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第五話 デモンストレーション

扉をくぐると、広い部屋に出た。

高そうなシャンデリアが天井から吊るされ、何卓ものテーブルには豪華な食事が並んでいる。

「……まるでパーティー会場だな」

そこには、すでに何十人かの人たちが集まっていた。

「試練を通過した人たちですかね」

羽川が僕に尋ねる。

「……そうだろうね」

僕たちは、試練二日目の朝に通過した。

おそらく、期限である三日目までは、ここで過ごすことになるのだろう。

「あーっ!」

突然、女性の声が僕たちに向けられた。

「通過したんだねっ。よかったー」

そう言って、南條が近づいてくる。

その横には、気だるそうに歩く真田の姿もあった。

「あの時は、助かったよ」

「僕は鳴海ケン」

「こっちは――」

羽川を紹介しようとしたところで、南條が言葉を被せてきた。

「彼女さんかな?」

「……っ!」

羽川の顔が赤くなる。

「めめめ、めっそうもないです!」

両手を振り、全力で否定した。

「は、羽川静香と言います」

「鳴海さんとは、パートナーと言いますか……」

「やっぱ彼氏じゃん」

「ち、違います! 試練の、という意味ですから!」

またもや慌てて否定する羽川をよそに、真田が僕の前まで出てくる。

「はっ! 次は敵かもしれねぇのに、お礼なんざ」

「相変わらず、甘ちゃんのままだな」

僕は、そんな真田の目を真っすぐ見据えて答えた。

「もう、そんな失敗はしない」

南條が、真田の襟をグイッと引っ張る。

「ごめんねー。この子、天邪鬼なとこあるから」

「ガキ扱いすんな!」

「なによー」

二人の痴話喧嘩は置いとくとして……。

僕はもう一度、周りを見渡した。

何人かで集まって話し合っている人たち。

一人で静かに過ごす人や、普通に食事を楽しんでいる人もいる。

いろんな人たちが目に入った。

『さすがに、知っている人はいないか……』

 

