代償
冷たい壁の先に。
俺の弟は立っていた。
弟「、、久しぶり。」
「あぁ。
元気そうで、何より。」
弟「、、ごめん。
兄ちゃん、、」
その面影に。
嘗ての姿は無かった。
「ふざけんなごらぁあああ!!!」
また始まった。
「やめて、、やめてぇ、!!」
母さんの泣き叫ぶ声。
ドン!、ガシャン!
何かが壊れる音。
「偉そうに!
何。言ってんだ、よおっ!!」
父さんはいつも怒っていた。
母さん「ごめんなさい。ごめんなさい!!
痛い!やめてぇ、、」
そして、母さんはいつも謝っていた。
何に父さんが怒っているのか。
その時には分からなかった。
いや。
知りたくも無かった。
俺はただ、クローゼットに隠れていた。
"母さんを助けよう"
何て、思わなかった。
自分で自分を守るのに、必死だった。
「やめろよ父ちゃん!!」
弟は、母さんの間に入った。
父さん「うっせぇ!!
退いてろっ!!!」
母さん「やめてっ、!!」
その時。
鈍い音がした。
弟「、ってぇええなぁあああ!!」
母さん「やめてぇえええ!」
俺が間に入っていれば。
父さん「、、ぅうっ。。」
あぁは、ならなかったのだろうか。
母さん「いやぁあああああ!!!!」
弟はその日。
"犯罪者"になった。
家は美容室を営んで居た。
『あははは。』
昔は、楽しかった。
よく、出掛けた。
父さんも母さんも。
弟も俺も。
よく笑った。
『あははは。』
みんな。幸せそうだった。
母さん「ぃゃっ、、ぃゃぁあ、、」
ギィイイ。
鈍い音と共に。
目の前の扉は、ゆっくりと開いた。
弟「、、兄ちゃん。
俺、、」
そこには真っ赤な弟が居た。
俺は。受話器を取り。
番号を入力した。
110。
受話器「事件ですか?事故ですか?」
俺は通報した。
一人しか居ない兄弟を。
警察に引き渡したのだ。
『あぁ。
元気そうで、何より。』
どの口が言っているのだろうか。
弟『、、ごめん。
兄ちゃん、、』
謝るのは、俺の方だ。
「飯でも、
食いに行くか。」
弟「、、うん。」
「食べたい物、あるか?」
母さんは、言葉を発しなくなった。
連日。メディアが押し寄せ。
そのせいか、近隣住民からの嫌がらせが始まり。
俺は学校でも虐められた。
解放されたハズの母さんは日に日に窶れ。
俺を取り巻く環境は、悪化した。
どうすれば正しかったのだろうか。
何が"正解"だったのだろうか。
父さんが悪いのか。
母さんが悪かったのか。
「今、美容師やってるんだ。
良かったら、一緒に働かないか?」
弟「うん。」
弟が。悪かったのか。
善悪は難しい。
そうなってしまった原因を。
誰かの【責任】で片付けるには。
都合が良すぎた。
女の人「お待たせしました~」
「ありがとうございます。」
女の人「ごゆっくりどうぞ~」
「食べよう?」
弟「頂きます。」
「いただきます。」
誰かのせいに出来たら。
どれ程、楽だろうか。
弟「御馳走様でした。」
「ごちそうさま。」
俺は一生背負って生きて行かなければならない。
母さんも。弟も。死んだ父さんも。
あの時の俺が逃げていたばかりに。
俺は、死ぬまで払い続けなくてはならない人生を歩む。
「今度、母さんに会いに行こうか。」
弟「ぅん、、」
俺のせいで。
家族が壊れた。
望んではいない結果を。
受け入れるしかない現実。
『運命を呪う』
とは、よく言ったものだ。
必然的な未来だったのだろうか。
違う。
はじめから分かっていた。
近い内に訪れる未来を。
俺は何処かで知っていたんだ。
「家に、帰ろうか。」
弟「うん。」
俺達が幸せになる為には。
それが不可欠だったのだろう。




