その十一 「喜多泰三来る」
喜多泰三は越智の友人で「南海道伊予國上代神記」の研究家であった。かつて県立高校の教師であったが、いまは定年退職したのでいまは無職だ。一般にはトンデモ理論の持ち主として異端視されている。彼は四国に超古代文明が存在したなどと主張しているからだ。
この時、越智は早く喜多が来てほしいと思っていた。一緒に連れてきた女子大生がいきなり祭りに参加する巫女にされたからだ。しかも喜多に嵌められた節があったからだ。事実、今回のメンバーは喜多が指名したからだ。ふたりは郷土史研究会のなかで必ずしも熱心なメンバーとはいえなかった。
「そういや、女性メンバーでは北条純という喜多先生の理論に首っ丈というのがいたよな。彼女を何故指名しなかったかわかったよ。彼女、巨漢だからな」
その北条という女性はプロレスラーのような体型で、いつも食べ放題の飲食店に行くのが好きという女だった。彼女は処女かどうかしらないが、巫女という柄ではなかった。
次から次へと参拝者がやってきたが、皆、ふもとの集落に車などを止め登山してきたようだった。社務所の中は人で溢れ、とうとう百人近くになった時、見慣れた白髪の老人の姿が見えた。
「喜多先生、お世話に成りますが、今回の事いろいろと聞きたいことがあります。何が起きているのですか? あなたは女神大祭が今日開かれるといわれていなかったじゃないですか? それに西条と吉田の二人が何故巫女にされるのですか? それよりも研究会を嵌めたのですか? 」
「越智先生、すまん。だましたわけではないんだ。祭りに参加する巫女は決まっていたのだが、ひょんなことで参加不可になったのだ。それで妙子女史に頼まれたのだ」
「頼まれた? そうすると選んだ基準とは、あれですか? 」
「そう、あれ。処女ということだ。二人とも男性経験がないといっていた事を思い出したのよ。本当は誰でもよかったのだが、出来れば県内出身が望ましかったんじゃ」
「じゃあ聞きますが、巫女になったらどうなるのですか? まさか帰れないという事はないでしょうね? 」
「それは知らん。知らんから協力したのだよ、妙子女史に。ただ言えるのが今回の大祭が最後になる可能性があるそうだ。もしかすると大変な事が起きるようじゃよ。内容については聞いていないがね」
越智はメンバーの女性二人をトンデモないことに巻き込んだ事に気付いた。しかも何が起きるのかすら知らされてないというか何も知らなかった。あせりの気持ちが出始めた時、ようやく妙子の伝言だという老人がやってきた。自分と喜多と三島、それに小松老人の四人に来るようにというものだった。




