305.奪われたサウル①
精霊達が良さそうな場所を探してきてくれた翌朝、シェリルはすぐに拠点を魔の森に移した。
一緒に暮らしていた精霊達も頻繁に精霊界に戻れるようになり、シェリルと共に数日置きに湖に通うようになって、ひと月が過ぎた頃。
残業をする文官達の残っていた皇城3階の区画の奥の部屋で『バチィ!!』という雷電のような音が鳴り響き、同時に眩しい光がその一帯を包んだ。
室内からその光は見えなかったが、けたたましい音で何人もの文官や使用人達がそれぞれの部屋から慌てて出て来た。
城内を警備していた騎士や魔術師達が、廊下に出てきた彼らに向けて「安全が確保出来るまで室内に戻って待機して下さい!」と叫びながら現場へと駆けていく。
そんな中、執務室で残業をしていたハーレイの元にも連絡が届いた。
『殿下、サウルが攫われました!おそらく強制転移かと思われます!』
声の主はサウルの監視についていたジーン。
ハーレイは苦々しい顔で舌打ちをすると、ガタッと立ち上がって執務室を飛び出した。
その後ろに、護衛のエヴァと執事のアデル、侍女姿のマナが続く。
ハーレイは走りながら、先程のジーンの念話が密偵全員と繋がっていることを確認し、ジーンに状況を尋ねた。
今夜、サウルの部屋には密偵が4人いたはずだった。
『先程の音は魔術か?』
『はい!雷系統の魔術ですが、サウルの命を奪うためではなく、殿下の結界を破るために放たれたようです』
『雷だと?全員、怪我はないか!?』
雷系統の魔術は攻撃力が高い。
少し巻き込まれただけでも大怪我を負うため、慌ててジーンと他の3人の無事を確認した。
『はい、寸前にリュウイが魔力を感知し、結界を3重にかけてくれたので、4人とも無事です』
ハーレイは城の廊下を風魔法を使って走りながら、ほっと胸をなでおろした。
リュウイはまだ14歳の元孤児だが、魔力感知が高く、魔力の器も大きいため、魔術師団の見習いとして魔術の勉強をさせていたのだが、今日はたまたま、怪我をした密偵の代わりにサウルの監視に付いていた。
ハーレイはリュウイがいてくれて良かった、と心から思った。
そんなハーレイの向かう先に、ちょうど部屋から出てきたラングストンとシンシアが見えた。
「殿下!」
「ラングストン、着いて来い!アデル、お前は魔術師団団長に団員に指示を出した後、すぐに現場に来るよう伝えろ。私は現場へ行く」
「かしこまりました!殿下、お気を付けて!」
すぐにラングストンがハーレイの後ろにつき、シンシアは密偵として動くとハーレイに念話で伝え、一度ラングストンの執務室へ戻ったのを確認した。
アデルはそのまま目の前に迫っていた曲がり角を曲がり、魔術師団の団長室へと駆けていく。
魔術師団の団長室には多数の遠見が出来る水晶が置かれており、即座に城の様々な場所を見ることが出来るため、有事の際、団長は指示があるまで団長室に待する事になっている。
どこにいるか分からないと、余計に時間をくうからだ。
その代わり、魔術師団員は即座に現場へと駆けつけ、副団長達が持たされている、団長の声を遠距離で聞き取れる魔術具を使い、その指示に従って行動する。
一応、こういった際の緊急の念話は許可されているのだが、他国の者が侵入した場合等に盗聴されては意味が無い為、あまり使われてはいない。
物凄いスピードで城を駆け抜けて来たハーレイの視界に、立ち上る煙が見えた。




