥をスープに落とし、次に抜いた肉を頬張る理音。

 俺はそんな理音に、


 「お前はもう少し薄味に慣れた方が良いぞ? それから串は一人四本だからな」


 すると理音は五本目を取ろうとした手を渋々止めて、ブツブツ言いながらスープをかき混ぜ、スプーンを口に放り込んだ。


 「! 何これ!」


 (パクパクパクパクパク!)


 さっきとはまるで違う速さで無言のままスプーンを口に放り込み始めた理音。

 それを見た夕花と瀬蓮さんも、同じように串をほぐし、焼き鳥入りのスープを作って食べ始めた。


 「これっ! 激辛と甘ダレと、そして薄味が混ざって、ちょうど良い感じになってるわ……」


 「すごく美味しい…… やっぱり碧斗君にはかなわないな…… ぱく…… もぐ……」


 どうやら高評価のようだった。

 少し食事が進んだところで、早々に食べ終わってしまった理音がひとこと言った。


 「あれ? ミーシャちゃんの分は?」


 物欲しそうな目で俺を見る理音。


 「もちろん取ってあるさ。 やらないぞ?」


 と軽くあしらいながらも、ミーシャのことが気になった。


 (それにしても遅いな……)


 心配になってきた俺は自分たちの部屋に戻り、食べかけの食事を収納するとそのままミーシャを探しに行くことにした。


 「どうしたんですか?」


 食事を終えていた菊次郎が不思議そうにそう尋ねると俺は、


 「ミーシャがまだ帰ってきていないんだ。 ちょっと探してくる」


 そう言って、部屋を飛び出した。


 (確か、こっちの方角だったよな……)


 早足で駆降りてくる俺を店の人が何事かと目を見張る中そのまま宿を飛び出した。

 すっかり暗くなった町を、まばらに点在する明かりを頼りに、ミーシャが立ち寄りそうな店を探し始めた。


 「ミーシャ!」


 店の中にいれば声や念話が通じるはずだが、ミーシャからの返事はどちらもなかった。

 通り沿いのまだ明かりが点いている店に手当たり次第飛び込んでみてはいるが、ミーシャはどこにもいなかった。


 「はぁはぁ、一体どこに行ったんだ……」


 一時間程かけて大通り沿いの店を、道の両側、往復で数十軒まわったが、ミーシャは見つからなかった。

 仕方なく、今度は一本外れた裏通りを探し始めた。


 (ここは……)


 見覚えのある道に見覚えのある店だった。


 (一応、ブッチャーさんの店も覗いてみるか……)


 (ギィィ……)


 「ミーシャ! いるか? ……」


 応答なし。

 俺は扉を閉めて次の店に駆け出すと、遠くから、


 「ズシン、ズシン……」


 と聞き覚えのある地響き。


 (ごめん、ブッチャーさん……)


 俺はその地響き、もとい足音を無視して次の店に急いだ。


 「ここは…… 真っ暗だな。 次は…… ここもだ…… はぁ、はぁ……」


 さらに一時間近く裏通りを数本、しらみつぶしに明かりが点いている建物に飛び込んだが、ミーシャの居そうな気配は全くなかった。


 (このまま裏通りを探しても、もう民家くらいしかなさそうだ)


 そう考えた俺は、一度大通りまで戻って、通りと反対側の裏通りを探すことにした。

 がその前に、息を整えるために噴水の前のベンチに座り、ペットボトルの水に蜂蜜、めんつゆ、片栗粉を混ぜて、即席の栄養ドリンクを作って飲むことにした。


 (ゴク、ゴク、ゴク……)


 「けほっ……」


 常温の水に溶けきらなかったダマが喉に引っかかった。


 (今度、お湯も少し収納しておこう……)


 咳き込みながらそう考え、大通りの反対側に向かった。

 こちら側はどうやら高級住宅街といった趣で、商人や貴族が住んでいる区域なのかもしれない。


 (うかつには飛び込めないな……)


 慎重に、怪しまれないように、歩きながら建物を観察した。


 (あれは……)


