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 ①②①

見守りの会というものがどんなものなのか見てみたかったが、現実的に今の永剛にとって1万円の出費はかなりの痛手だった。


母が1度目に失踪してからの約1年近くの間、かなり切り詰めた生活をしてきたので多少の貯金はあり、そこから1万円を抜くのは簡単だが、いざという時の為にお金は幾らあってもいい。


今後、母からの仕送りが止まらないとも限らないし、1万円に見合うだけの会かどうかもわからない。


小さい頃、何かの絵本で読んだ靴磨きの少年を真似る手もあったが靴磨きのスキルは勿論の事、何が必要になるのかさえわからなかった。


駄目だ。お金を稼ぐ前に先ず余計な出費が重なる。出費はせず身体1つで稼げる方法は無いだろうか。俯きながら歩く永剛に店の前に立つ呼び込みの女達が嘲笑を浴びせて来た。それを他所に永剛はゆっくりとした歩調で歩いて行った。ふと顔を上げると看板を運び出す手伝いをしてあげた老婆の店が目に入った。老婆は看板の横に小さな椅子を出しそこに座ってパイプを燻らせている。その横に肌が透けて見える服を羽織っただけの下着姿の女性が立ち、行き来する男達に向かって甘い声かけていた。


「兄ちゃんまだ、こんな所にいたのかい」


パイプを椅子の足にコツリとぶつけ、中身を捨てると新たな葉っぱを詰め始めた。


「ねぇお婆さん」


「何だい、しょげた顔して」


「別にしょげてはないけど……」


「そんな縁起でもない顔で店に近寄られたら、客足が遠のいちまうだろ」


「ここで働かせてくれませんか」


「へっ。何かと思えば働かせろだと?舐めちゃいけないよ。良いかい?みた所、兄ちゃんはまだ中学生くらいだろ?そんな子供を働かせてるのが他の連中にバレでもしたら、チクられておまんま食えなくなっちまうよ」


