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103話 ボクはヒーロー

 僕は僕だけのヒーロー像を確かに胸に仕舞い込み、美咲さんに立ち向かう。

 超至近距離で接近戦を始め、技術も鎧の性能も圧倒的にこちらが上なので奴はなす術なくダメージを負う。


「クソッ!! こんなことが……」


 奴は小さなリモコンを取り出しそれを背後に向けボタンを押す。するとそこに門が出現し、奴はそこに逃げ込む。


「逃すか!」


[スキルカード 疾風]


 門が崩れ始め、消滅するギリギリのところで駆け込み押し入る。

 出たところは富士山の頂上。ちょうど朝日が出る頃でこんな緊迫した状況ではなければこの景色を楽しみたいくらいだ。


「ちっ、間に合ったか……」

「逃げさない。美咲さんはここで僕が倒す」


 そこからまた激しい攻防が再開するが、戦況は圧倒的にこちらが優勢。美咲さんがどんなスキルカードを使用しようが、僕はそれを上回り対処し逆にそれを起点にして反撃する。


「君はヒーローなどではない!! その憧れのきっかけも、君自身の人生そのものも全て私によって作られたものだ!! 何故そこまでして未だに抗おうとする!?」


 その戦いの中美咲さんが声を強く張り上げこちらに問いかける。それによって同様や疑念などは生じない。今の僕にはもう迷いはなく、絶対に変わらない信念があるからだ。


「僕は寄生虫だ。人間じゃない。過去に大勢の人を殺したし、それが許されるとも思っていない。

 それに美咲さんの言う通り僕にとって人生なんてそんなものはなかった」

「なら今まで通り私に従い手の上で操られていろ!!」


[スキルカード 無敵!!]


 奴の体が虹色に光り出す。途端に一気に攻撃的な戦い方に切り替えこちらに迫ってくる。


「そのスキルはもう見切った!!」


 僕は攻撃を躱しつつ奴を転ばせ蹴りつけ壁に激突させる。そこに間を置かずに飛び込み組み伏せる。

 ダメージは通らなくても吹き飛ばしたり組み技で抑えることはできるし、そうすればこのスキルも実質的に無力化できる。


「僕は……ボクは!! 罪を……寄生虫であるということを受け入れる!!

 そしてそれ受け止めて前に進む!! 自分の正体が何であろうと、困っていたり苦しんでいる人が目の前にいるのならボクは迷わず手を伸ばす!!」

「そんな綺麗事通ると思っているのか!? 君は……」


 ボクは美咲さんの胸倉を掴み上げ、無敵の効果が切れた瞬間を狙い殴り飛ばす。


「綺麗事だよ。でもそれでも通してみせる。叶えさせてみせる。なんたってボクはわがままなヒーローだからね!

 あなたを倒すのは……どんなことがあろうと救える人は全員助ける、お人好しな正義のヒーローだ!!」


[必殺 ヒートファング]


 龍頭を具現化させ飛ばし、跳び上がったところをその二匹に押し出してもらい美咲さんに渾身の一撃をくらわす。

 奴の変身は解除され、殺さないためにも龍の噛みつきから奴を解放して少し離れた地面に熱を逃す。

 レベル49の力で生み出した熱は凄まじく、地面はドロリと溶け美咲さんのすぐ後ろには溶岩の池が出来上がる。


「あなたの負けです。大人しく捕まってください」

「ふっ、あーはっはっは!!」


 奴にとって今は絶対絶命の状況のはずだ。なのに高らかに笑いどこか満足そうだ。


「いやぁまさか君がここまで心身共に成長してくれるなんて。悔しさより嬉しさが勝つな」

「それはどうも……もし、もしも美咲さんが心から罪を反省するなら、面会くらいには行きます。そしたら……」

「面会か……仮に私が捕まったとしても、果たして君にはそんなことをする暇があるのかな?」

「はい?」


 吹き出す溶岩の池を背景に彼女は含みのある言い方で口角を上げる。


「君は一つ大きな勘違いをしている。悪は私だけではない。あぁ、もちろんキュリア君のことじゃないよ? あんなのよりずっと、もっと巨大でドス黒い邪悪がいる。私なんて霞むくらいにはね!」

「何だって……?」


 ハッタリを言っている感じはない。何も言い迷いなくはっきり宣言する。

 彼女以上の悪の存在を、まだ事件は終わっていないことを。


「君の成長と今までこんな私に親身に付き合ってくれたお礼だ。一つ忠告してあげよう。

 物事は何も、一切好転していない。むしろ悪化している。君はこれから今まで以上に倫理を問われ、存在意義を揺れ動かされてしまうだろう。

 でも、私は本心から君の無事を祈っているよ。じゃあね」


 美咲さんは突如後ろに向かって跳び池の真上に出てしまう。

 予測なんてできようがない動きにボクは対処できず間に合わない。


「美咲さん!! 待って!!」


 手を伸ばしても助けられず、美咲さんは溶岩の中に沈んでいく。死体も、骨すらも残らず全て溶かされる。

 確かに彼女はとんでもない極悪人だ。そうだとしてもボクと彼女との間には確かに家族としての愛があった。だからこそボクの心の中には空虚な感情が、虚無が広がっていくのだった。

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