306.奪われたサウル②
間も無く現場に着く、という時、ハーレイ達それぞれに強力な結界がかけられた。
エヴァの結界だ。
ハーレイがちらりと斜め後ろを走るエヴァと目を見合わせて頷き合うと、エヴァがハーレイの前に出た。
エヴァの仕事はハーレイの護衛で、それは上辺だけではない。
実際、ノアから直接指導を受けたエヴァはハーレイよりも魔法に長けているし、剣術は元々余裕で騎士団に入れるレベルである。
エヴァがイヴだと知る者も、誰も「女性だから」とか「危険だから」等とは言わない。
元々帝国の価値観からして、力を持つ者ならば性別など些細なことなのである。
『火災や崩壁はないか?』
エヴァが事務的な口調で密偵達に問いかけると、すぐにリュウイから返事が来た。
『外側から大穴が開けられてしまって、天井が心配だったので結界で支えてます。あと火災は少し。すぐ消火したので、問題ありません!煙で視界が悪いので、風魔法で飛ばしてます』
リュウイのわかりやすい説明を聞き、エヴァが後ろのハーレイと頷き合う。
『わかった、殿下と共に間もなく着く』
『『『『はい!』』』』
今の返事は元々サウルの監視に付いていた4人。
他の密偵達にはジーンからの知らせの後、指示を飛ばして付近にアンリエッタに操られている人間がいないか探させている。
アリアがきちんと離宮にいたからだ。
『ヒルダ、アリアかアリシアに変化は?』
『ありません』
『となると、やはり誰かを乗っ取って使ったか、催眠か』
ハーレイがまた舌打ち混じりに言うと、エヴァが答えた。
『雷系統の魔術となると適正がないと使えませんし、殿下の結界を破る程の威力となりますと、魔術師団の誰かかもしれません』
エヴァがそう言い終えた時、ようやく現場へ辿り着いた。
そこは先程の報告の通り、窓があったはずの壁がぽっかりと開き、視界を遮るものが無くなっていた。
奥には鬱蒼と木々が茂る魔の森が見える。
「殿下」
呼び掛けに振り向くと、魔術師団2団と4団の副団長が跪いていた。
2団は主に皇城の警備が仕事の団で、4団は災害等の緊急時に真っ先に対応する団だ。
皇城に攻撃を受けた際に動くのは2団だが、おそらく落雷の可能性を考えて4団も駆けつけたのだろう。
「状況は」
「何者かがこの部屋に雷電の魔術を打ち込んだ様です。ですが、部屋のダメージを見る限り、壁をぶち抜く程の魔術の割には室内が綺麗過ぎます。この部屋に何が…いえ、誰が居たのか殿下はご存知でしょうか?」
第2団副団長の報告と問いかけに、ハーレイが片眉をピクっと上げた。
真実を話す訳にはいかないが、知る必要はない、などと誤魔化すわけにもいかない。
彼らがハーレイの腹を探りたい訳では無いのは、理解している。
「ここにはある事件の証人を匿っていた。そして私自らがこの部屋に結界を張っていた」
重要な事柄は伏せているが、嘘でもない事実を告げる。
「なるほど、その結界のおかげでダメージがこの程度で済んだのですね…いや、むしろ結界を破るのが目的か…」
切れ者の第2団副団長が、自分の考えを整理するように呟いた。
「それではその証人は、そこから攫われたと言うことでしょうか?」
次に第4団副団長が眉を八の字にしてハーレイを仰ぎ見た。
彼は実力は折り紙付きなのに、とても気が弱い。
ハーレイは頷きながら、ぐるりと他の団員を見渡した。
「普通に考えたらそうだろうが、それを見ていた者はいないか?」
それまで静かにハーレイと副団長達の話に耳を傾けていた団員達が、周りと話しながら確認を取り始めるが、すぐに皆、首を横に振った。
直後、大きめの足音が、廊下から響いた。