「やっぱり駄目ですか」


「駄目だね」


「そうですか……わかりました。諦めます」


永剛は肩を落とし老婆に頭を下げた。


「兄ちゃんには看板出してくれた恩があるが、その前に聞きたい事がある」


「何ですか?」


「金が入り用なのかい?」


「はい」


「何に使うんだい?」


永剛は背後を振り返りそちらを指差した。

そして見守りの会の話を老婆に聞かせた。


「あぁ、ここ最近、やって来た奴らの事か」


「月に1万円がいるみたいで……」


「止めときな。奴らの良い噂は聞かねぇから」


「そうなんですか」


老婆はそう言ったが側に立っていた肌が透けてる服を着た女が横から口を出して来た。


「あ、ママ、三代子ちゃんがあの見守りの会の人達は皆んな良い人達だって話してたわよ」


「三代子はあんな所に通ってんのかい?」


「うん。そうみたい。何でも1人1人話をしたり、聞いたりするんだって」


「たったそれだけで1万円かい?ぼったくりもいい所だね」


「私も三代子ちゃんにそう話したんだけどね。三代子ちゃんは話した後はスッキリするから月の1万円は安いくらいだって私に言ってたわ」


「そんなもんに通いたがる三代子も三代子だよ」


老婆はパイプの煙を燻らせながら永剛に止めときなと言った。


「私も誘われたよ」


「まさか(カエデ)も行くわけじゃないだろうね?」


「行かないわよ。そんなのにお金払ってる余裕なんてないもの」


「兄ちゃん、これが真っ当な人間だよ。興味があるのはわかるが、ここは大人しく諦めて帰んな」


「今日は帰るけど、でもやっぱり一度は参加してみたいなぁ」


「見かけに寄らず頑固だねぇ」


永剛は老婆の言葉に苦笑いを浮かべた。


永剛はそんな老婆にさようならといい、手を振った。歩き出し出そうとした時、何か大きな影が横を素通りした気がしたが、老婆が再び声をかけて来たので永剛は足を止めた。


「うちは男色の客は取らねぇのさ」


「男色?」


「まだ中学生じゃ男色の意味も分からないかねぇ」


「それくらい知ってるよ」


「ほう、意外や意外。兄ちゃんは意外と物知りなのかねぇ」


「そういう訳じゃないけど……本で読んで知ってるだけだよ」


「ほう。そうかい。なら男色ってもんが何が好きかも知ってるのかい?」


老婆に言われて永剛を自分の股間を握って見せた。


ケッケッケっと老婆が笑うと


「お兄ちゃんが男色を相手に出来るなら、ワシが幾らでも働き口をあてがってやっても構わないよ」


つまり男色を相手にすると言う事はビール瓶の代わりに男色のペニスを肛門に入れられると言う事だ。あまり乗り気はしなかった。だから永剛は首を横に振った。


「そうかい。なら仕方ないねぇ」


老婆がいうと側に立っている女の人が

頬を赤らめて


「私が飼ってあげちゃってもいいよ」


と言った。


「よしな!」


しゃがれ声で老婆が一括した。


「まだ懲りないのかい?」


「ごめんなさい」


「お前みたいなもんを拾ってやったのどこの誰だい?」


「ママ……」


「そうだよ。そうさ。お前はこの辺りで働く女どもの子を誑かせて散々悪戯かましたんだ。それを、忘れるでないよ。お前を憎んでいる奴らはこの辺りには沢山いるんだ。もしあたしがお前をクビにしたら、待ってましたと大勢の女どもが、連れ立ってお前をなぶりに来るだろうよ。それでもいいのかい?」


「ごめんなさい」


女は俯きながらそう言うが永剛から視線を外さなかった。永剛はその目を見て再び股間に触れてみた。女の目が爛々と輝いた。その輝きは多くの看板の明かりに反射して永剛の股間へと向かって飛んだ。


「あたしの恩を忘れるんじゃないよ」


「はい」


「いいかい楓、あんたは2度と他人様の子供にちょっかいを出さないとあたしに誓ったんだよ。それを破ると言うのは、この国の法律を破るより罪は重いんだ。その事を忘れるんじゃないよ」


「わかったわ。ママ。本当にごめんなさい」


永剛は老婆に謝る女を見つめ頷いて見せた。

永剛の思惑はその頷きで充分過ぎるほどだった。いつになるかわからないが自分はこの女に抱かれるだろうと思った。永剛自身もそれを望んでいた。当然、女の方も同じ気持ちに違いなかった。


永剛は2人のやり取りに口を挟み、帰るねと言った。


「この辺りをあんまりうろちょろするんじゃないよ」


そういうと老婆はパイプを椅子の足に叩きつけた。燃え残っている火種が地面に落ちる。

辛うじてまだ赤々と燻っていた。


永剛は路地裏を出て元来た道の商店街へ入った。


「1万円かぁ」


言葉が無意識に口に出る。何故、見守りの会が気になるのか自分でもよく分からなかった。


透けた服を羽織ったお姉さんも言ってたじゃないか。ただ話をし、話を聞くだけと。


たったそれだけの事に1万円は確かに高すぎる。永剛はそう言った老婆の意見に賛成だった。


それにその話を聞いただけなら、馬鹿らしいと一笑する筈なのに、永剛はその話を聞く前に店の女の人に会っていた。室内も覗き見た。パイプ椅子が置いてあるだけの殺風景な一室。