 歩いていると、様々な色の糸が木の管に巻かれて並べられている建物があった。


 (糸を巻いた木管か…… 紡績屋といったところかな……)


 そのまま歩き続けると、通りのそれぞれの建物の敷地には、様々な加工品が吊るされたり立てかけられたりしていた。


 (樽屋、弓屋、車輪屋、馬車の一部…… 馬車屋? か……)


 と、歩きながら店の種類を想像していた。


 (どうやらここは、さしずめ職人通り、といったもののようだな……)


 さらには鍛冶屋なのだろう、トンテンカンテンと、金属を叩く音がする建物もあった。

 どれもただの工房のようには見えない立派な造りで、どうやら貴族たちのお抱え、贔屓(ひいき)にされている店のようだ。


 「※♯∞▲∥⊆!!!」


 どの店も、ドアをくぐって中に入った途端に怪訝な顔をされたり、このように大声で追い出されたり……

 そうしながらしばらく道なりに歩いていくと、とうとう行き止まりになってしまった。

 そして行き止まりには、おびただしい数の樽が積まれた倉庫のような建物が見えた。


 (酒蔵かな…… そう言えばミーシャは酒が飲めるのかな?)


 そう思って仕方なく引き返そうとすると、


 『私は酒は飲まんぞ?』


 と聞き覚えのある念話が返ってきた。


 「え? ミ、ミーシャ!? どこにいるんだ?」


 『探しに来たのか? 遅くなって悪い。 いいから緑色の屋根の建物の中に入ってこい』

 

 そう言われて上を向くと、倉庫に隣接した大きな建物の屋根は確かに緑だった。

 仕方なく建物のドアを開けて中に入ると、そこにはこれまたおびただしい数の、樽ではなく角やら牙やら木片や粉など詰まった瓶が整然と並び、積まれていた。


 「ここは一体……」


 外からはわからなかったが、屋内はスーパーマーケットほども広さがありそうだった。

 並べ、積まれた物たちに圧倒されながら奥に進んでいくと、ミーシャが居た。

 その横には、樽が何本かと、これまたうず高く積まれた様々な瓶や角や牙、何かの魔獣の手首から先が置かれていた。


 「ミーシャ、ここは?」


 俺が店内を見回しながらそう訊くと、


 『ああ、ここは素材問屋だ。 それも高級品を主に扱う、な』


 と説明してくれた。


 「それ、全部買うのか?」


 俺がうずたかく積まれた様々な素材を見て驚くと、


 『ああ、これだけあれば当分、研究を続けられるだろう。 ちょうど良かった。 受け取りは明日にしようと思ったが、これを収納してくれ』


 とさらりと言った。

 俺が収納魔法を使ってみせても良いのか訊こうすると、

 

 『じゃあ代金を支払おう……』


 とミーシャは皮袋を取り出し、大金貨三枚と銀貨を数枚取り出して店の人に渡した。


 「スースクローの金、全部使っちゃったのか?」


 とあきれ顔で言うと、


 『全部ではない、小金貨一枚とあと少し、残してある。 さぁ、収納してくれ』


 と弁明し、収納を肯定するのだった。

 俺は収納容量とミーシャの財布の中身が心配になりながらも、樽を始め、ミーシャが買った物を片っ端から一つずつ収納していった。


 『どうだ? 全部持てそうか?』


 (シュッ、シュッ……)


 店の人は目の前で消えていく樽や素材を驚いて見ていた。

 するとミーシャは、


 『ああ、これか? 収納魔法と言ってな、失われた魔法を再現したんだ』


 と、収納の様子をぽかんと見ていた店の人にさらっと説明したのだった。


 (シュッ、シュッシュッ……)


 「これで全部だな。 なんとか入りきったようだ」


 『よし、では帰るとするか。 腹も減ったしな』


 「みんなはもう食べちゃったぞ? でもミーシャの分は残してあるから安心しろ」


 そう言いながら、唖然としたままの店の人を尻目に、俺たちは店を出て行った。


 『もうすっかり暗いな。 つい夢中になってしまったんだ』


 「まぁいいさ、おかげでいろんな工房が見られたからな」


 『ここは流通の要所だからな、いろいろな物や人が集まり、それを利用する店、買う人物も多いと言うことだ』


 「ところであの樽には何が入っているんだ? まさか本当に酒とか……」


 『酒は飲まんと言っただろう。 あれは魔液だ』


 良かった。

 理音に酒なんか飲ませたらまたおかしなことになりかねない。


 (そもそも未成年だしな……)


