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性悪な悪役に仕立て上げられた気弱令嬢は、友情を取り戻して真実を手に入れたい!  作者: 風谷 華
第一章

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第8話 恐怖

 放課後。

 西日に照らされた教室は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 机の上には開きかけのノートと、読みかけの本。だけど文字は頭に入ってこない。

 私はただ椅子に腰を下ろし、足を投げ出すこともできず、固まったまま息を潜めていた。


 (……怖い。やっぱり、私ひとりじゃ……)


 昼間、心に決めたはずだった。

 ――最初に声をあげたクルール子爵令息に話を聞く。

 あの証言が事件を決定づけたのだから、真実を探るには彼に接触するしかない。


 でも、いざ動こうとすると、心臓が早鐘のように鳴って胸を突き破りそうだった。

 頭の中で「行かなくちゃ」と繰り返すほど、体は椅子に縫い付けられたみたいに動かなかった。


 (もし、あの人に睨まれたら? 怒鳴られたら? 誰かに笑われたら……)


 考えれば考えるほど足がすくみ、視界がじわりと滲む。


 ――その時。

 扉が軋む音とともに、軽い足音が響いた。


 「姉さん、まだ帰ってなかったの?」


 声に振り向くと、そこにはレオンが立っていた。

 夕日を背にしているせいか、銀の髪が金色に縁取られて見えて、まるで舞台に現れた役者のようだった。


 「……うん」

 私は小さな声で答える。


 レオンはため息をつきながら教室に入り、当然のように私の隣の机に腰をかけた。

 肘をつき、顔を覗き込む。

 「また何か考えてるんでしょ。顔に“真剣に悩み中”って書いてある」


 「……そんなにわかる?」

 「うん。あと、“眉間にしわ寄せすぎてしわしわおばあちゃんになる五秒前”って顔もしてる」


 「そ、そんな顔してないわ!」

 思わず声を上げると、レオンがくすっと笑った。

 「はいはい、冗談。でも、姉さんが悩んでるときの顔って、だいたいそういう感じだから」


 からかわれて、少しだけ緊張が解けた。


 「……実は」

 私は勇気を出して、昼間のことを話した。

 中庭に試験問題が張り出されたこと。

 マルセリーヌが濡れ衣を着せられたこと。

 そして――最初に声をあげた子爵家の息子が怪しいと感じていること。


 「……でも、私……怖くて」

 唇を噛み、視線を机に落とす。


 レオンは少し驚いたように目を瞬かせ、それから肩を竦めて笑った。

 「なんだ、そんなことか」


 「え……?」


 「最初から一人で行くつもりだったの? それは無理に決まってるじゃん」

 レオンはわざとらしく大げさな声で言った。

 「おとなしい姉さんが、強気に“真相を話しなさい!”って乗り込む姿なんて、想像しただけで笑えるよ」


 「わ、笑うところじゃないわよ……」

 赤面しながら抗議すると、彼はさらににやにやして続ける。

 「姉さんの武器はね、迫力じゃなくて優しさ。僕が横にいて強気役をやるから、姉さんはおとなしく首を傾げて聞いてればいいんだよ。それで相手は勝手に喋りだすって」


 「……そんな簡単にいくかしら」

 「いく。だって、姉さんの“うん、うん”って頷く顔って、ずるいくらい安心感あるから」


 胸がじんわり熱くなった。

 (……レオンは、いつもこうして笑わせてくれる)


 「僕が一緒に行くよ」

 レオンははっきりとそう言った。


 「……いいの?」

 「当たり前でしょ。姉さんのこと、放っておけるわけないだろ」


 そう言って立ち上がると、彼は手を差し伸べてきた。

 「さ、行こう。二人なら大丈夫だよ」


 その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。

 私は迷わずその手を取った。


 (……ありがとう、レオン)


 彼の手は、思っていたよりも大きく、力強かった。

 その温もりに包まれながら、私はようやく教室から立ち上がる勇気を得た。


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