第7話 決意
ざわめきはまだ収まらなかった。
中庭に張り出された試験問題を前に、生徒たちは口々に声を上げる。
「誰がやったの?」
「まさか侯爵家の令嬢が……?」
「監督室の前にいたのを見たって……」
その囁きがマルセリーヌを取り囲む輪のように広がっていく。
必死に否定する彼女の声は、その波に飲み込まれて誰にも届かない。
私は胸の奥に、ひとつの疑問を抱えていた。
(……おかしい)
本当に試験を不正に利用するつもりなら、わざわざこんな人目のつく場所に張り出す必要はないはずだ。
隠して持ち出して、こっそり仲間にだけ渡せばいい。
それなら教師に気づかれることもなく、簡単に点を稼げる。
(なのに……なぜ、わざわざ“中庭”に?)
考えれば考えるほど違和感が募る。
中庭は学園で一番人通りの多い場所。
生徒も教師も必ず通るから、こんなものを貼ればすぐに見つかってしまう。
つまり――「秘密にする」ことよりも、「大勢に見せる」ことが目的だった。
(なら……これは不正が目的じゃない。真の目的は――誰かを犯人に仕立て上げること)
その瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、ひとりの男子生徒の顔だった。
――最初に声を上げた、えっと、確か同じ学年で隣のクラスのクルール子爵令息。
「昨日、監督室の前でマルセリーヌ様を見ました!」
あの一言で、空気が一気に変わった。
それまでただの「事件」だったものが、彼の証言で「マルセリーヌの犯行」だと決めつけられてしまった。
(……でも、どうして?)
私は唇を噛む。
確かに彼は監督室の前で彼女を見たのかもしれない。
けれど、それだけで「盗んだ」と断言するなんて不自然すぎる。
(もしかして……彼自身が仕組まれた役? 王太子派に取り入るために、言わされた?)
胸がざわつき、鼓動が速くなる。
思考の渦に呑まれそうになりながらも、私は机の下で小さく拳を握った。
(……放課後、彼に話を聞いてみよう)
話したことのない人と話すことは、人見知りのエレーナには勇気のいることだ。
でも――やらなければならない。
だって、このままではマルセリーヌが潰されてしまう。
(マルセリーヌに拒絶されても……私は信じたい。)
声にならない誓いは、誰にも届かない。
けれど、静かな灯火が確かに胸の奥で燃え始めていた。