「あれ? そういえばマスターは?」

南條が辺りを見渡す。

「どうせトイレだろ? おっさん、すぐ腹壊すから」

「……死んでもお腹って壊すんだ」

僕は、二人が話している人物が気になり、尋ねた。

「マスターって?」

南條が気づいて答える。

「あ、私たち、バーでバイトしてるの」

「|NightWalker《ナイトウォーカー》ってお店でね。そこのマスターもこっちに来てたんだ。」

同じ店で働く三人が、揃ってこの世界に来るなんて……。

何か大きな事件や事故にでも巻き込まれたんだろうか。

『まぁ、あっちから話さない限り、余計なことに首を突っ込むのはやめよう』

そう思って、

「……そうなんだ」

とだけ返した。

とにかく、今は次に備えて身体を休めるべきだ。

「羽川、僕たちも何か食べようか」

死んではいるみたいだけど、普通にお腹は空くし、喉も渇いていた。

二人と別れ、僕たちは食事をする。

食事をしている途中、何人かが僕たちと同じように広間へ入ってくるのが見えた。


     *


しばらくして――

『お待たせしました。これより、第二の試練について説明いたします』

黄泉津神とは違う、女性の声が頭の中に響いた。

広間の奥にスポットライトが当たり、そこに一人の女性が立っていた。

『まず、第一の試練の通過者は、ここにいる121名になります』

ざわ……。

その言葉に、広間が少しざわつく。

女性の口は動いていない。

それでも、頭の中に響く声は彼女のものなのだろう。

「121名か、かなり減ったな」

「……そうですね」

僕と羽川は、残った人数を確認するように顔を見合わせた。

『第二の試練は――錬魔』

「……!」

その声と同時に、再び左腕が光った。

光が収まると、そこには腕輪がはめられていた。

『右手で触れてください』

「……またか」

僕はそう呟き、右手を腕輪に添えた。

すると、脳裏に文字が浮かび上がる。

『期限は10日』

『五人一組で試練に臨むこと』

『使徒と戦い、その討伐を競う』

『使徒にはそれぞれ強さがあり、討伐点もその強さによって異なる』

『試練を通過できるのは、討伐点の高い上位五組のみ』

ざわ……ざわ……。

先ほどよりも、さらに広間が騒然とする。

『何か、質問はありますか?』

女性の声が、再び頭の中に響いた。

「……これは」

考えをまとめようとする僕より先に、一人の男が大きな声で尋ねた。

「一人余るんじゃないか!?」

女性が答える。

『ええ……ですので』

ズズッ……。

広間の中央から、何かがせり上がってくる。

「おおっ……!?」

「何だ、何だ!?」

中央にいた人たちが、慌ててその場から離れた。

やがて現れたものを見て、僕は呟いた。

「……リング?」

それは、まるでボクシングのリングのようなステージだった。

『今から、試練の使徒が一体出現します』

『ちょうど、中間くらいの強さですね』

「……まさか、ここでやる気か?」

一人余るという現状。

そして、広間の中央に現れたリング。

僕は、女性が何を言おうとしているのか察した。

『どなたか一名、ここで使徒を倒せば、試練を通過したものとします』

その言葉に、広間は激しくどよめいた。

「よーっしゃっ!」

バチンッ!

真田は自分の拳を手のひらに打ちつけ、前に出ようとした。

「ぐえっ!」

その瞬間、南條が真田の襟首を掴み、後ろへ引っ張った。

「バカじゃないの、アンタ!?」

「なんだよ? これでクリアならラッキーじゃねぇか」

「……はぁーっ」

南條は呆れたと言わんばかりに、大きくため息をついた。

「あのねぇ……相手の実力もわかんないうちに、ほいほい誘いに乗らないのっ」

「……それに」

南條は少し気恥ずかしそうに目をそらした。

「私を……置いてく気?」

「ぐっ……」

真田は南條の言葉に、照れたようにたじろいだ。

「わーったよ!」

頭をボリボリと掻きながら、真田は一歩下がった。

「オレが行くぜぇ!」

直後、一人の男が名乗りを上げた。

丸太のように太く、血管の浮き出た腕。

服の上からでも容易にわかる、盛り上がった胸筋。

見るからに屈強な男が、リングへと向かっていく。

「……うわぁ、アンタみたいなバカが他にもいるのね」

「バカじゃねーよ!」

呆れた目で男を見る南條に、真田がツッコミを入れた。

男がリングに上がると、対面にいくつかの淡い光が灯った。

やがて光は一つに集まり、塊となって姿を成していく。

ズンッ!

二本の足が、力強く地面を踏みしめた。

「……ひっ」

羽川は異形の姿に驚き、僕の裾を掴んだ。

高さは、二メートルほどだろうか。

全身が茶色の毛で覆われ、その姿は人の形に似ている。

「まるでゴリラだな……」

僕は、その姿を見て呟いた。

だが――

大きな目が一つ。

口から突き出た二本の牙。

この二つがゴリラとは異なり、不気味な存在感を放っていた。

リングに立つ男は、その姿に気圧され、息を呑む。

『ゴライアス……とでも名付けましょうか』

頭の中に、女性の声が響いた。

「ぅおおおっ!!」

男は気合いを入れるように叫んだ。

ビキキッ!

男の両腕が、鈍い銀色の輝きを放つ。

『あの色……腕を鉄に変えたのか?』

僕は男の両腕を見て、そう推測した。

「オラァッ!」

男はゴライアスに飛びかかり、右の拳を顔面に叩き込んだ。

ゴォン!

鈍い音が響く。

拳が直撃し、男はニヤリと笑った。

……だが。

ゴライアスは倒れない。

いや、倒れないどころか――

微動だにしていなかった。

「……え?」

男の笑みが消える。

大きな目玉だけがギョロリと動き、男を捉えた。

瞬間――

ガリィッ!

ゴライアスは二本の大きな牙で男の肩に噛みつき、肉を抉った。

「あっ、ぎゃぁぁあっ!」

悲鳴とともに、男は尻もちをついた。

肩からは、噴水のように血が飛び散っていた。

ゴライアスは、ゆっくりと男に近づいていく。

「まっ、待て! 降参だ! オレはリタイアする!」

男は怯えた目で、広間の奥に立つ女性を見た。

「……」

女性の表情は変わらない。

ゴライアスは男の両肩を掴むと、大きく口を開けた。

「……っ!」

僕は、すかさず羽川の視界を塞いだ。

女性の態度から察した。

もう、止めるつもりはないのだろう。

「あ……やめ――」

ゴシャァッ!

ゴライアスは男の頭にかぶりつき、そのまま噛み砕いた。

男は膝をついたまま、両腕をだらりと垂らす。

プシュウウウゥ――

再び、リングに血飛沫が舞った……。

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