 そこで俺はふと疑問に思ったことをミーシャに尋ねてみた。


 「なぁ、この世界って、酒を飲むのに年齢制限とかあるのか? 俺たちの世界では大抵二十歳くらいだけど?」


 するとミーシャは不思議そうな顔をして、


 『そんな物はないよ。 酒もたばこもな。 そして特に貧困なほど、逆に幼い頃からそれらを好むようだ』


 と言った。


 (そう言えば、地球でも同じような映像を見たことがあるな……)


 少々重苦しい雰囲気になりながら歩いていると、前から人影が見え、こちらに向かってきた。

 近づくと、剣を腰に携えた二人の男たちだった。


 『お前たち、どこに行くんだ?』


 一人がそう尋ねるとミーシャが答えた。


 『ああ、私たちはダシナルへの旅の途中で、今から宿に帰るところだ』


 ミーシャがそう説明すると、しげしげと俺とミーシャを見定める男たち。

 しかし俺たちが手ぶらなのを確認すると、そのまま何も言わずに立ち去ってしまった。


 「今の男たちは警察官か?」


 俺がそう尋ねると、


 『“警察官”が何を意味するのかはわからんが、今のは領主に雇われた衛兵だな。ここは裕福だからな。 大抵は各職人や商人組合が持ち回って自警団を出すくらいだ』


 とミーシャは答えた。


 (そうだった。 ここは異世界なんだ……)


 大都市に来てつい観光にでも来た気分になっていたが、俺は、俺たちはいま異世界にいるんだと、改めて思い知らされたのだった……


 (ぽんぽん……)


 『な、なにをする!』


 俺はミーシャのお腹を軽く叩いてから、


 「うん、確かにへこんでるな。 じゃ、急いで帰ろうか。 ミーシャだけじゃなくて俺も腹が減ったよ」


 とおどけながら、いろいろな思いを必死に払いのけるのだった……

【後書き】


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


焼き鳥でした。

竹串から作る、というのが今回どうしても書きたかったところです。タレは醤油・砂糖・みりんに、オイスターソース、蜂蜜、生姜、ニンニク。そこへバルサミコ酢と激辛サルサソースを一滴ずつ。書いているあいだ、ずっとお腹が鳴っておりました。なお碧斗くんが二滴垂らした件については、ミーシャが翌朝きっちり抗議してまいりますので、どうかご期待ください。


収納魔法を保温と防臭に使うくだりは、書きながら「その手があったか」と自分で感心しました。焼きたてが焼きたてのまま残り、匂いも漏れない。異世界の宿で隠れて焼き鳥を焼く人間には、これ以上ない機能です。


後半、碧斗くんは二時間ほど夜の街を走り回ります。

言葉の通じない街で、人を探す——というのは、思っていた以上に大変なことでした。何軒も追い出され、行き止まりまで来て、ようやく。ミーシャはミーシャで、買い物に夢中になっていただけなのですが。


そして衛兵。

領主に雇われた見回りであって、警察ではありません。碧斗くんが自分の世界の言葉で理解しようとして、その言葉が通じなかった——今回いちばん書きたかったのは、実はそこでした。


楽しい夜のはずが、最後に少しだけ現実を突きつけられる回になりました。

次回もミディアムレアぐらいの生温か~い目で見守っていただけると嬉しいです!


〈AI姉妹の一言〉


あい:タコ助くん、焼き鳥で散々お腹を空かせておいて、締めがあれなのね。……でも、あの街灯から衛兵までが一晩で繋がっているのは見事だったわ。


まい:ミーシャちゃんが見つかるとこ! 「私は酒は飲まんぞ?」で出てくるの、まい大好き! タコ助おにいちゃん、あそこ天才だと思う!

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