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追放された聖女は亡国の夢を見る  作者: 水無月 黒


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第二十二話 王都の攻防2

「駄目です、食糧が三日と持ちません!」


 最終防衛線を敷いた後、アベールが最初に行ったことは物資の確認だった。

 第三防衛線が破られた後は、どこから死霊が発生するか分からない。

 籠城した後で、最終防衛線の内側に死霊が出てきたらそれで終わりだ。

 だから、籠城する場所は慎重に選んだ。

 過去の記録を精査して、なるべく死と縁遠い場所を数ヶ所選んだ。

 第三防衛線がどのような形で破られるか分からない以上、籠城場所を一ヵ所に決め打ちすることはできない。

 戦力が分断された場合も考えて、複数の候補地点を用意する必要があった。

 ただ、あまり数を多く用意することもできなかった。

 用意した物資には限りがあるのだ。

 候補となる場所を数多く用意しても、その全てに十分な量の物資を確保しておくことはできない。

 そこで、本命となる拠点を東西南北の四ヵ所用意し、他の場所は予備とした。

 しかし、第三防衛線の東と西から死霊が溢れたため、東西の拠点はその時点で放棄された。

 南北に分断される形となった南側にいたアベール達は、本来ならば南の拠点を使うはずだった。

 だが、その南の拠点の近くに死霊が現れてしまった。

 これは完全に予想外だった。

 一度死霊が発生した地点では、たとえ少数でも何度でも死霊が発生する。籠城している内側から死霊が発生しては防衛線が意味をなさない。

 南の拠点は放棄するしかなかった。

 やむを得ず予備の拠点に最終防衛線を敷いたが、元々予備の拠点は本体に合流しそこなった者達が立て籠もることを想定していた。

 広さはともかく、十分な量の物資を置いていなかった。

 そこに全軍ではないが、南側にいた全員が集まってしまったのだ。

 物資、特に食糧が不足することになった。


「仕方がない。手の空いた者は近くの民家を物色してくれ。」


 最終防衛線の内側、三番街には民家と商店が含まれていた。

 避難する際に大半の物は持ち出されているだろうが、持ち出し切れなかった食糧が多少でも残っているかもしれない。

 既に最終防衛線での先頭は始まっており、手の空いている者は交代要員であり休まなければならないのだが、食べなければ戦いは続けられない。

 体力のあるうちにどうにかする必要があった。

 場合によっては、死霊の群れの中に乗り出して行って食糧を調達することを考えなければならない。


「そう言えば、ここも飲食店だな。何か残っていれば良いのだが。」


 最終防衛線の内部で仮設司令部が置かれたのは、銀竜亭だった。

 宿屋兼大衆食堂兼酒場である銀竜亭は、一階はそれなりの人数が飲み食いする広さとテーブルと椅子が用意されている。

 ちょっとした会議を行うにはちょうど良い場所だった。

 大衆食堂ならば、日持ちのする食材のストックがあってもおかしくはない。

 彼らは店の奥、厨房の方へと入って行った。


「小麦粉一袋に調味料、それから安酒が一樽か。無いよりはましだな。」


 銀竜亭を探索して見つけた戦利品を並べて、アベールは一人考える。

 小麦粉一袋は収穫だった。日持ちもするし、パンも焼ける。

 ただ、人数が多いから一袋では心許ない。


「近くの民家や商店でも、同じように見つかればよいのだが。」


 小麦粉の一袋や二袋では心許ないが、十袋二十袋と集まればかなり状況は改善される。

 小麦粉の詰まった袋を担いで避難するわけにはいかないだろうから、使い切れなかった食材が残されている可能性はある。

 だが、保存の利く食糧は避難民のために軍が積極的に購入していたことを思い出して、アベールは少々気落ちする。

 手持ちの食糧を遣り繰りして籠城を続けるのと、危険を冒して死霊の群れの中を食糧を取りに出るのと、どちらがより長く戦えるか?