そこに集まり自分の話をし、他人の話を聞く。

たったそれだけだ。だけど、そこに通っている三代子という人は他の人を誘うほど見守りの会に心酔しているようだった。


その要因となっているもの、そして自分が何故、気になっているかという事を知るために永剛は貯金から1万円を出す事を決意した。


つまらなかった辞めればいいだけだ。そう思うといつしか早足になっていた。お金を持って又、戻って来ようと思ったのだ。


周りを見渡し今の時間を確認する。6時半前だった。走って帰っても15分はかかる。そして再び戻って来るには更に30分近くはかかるだろう。最初から参加出来ないのは癪だったけど、遅れても参加したいという気持ちを永剛は抑える事が出来なかった。そして走り出そうとしたその時、いきなり肩を掴まれた。その力は強く思わず身体が仰け反りそうになった程だった。


「いきなり済まないねぇ」


前へと踏み出した右足を引き身体のバランスを取った。肩にはまだ誰かの手が置かれている。

永剛は戻した反動を利用して顔だけを後ろへと振り返らせた。そこには髪を七三分けにした黒縁眼鏡をかけた男が立っていた。


糊の効いたワイシャツに緋色のネクタイをしている。肌に吸い付くほどのピリッとしたスーツを着込み、永剛と目が合うと口角を上げ笑みを作った。その作られた笑みをみて永剛はこの人は笑えない人だと直感的にそう思った。


男は永剛の肩から手を離すとその手を使い永剛の身体を反転させた。


いざ向き合ってみるとかなりの大男だった。元々背はさほど大きくない永剛からしてみれば、まさに大男だった。ゆうに170は越えている。


「悪いと思ったんだがねぇ」


大男は黒縁眼鏡の縁を指の腹でなぞりながら言った。


「つい聞こえてしまったんだ」


最初、この大男が何を言っているのか永剛にはわからなかった。


「いやね。さっき君は、あの老婆の店の前で1万円がどうとか話していただろう?」


あぁ、そういう事かと永剛は思った。

それで僕の後を追って話しかけて来たのか。僕に1万円を稼げる仕事でも紹介してくれるのだろうか。


「はい。見守りの会に入る為に必要なんです」


「なるほど。あの見守りの会に入りたいのか」


「おじさんも知っているんですね」


「あぁ。知っているよ」


「ひょっとして入っていますか?」


「いや、入ってはいない。ううん。違うな。嘘はいけない」


「嘘?」


「私は前に一度見守りの会に入っていたのさ。けれども、余りに退屈で辞めてしまった」


「退屈?どう退屈だったんですか?」


「聞きたいかい?」


「はい」


「ならこんな所で立ち話でなんだから、君さえ良ければ今から私の家に来ないかい?」


「良いですけど、ここから近いですか?」


「近いよ。けれどどうしてそんな事を尋ねるんだい?もし遠かったら何か不都合でもあるのかな?」


永剛が言葉を返そうとした時、大男が言葉を被せて来た。


「あ、私とした事が申し訳ない。君がまだ学生だという事を失念していたよ。ごめんごめん。そうだよね。もし私の家が遠ければ、塾に間に合わなかったり、帰りが遅くなれば君の親御さんも大層心配するものね」


