101話 私情と無情の狭間で(風斗視点)
「ここに美咲がいるのか……生人と寧々は見えそうか?」
「まだ来ないね」
俺は寧々に敗れた後愛と合流してからDO本部に戻った。
そこから富士の樹海に美咲がいるという情報を元にワープ装置で樹海の入り口まで来たのはいいが、指揮官が言うには生人は何とか立ち直ったらしくあいつらも来るはずなのだが一向に姿を現す気配がない。
「やっぱり真太郎さんと会うのが気まずいのかな?」
「そう……かもな」
あれから俺は愛から説教を受けて多少は頭を冷やすことができた。それでも生人への憎しみは消えていないし、もう一度会えば俺は自分を抑える自信がない。
だがそれと同時に大事な後輩にあんな残酷なことをしてしまった自分に嫌悪感を覚えている。
矛盾した感情を抱き俺の心の中は大変乱れている。
今までこれ以上大事な人を失わないために私情をなるべく捨て仕事に勤しんできた。それなのに俺は憎しみという感情に囚われ大事な人に手をかけようとしてしまった。
「真太郎さん!!」
どんな顔で二人に会えば、謝ればいいのか分からずにいたところ愛に背中を強く叩かれる。
「うわっ! な、なんだ?」
「もっとシャキッとしてよ! 生人くんと寧々ちゃんに会って、謝って、それから美咲さんを倒してまたいつもの日常を取り戻すんでしょ!?」
そうだ。俺は決めたんだ。田所さんが亡くなったあの日、あの人の代わりにこの組織を、生人達を守るって。
なのに俺は生人を、寧々を傷つけて何をやってるんだ。
「あぁ取り戻そう。あいつに奪われた日常を、そしてまたみんなで笑い合おう」
迷いが吹っ切れる。やはり生人は俺にとって大事な後輩だ。もう間違いは犯さない。これ以上犠牲も出させない。
「感動的なシーンで悪いけど、寧々君はもう死んだよ」
樹海の方から美咲の声が聞こえてくる。その声は信じられない情報を述べていた。樹海から出てきたのは既に変身している美咲。
その鎧は所々に血が付着しており言葉に説得力を持たせている。
「嘘……寧々ちゃんが……?」
愛も同じことを感じ取ったようで顔を青ざめさせる。
「変身」
[フェンサー レベル1 ready……アーマーカード ホーリーナイト レベル20 start up スキルカード サウンドブラスト]
俺は怒りを抑え確実に奴を仕留めるため有無を言わさず変身する。そして即座にスキルカードを使用し衝撃波で奴の近くの木を倒れさせる。
木は奴を覆い被さるように倒れ、俺は奴の視界が遮られたことを確認し死角から一気に接近する。
[スキルカード オートアタック]
剣を空に放り自動で動くようにし、木を斬らせ奴に突っ込ませる。その間に俺は木を迂回して横から奴に近づく。
奴は剣に斬り裂かれ火花が辺りに散る。それの対処でできた一瞬の隙を突き地面を強く蹴り回し蹴りをぶつける。
奴を後退させその際に剣をキャッチしてそのままの姿勢で振り下ろし顔を斬り裂く。
「流石だね……私のような素人とは違い戦闘のプロだ」
技術や経験ならこちらの方が圧倒的に上だ。しかし奴の鎧はその差をものともしないほど性能が高い。実際今の攻撃でさえほとんどダメージは通っていなそうだ。
[スキルカード マジック]
この攻防中に変身した愛が分身して飛び込んできて三人がかりで組み技を用い美咲を抑える。
[必殺 ホーリーカット]
剣に神々しい光を纏い愛に当たらないよう注意しながら奴を一刀両断しようとする。
[必殺 デスパイアエンド]
しかし奴のギリギリ動く左手がデッキケースから一枚のカードを取り出してしまい、それをセットしてしまう。
「どけっ!!」
途端に全身から力を溢れ出させる奴に愛は跳ね飛ばされてしまい、俺の光と奴の氷柱がぶつかり合う。
その結果俺は競り合いに負けてしまい、氷柱が両肩を軽く刺す。奴は氷柱の縮む勢いを利用してこちらに飛んでくる。
「うぉぉぉぉ!!」
俺は急いで氷柱を引き抜き無我夢中で横に跳んで躱そうとする。だが回し蹴りが俺の胸に掠ってしまう。変身が解かれるほどではなかったが、それでも胸部に激痛が走り立つのが困難になる。
「次は君の番だ!」
分身能力に時間切れが来た愛を奴は着実に追い詰めていく。愛も戦闘能力や技術自体は高いがやはり明確な鎧のレベル差がありどんどん劣勢になっていく。
[スキルカード アシッドスプラッシュ]
奴の試験管から透明の液体が吹き出す。広範囲に出されたそれを愛は躱すことはできず、液体がかかったところからは焼けるような音がする。
「きゃぁぁぁ!!」
強酸の液体だ。鎧が溶け始めそこに蹴りが入れられる。奴の足は全く溶けておらず腐食耐性があるのだろう。
愛は変身が解け地面に伏してしまう。
「愛に手を出すな!!」
俺は消えかかっている命の炎を消させないため限界を超えて体を動かし奴に飛びかかる。
「それも読んでたよ」
だが奴は急に旋回し俺の頭部に回し蹴りを放つ。俺も変身を解かれてしまい本当に立ち上がれなくなってしまう。