その十 「参拝客たち」
詩織と弥生が祭りに参加する巫女に強制的にされた時、越智と大輔は差し出された和服に着替えていた。着ていた服を乾かすためだ。二人はこのときこれから起こる事を何も知らなかった。
「お二人さん、入浴に行ってからもう一時間以上経つのに戻ってこないな、本当に女の着替えは長いんだから。まあこうして資料の再検討ができるからいいか」
待つ間、越智は持参してきたノートパソコンに記憶させていたデータを呼び出して、今回の巫女大祭の記録を見直していた。巫女大祭は県内どころか祠のある郡内でも有名でなかったが、どうやら限られた住民とそれを取材した民俗学者にしか知られていないようで、しかも相当古い資料しか残っていなかった。
「戦災で失われた120年前の大祭の記録だけど、真贋はわからないけど印画紙に残されたものがあったのだけど、それ意味不明なのだな本当に」と呼び出したデータを拡大したりしてみていた。
その呼び込まれていた印画紙のデータには祭りの手順書の一部のようであったが、二人の巫女が描かれていた。それによると一人の巫女がもう一人の巫女によって棺桶のようなものに閉じ込められる様子であった。下には”女神降臨の儀”とあり、選ばれた巫女はその全身全霊をもって女神の奉仕者となる。といった意味が書かれていた。しかし前後の記憶が欠落しているので意味が判らなかった。
「どうも巫女の絵が綺麗だからという理由で、この頁だけ写真撮影したようなんだなこれって。本当に空襲で焼けなければよかったのに。でも、この儀式ってまさか人身御供? 」越智は一つの結論を思いついた。これってもしかすると生贄に儀式?
そういえば、昭和60年の愛媛日日新聞の記事に巫女は松前妙子しか登場していないけど、もう片方の巫女のことが書かれていないことも変だった。このことも妙子に聞かないといけない事だった。
そうした中、社務所にはドコからと無く参拝者が次々と到着していた。彼らの年齢構成がバラバラで一家で子連れから老人まで様々であった。越智たちは次第に部屋の端へと追いやられていった。
「小松さんも、この方々のように祠に来たわけですか? それにしても駐車場も無いのに良く来ましたね」
「なあに、昔の集落に止めて此処まで登ってきただけのことよ。ワシもふもとまで孫に送ってもらったのよ。そんだけ重要な祭りのということよ。今回はもしかすると最後の祭りだからかもしれないし。それに女神様も降臨されるだろうし」
「祭りって本当に開催されるのですか? そんならもっと学生をつれて来ればよかった」
「なんだ、おめえさん知らずに来たのかね? なんだ喜多先生に説明を聞かなかったようだな。まあ一緒に来たお嬢さんたちも今頃は祭りに参加するように準備していることだろうよ」
このときになって越智は喜多に嵌められた事に気付いた。いつの間にか女神大祭に参加されられていたようだ。詩織と弥生の身が危ないと思って腰を上げようとしたが、足腰が立たないばかりが参拝客に阻まれ部屋から出る事は叶わなかった。