「ええ」


塾も行ってなければ親もいない事は言わなかった。というより大男の話に合わせたらついそういう返事をしたまでだった。嘘をつくつもりはなかった。


「その点は大丈夫さ。直ぐ近くだから」


大男はそういうと永剛の横に立ち、抱き寄せるように肩を抱いた。


「余り遅くなるのも悪いから近道しながら向かうとしよう。それでも良いかい?」


「はい。良いですよ」


「なら見守りの会についての話をしながら行くとしようか」


大男はいい、商店街の途中にある路地裏へと永剛を導いて行った。


「おじさんの家は路地裏の方にあるんですか?」


「そうだよ。と言ってもあの小汚い店が並んでいた路地裏とはちょっと違った場所にあるんだ」


「その先って事ですか?」


「まぁ そんな所かな」


大男は永剛を身体に密着させながら細い路地を進んで行った。商店街の明かりも、路地裏の店の明かりも入り込まない暗い路地裏の中間辺りで、大男がいきなり足を止めた。


「どうしたんですか?」


「シッ」


大男はいい自分の口に指をあてた。そしてその指を口から外すと上空を指差した。

釣られて永剛も上空を見上げた。


「月の声が聞こえるかい?」


大男はいい永剛を抱いていた手をゆっくりと離した。


「月の声?」


永剛は上空の月を見上げながらそう言った。

この大男は一体、何を言っているんだ?詩人かぶれか何かなのか?ひょっとしたら、頭のネジが少しばかり弛んでいるのかも知れない。

そんな事を思いながら見上げていた顔を下ろした。


「僕には月の声なんて聞こえ……」


永剛が言うと大男の姿はそこにはなかった。

不思議に思った永剛は背後を振り返った。

建物に遮られながら月明かりが大男の胸を照らしている。顔をみようと視線を上げた。暗すぎて表情までは見えなかった。が、大男が両腕を高く振り上げその手に大きな石が握られているのが微かな明かりで見えた。


「君にも月の声を聞かせてあげるとしよう」


大男は言った。瞬間、顔面にその石が振り下ろされた。脳天に電流が走った。生暖かい液体が鼻と口から噴き出した。全身から力が抜け膝が折れた。


そのまま前のめりに永剛は倒れた。倒れるとすぐに尿意を覚えた。我慢出来ず漏らしてしまった。地面が波打って見える。地震だろうか。口の中の血が喉に入り永剛は咳き込んだ。


「月の声は聞こえたかい?」


大男の声が聞こえるが、まるでそれは走りながら別れを告げていく恋人のように、その声は耳の中だけで反響し、直ぐ遠くへと離れて聞こえなくなった。


大男は辺りを確認するとうつ伏せに倒れている永剛のズボンに手をかけた。下腹部へ腕を差し込みジーンズのボタンを外しジーンズ事、引き下げた。剥き出しになった永剛の尻に片手を置き、果物を握りつぶすみたいに尻を鷲掴みにした。そして自分のズボンのベルトを外し永剛の首に巻き付けた。


大男はチャックを開け屹立したペニスを永剛の尻の割れ目に擦りつけた。


そのまま割れ目をこじ開けると無理矢理肛門の中へとペニスを押し込んだ。そして永剛の首に巻き付けたベルトを交差させ締め上げる。引き上げ永剛を海老反りにしたまま大男は猛烈に腰を動かし始めた。


朦朧とした意識の中にあっても永剛はしっかりと痛みを感じていた。大男の絞める力が強くなっていく。血が喉に詰まり息が出来なかった。


殺される、と永剛は思った。だが死にたくなかった。

どうせ死ぬならウシガエルやトラックに押し潰されたお爺さんのように死にたかった。


だが、その死に方は出来そうになかった。望んだ死を迎えられない、それが、人間と言う生き物なのかも知れない。ならばせめて一矢報いたい。だが反撃しようにも力が入らなかった。


武器になるような物が近くにあるのかさえわからない。視界が濁っていた。血なのか涙なのかわからなかった。あぁ。何だ。自分はこんなにも弱かったのか。まるで釣り糸で縛られ爆竹で吹き飛ばされたウシガエルのようだと思った。


その時だった。薄れて行く意識の中で永剛は女の悲鳴を聞いた気がした。そのすぐ後に絞められていた首の力が弛むと同時に顔を地面に強かにぶつけた。


「人殺しっ!」


ゆっくりと閉じられる瞼の隙間から、母が履いていたような靴が直ぐ近くに見えた気がした。偶然、母が通りかかったのだろうか。ひょっとしたら母は偽名を使ってあの路地裏の店の何処かで働いているのかも知れない。


永剛はその声の主が自分の背中を摩っているのに気がついた。その主は永剛を引き起こし胸に抱くと永剛の頬をしきりに叩いた。遠ざかっていく大きな足音と、近づく複数の足音と声が入り混じる中、永剛はとても良い匂いがする、と思った。同時に意識を失った。


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