 そんなことを考えていると、銀竜亭を調べていた近衛騎士が一人戻ってきた。


「殿下、こんなものが置いてあったのですが。」


 そう言って差し出したのは、一枚の紙と一本の鍵だった。

 紙には地図が書いてあるようだった。


「この場所は……近いな。行ってみるか。」


 幸い、地図に示された場所は最終防衛線の範囲内だった。

 どのみち近隣の建物は調べて回る予定だったのだ。鍵があるならば扉を壊す手間が省ける。

 アベール達は、軽い気持ちで地図の場所へと向かった。


「これは!」


 地図で示された場所にあったのは、大きめの蔵だった。

 かなりしっかりとした作りで、鍵が無ければ壊して押し入るのに苦労しただろう。

 だが、驚いたのはその中身だ。

 広い蔵の中を埋め尽くす大量の物資。

 小麦粉、干し肉、ドライフルーツにナッツ類、その他各種保存食に保存の利く食材。

 食糧だけでなく、医薬品や日用品なども含め、今のアベール達が必要とするものはほぼ全てが揃っていた。

 無いのは武具くらいだろう。

 そして、その大量の物資の前に張り紙が一枚。


『ご自由にお使いください。  ――シャルル・サンソン』


「サンソン商会の倉庫だったのか……」


 まるでこの事態を予見したかのようなサンソン商会の行為に、アベールは唖然とした。

 一方、同行した近衛騎士たちは、必要な物資が手に入ったことを純粋に喜んだ。


「やった、これであと十年は戦える!」

「バカ、十年は言い過ぎだ。だが、これで当面食い物の心配はなくなった。」

「ええ、一ヶ月と言わず、一年だって戦い続けて見せますよ!」


◇◇◇


 一方、王都の北側でも最終防衛線が構築されていた。

 第三防衛線が東西で破られたことで分断された際に、北側にいた者たちが集結したのだ。

 幸い北の本命となる拠点は無事であり、物資の不足に悩まされることなく立て籠もることができた。


「アレックス、防衛線の構築が終わりましたよ。」


 元グランツランド王国国王、アレックス・ラグバウトは北側の拠点にいた。

 第三防衛線は範囲が広くなるため、仮設司令部からの指示は届き難くなる。

 防衛線の各所で戦う各部隊も独自に判断して動けるようにはしているが、やはり全体を見て指示を出す者がいた方が戦いやすい。

 特に撤退時は全体でタイミングを合わせないと敵の真っただ中に孤立する恐れがある。

 そこで、仮設司令部での全体指揮をアベールに任せ、アレックス元国王が反対側で指揮を執ることにしたのである。


「そうか。なら一度打って出ようと思うのだが。」

「駄目です!」


 だがこの元国王、実はかなり好戦的な武闘派であった。

 戴冠して国王になってからは鳴りを潜めていたが、若い頃には色々と暴れ回っていたのである。

 国王になってからは表向きは落ち着いた様子を見せていたが、その裏では鍛錬を欠かしたことはかなった。

 息子のアベールに総指揮を任せたのも、自ら最前線で戦いたかったからだ。

 今も重そうな鎧を着こみ、その背には愛用の大剣が装着されている。

 勇ましく頼もしいが、今にも敵に向かって突っ込んで行きそうな様子は指揮官としての落ち着きに欠けていた。

 国王と言う役職から解放されて、箍が外れたようである。


「多少暴れた方が死霊の注意を引き付けられるのではないか?」

「我々が生きてここにあるだけで注意を引いていますよ。おとなしく立て籠もっていた方が効果が高いと結論が出ています。」


 その暴走気味のアレックスを押し止めているのが元宰相、マイケル・フォスターだった。

 この二人はアレックスがまだ王になる前、王子だった頃からの付き合いである。

 何かと暴走しがちなアレックスを、マイケルが押さえて方向修正する。

 そんな関係がずっと続いていた。


「何なら聖堂まで戻って怨霊を倒せばそれで終わるんだろう?」

「それができるのなら、二百年前に終わっています!」


 暴走癖のあるアレックスを反面教師にしたのか、息子のアベールは熟考してから動く性格に育った。

 その事実に、宰相時代のマイケルは一人胸をなでおろしたという。暴走する王族が二人になっては手に負えないと思ったのだろう。

 もっとも、聖女ソフィアを救うために国を滅ぼす計画を思い付くあたり、苛烈な性格は親譲りのようだ。


「最終防衛線が破られてここも死霊だらけになったら、全身に爆薬を括り付けて単騎出撃させてあげますからそれまでおとなしくしていてください。」

「自爆前提かよ!?」

「アベール殿に自分の父親のゾンビを倒させるわけにはいかないでしょう。原形を留めぬほどバラバラになって死んでください。」

「息子よりも先に倒れるつもりはないぞ!!」


 馬鹿話を挟みつつも、戦闘に関しては天才的な判断力を見せるアレックスと、冷静な分析を行うマイケルのコンピは手堅く戦いを進めて行った。



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