本当の親じゃないから。本当の親じゃなくとも。
思春期を迎え、私は親と対立する事が多くなった。
別にそれを望んだ訳じゃなかった。
ただ、分かって欲しかっただけだった。
普通に話をしているのに。
大人達は私を分かろうとはしてくれなかった。
まるで私がしている事の全てが悪いかの様に。
否定する事だけを、続けた。
そんなある日。
押し入れの中から音が鳴った。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
知らない音だった。
私は押し入れのその音の元を辿った。
衣類等が入っている収納ケースの奥から出てきたそれは、
シルバーの携帯電話だった。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
表示された画面には知らない名前が表示されていた。
「、、女の人?」
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
そのメロディーは何だか早く出る様に、
促されている気がした。
「はぃ、、
もしもし。」
その電話の声は、やはり女性だった。
電話の女性「元気にしてる?」
「はぃ、、
どちら様ですか?」
電話の女性「もぅ、
覚えて無いわよね、、」
「はぁ、。」
きっと親の携帯だろうか。
何故私の所に入っていたのかは分からないが。
この人は私を親だと勘違いしているのだろう。
けれど私はその声から離れたいとは思えなかった。
それは、ちゃんと。
私の話を、聞こうとしていたからだろうか。
電話の女性「幾つになったの?」
私は自分の年齢を伝えた。
電話の女性「もぅ、そんなに経つのね、、」
電話から聞こえる声は、私の親よりも優しく。
温かさが感じられた。
「何処に居るの?」
どうしてその質問が出て来たのかは分からなかった。
電話の女性「何処に居るかは教えられないけど。
とても、居心地が良い所よ。」
「良いな、。
私は居心地が悪い。
誰も、真面に話を聞いてくれないし。
分かろうともしてくれない。」
電話の女性「そうなのね、、。
それは悲しいわね。」
「、、ぅん。」
私は涙が溢れて来た。
電話の女性「大丈夫?」
「大丈夫じゃぁ、なぃ。」
電話の女性「私もあなたくらいの時に。
きっと、そうやって悩んで居たわ。」
「そうなの??」
電話の女性「えぇ。
『どうして分かってくれないの!?』
って、寂しい思いをしたわ。」
「どうして、大人ってそうなの??」
電話の女性「んー。
きっと、殆どの人はあなたみたいな経験をして。
自分なりの"コタエ"を見付けているの。
だからその人達なりに教えようとはするのだけれども。
そんな事を言われても分からないのよね。」
私は急に淋しくなった。
"この人も同じなんだ"
そう思った。
「、、私が、子供だから??」
電話の女性「違うわよ。
コタエは人各々違うからよ。」
「、、ぇ?」
電話の女性「学校で勉強して。
テストをするでしょう?
そうして、先生が評価するけど。
それにはちゃんとした答えがあるの。
けれどあなたの悩んでいる事には正解が沢山あって。
人によってその正解が違うの。
生きて来た環境やその人が送って来た人生によって。
その人の。答え、を見付けるの。」
「ぅん。」
電話の女性「でもその答えっていうのは、
大体が間違っては無いのよね。」
「どうして?」
電話の女性「それは、その人が導き出した。
正解
だからよ。」
少し難しくて、分からなかった。
「そうなんだね、、」
電話の女性「大人達はそうやって生きて行くの。
仮にそれが間違いだと気付く人が居たりもするし。
その答えをずっと正しい事だと思って貫く人もいる。
大人っていうのはその答えを決めて生きるって事なの。
案外、大人ってのも大変なのよ?。」
「ふーん、、」
電話の女性「ちょっと難しいかな。」
「ぅん。」
電話の女性「大丈夫よ。
難しく考えないで?
大人達は、あなたに対して。
その人なりの答えを教えようとしているだけ。
ちょっと冷たく感じる事もあるかも知れないけど。
伝え方が下手なだけよ。
、、一度。言われた様に試してみたら?。
それが駄目だったら、あなたなりのコタエを。
自分なりに。
探してみたら良いんじゃないかしら?」
「ぅん。」
電話の女性「そうやってあなたなりの答えを見付けて。
素敵な良い大人になったら良いじゃない?」
「、、出来るかな?」
電話の女性「大丈夫よ。
人は皆違うのよ。
いろんな考えや価値観があって。
そうやって、生きて行くの。
大丈夫。
あなたは、あなたよ?。
」
何だか私を認めてくれた様な気がした。
「ぅん。
、ありがとう。」
電話の女性「いいえ、、」
「また話せる??」
私はこの人と離れたくなかった。
電話の女性「、、どうかしらね。」
嫌だったのだろうか。
けれど、私は。
「また話したい。」
そう、素直に言えた。
電話の女性「そう、?
それはとても嬉しいわ。
、、話せて良かったわ。」
「、、私も。」
電話の女性「じゃあ。
元気でね??」
"行かないで"
その言葉が喉に突っ掛かった。
でもそれはイケナイ気がした。
「ぅん。
ありがとう。」
電話の女性「そんな寂しそうな声をしないの、。」
「、、ぅん。」
電話の女性「きっとまた、話せるわよ。」
「ぅん。
またね。」
電話の女性「、、またね?」
私が成人すると。
親から本当の親では無い事を伝えられた。
私の本当の親は、事故で亡くなってしまったらしい。
もし、思春期にそんな事を伝えられていたら。
きっと、あの頃の私では。
「突き放された。」
そう、思っていたに違いない。
だから冷たくされて居たのだと。
だから話を聞いてくれなかったんだと。
でも今は違う。
私も大人になった。
私なりの答えがそれで正しいのか。
それは、分からない。
あの頃の私が。
今の私の答えを聞いたら。
淋しく。思わないだろうか。
否定され、ないだろうか。
そんな風に時々思ったりもする。
あの時の衣装ケースの中に入っていた携帯は。
亡くなったお母さんが持っていた携帯だった。
あの電話はあれ以来見ていない。
いつかまた話せる時が来たら、、。
私がしっかりしていたら。
また。
きっと。
いつか、、。
亡くなったお母さんと、電話が出来るだろうか。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪




