表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性悪な悪役に仕立て上げられた気弱令嬢は、友情を取り戻して真実を手に入れたい!  作者: 風谷 華
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/32

第9話 聞き込み

 放課後の校庭は、まだ賑やかさを保っていた。

 西日が差し込み、芝生を黄金色に染めている。

 歓声が上がるたび、風に乗って乾いたボールの音が響いた。


 魔法で浮力を与えられた木製のボール――「空球スカイボール」。

 学園生たちに人気の遊戯で、空中に跳ねる球を追いかけては、風や跳躍の魔法で奪い合う。

 汗と笑い声が混じるその輪の中心で、ひときわ目立っていたのがクルール子爵令息だった。


 「クルール様」

 私はそっと声をかけた。


 彼は器用にボールを片手で回しながら、くるりと振り返った。

 「おや? これはこれは……王太子に捨てられた伯爵令嬢が、僕に何のご用かな?」


 その言葉に、周囲の生徒がざわりと笑いを漏らす。

 胸の奥が痛み、息が詰まった。

 だがすぐにレオンが前に出て、低い声を投げつけた。


 「……姉さんを侮辱するな」


 凍りついた空気に、笑い声が止む。

 クルールは肩を竦め、わざとらしく両手を広げてみせた。

 「おっと、怖い怖い。冗談だよ、冗談。そんなに睨まなくても」


 レオンは一歩も引かず、じっと見据えたまま言った。

 「単刀直入に聞く。お前が今日、マルセリーヌ様を見たという証言だ。本当に見たのか?」


 「ふむ、やっぱりその話か」

 クルールは面倒くさそうに息を吐き、ボールを足元で転がした。

 「サモン教師に呼ばれて、監督室へ行ったんだよ。授業中にうっかり居眠りしてしまってね。『ふざけるな、放課後監督室に来い』と怒鳴られてさ。……そこでマルセリーヌ嬢とすれ違った。ただそれだけさ」


 「……なぜ覚えていた?」

 レオンは食い下がるように尋ねる。


 「マルセリーヌ嬢ほどの美人を見間違えるはずがないだろう?」

 クルールは軽薄な笑みを浮かべる。

 「それに、監督室に縁のなさそうな彼女がそこにいたのが不思議で、印象に残ったんだ」


 私は黙って聞きながら、心の奥で考えを巡らせる。

 (……確かに、言っていることはもっともらしい。でも、わざわざ“証言”として広めたのは……)


 レオンは腕を組み、しばし考え込んだ。

 「……じゃあ、サモン教師に呼ばれたのは事実なんだな?」


 「もちろん。あの人は授業中の居眠りを見逃すような甘い教師じゃない」

 クルールは苦笑交じりに答える。

 「それに……僕は彼女を陥れるつもりなんてないさ。ただ、本当に見たことを口にしただけ。学園の連中がそれをどう受け取るかは……僕の知ったことじゃない」


 (……犯人ではなさそう)

 私の心にそう結論が浮かぶ。


 「……姉さん」

 レオンが振り向き、小声で言った。

 「こいつは犯人じゃないな。言葉は軽いけど、嘘はついてない」


 私は小さく頷いた。

 「ええ……」


 クルールはそのやり取りを聞いて、わざとらしく笑みを深めた。

 「なるほどね。探偵ごっこか。まあ面白いよ。だけど……気をつけな」

 視線を鋭くして、挑発的に囁く。

 「王太子殿下の耳に入ったら、どうなるか分からないから」


 その言葉に、レオンが鋭く睨み返す。

 私は胸の奥のざわめきを抑えながら、彼に背を向けた。

 背後で再び空球の音と笑い声が響き、校庭の喧騒に混ざって消えていく。


ーー

 

 校庭を後にし、私とレオンは並んで歩きながら言葉を交わした。

 空球の歓声が遠ざかるにつれ、胸のざわめきも少しずつ落ち着いていく。


 「……どう思う、姉さん?」

 レオンが肩越しにこちらを見た。


 「……クルール様は、犯人ではないと思うわ」

 私は静かに答える。

 「証言は本当。でも……誇張はしていた。たぶん、ただ目立ちたいだけ」


 「同感だな」

 レオンは小さく笑う。

 「顔に“俺はモテたい、目立ちたい”って書いてあったし」


 思わずくすっと笑ってしまった。

 「……そんな風に見えたの?」

 「うん。というか、ああいう奴はクラスに一人はいるでしょ? 見栄っ張りで軽口ばっかり」


 軽く肩をすくめるレオンの様子に、張り詰めていた気持ちが少し和らいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