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 ⑧③

面会室に現れた明山未子は、喫茶店で目撃した着飾った姿の面影は何一つなかった。


年齢以上に老けて見え、その姿はホームレスの時よりみすぼらしい印象を泡沢に与えた。


朝イチの面会にも関わらず、明山未子は嫌がる素振りも見せずニヤけ顔を小川さんに向けていた。


「私を取り調べた刑事から聞いて来たのかい?」


「早乙女の事か?」


「あぁ。確かそのような名前だったかねぇ」


「それはない。俺は個人的に婆さんがまだ他に隠している事があると思っている」


「隠している事なんて何もないさ」


「いや、ある。それを聞く為にわざわざ来てやったんだ」


下から出ずいきなり上から目線での会話に泡沢は小川さんの意図が読み取れずにいた。


「ありゃせんよ」


「知りたいのは鰐男の事だ」


小川さんはいきなり本題に入った。


「面会時間は30分しかねぇんだ。知った知らないで時間稼ぎをさせるつもりはねぇ」


「つまんない男だねぇ。あんたみたいな奴は、前戯もしないでぶち込もうとする最低な男だよ」


明山未子は会話を楽しもうとしているようだった。のらりくらり言葉をかわし終了時間まで暇つぶしを決めるつもりか。


だが小川さんは最初から老婆の話に付き合うつもりは無いようだ。


その為の上から目線だろうか。


「あんたは早乙女との取り調べで、鰐男は一流の殺し屋だと言ったそうだな」


「それはいつの話だい?あたしゃぁねぇ。昨日の事もろくに憶えて無いくらい老いぼれなんだよ」


「その老いぼれ婆さんに尋ねるが、鰐男が殺し屋だと何故わかる?」


「ったく。あんたあれだろ?刑事仲間から冤罪製造機って言われてないかい?」


「無い。何故そんな事を聞くんだ?」


「自分の考えや感だけを押し付けてくるからさ。あんたに捕まった奴等は自分を曲げないあんたに押し切られ、やってもいない罪を認めたりしたんじゃないのかい?だから冤罪製造機って言ったのさ」


小川さんは黙って老婆を見返していた。


「その顔は思い当たる節があるんだろう」


明山未子はケケッと笑いそう言った。


「まぁ、いいさ。あんたみたいな糞刑事も最近じゃ見なくなったからな。レア者だと思って教えてやるよ」


「それで何故だ?何故、鰐男がプロの殺し屋だと思った?」


「動きに無駄がなかったからさ。捕らえて殺すまで数秒とかからなかった。だが恐ろしいのはその後さ。機械も使わず斧一つであぁも簡単に人の身体が解体出来るものかねぇ。あたしゃおったまげて腰抜かしそうになったよ」


「ほう。それで?」


「そこまで出来るのが鰐男だ。となれば、奴が人殺しの手練だって事はあんたでもわかるだろ?」


老婆は鰐男の第1の殺人だけじゃなく、その解体現場も目撃していたと言うのか。これは初耳だった。つまり小川さんのいう所の他に秘密を隠しているというのは当たったという事だ。だがどうして今になってこの老婆は隠していた事を話す気になったのか?

泡沢にはわからなかった。


「あの時、奴は解体している所を私が物陰に隠れて覗き見していた事に気づいていたかは知らん。だがな。鰐男は息をするのと同じように人を殺し、バラしている筈じゃよ。そうでなきゃいとも簡単に人間の身体なんてバラせるわけが無かろう?」


人体をその部位ごとにバラすのにどれだけの時間を要するかなんて泡沢には分かりかねた。

想像するしか無いが、普通に考えたら骨を切る為にノコギリが必要だとしても、少なくともこい一時間はかかるのではないか?それを老婆は鰐男は簡単にやってのけたと言った。

つまり鰐男は斧の一撃で人の骨まで切断出来ると言うのか。ならばとんでもない力の持ち主という事だ。


「確かに婆さんの言う通りだ。それが奴が殺し屋だと言う理由か?」


「それ以外に理由が必要かい?」


「まぁ。想像すれば、そうだろうとは思うわな」


「わかればええ」


「じゃあ。次だ」


「次だって?そんなものありゃあせん」


「ある」


「ないね」


「バラすのを目撃していた事も隠していたんだ。他にもある筈だ」


「例えばワシがどんな事を隠していると、あんたは考えているんだい?」


「鰐男が雇われている組や、組織の事を隠していると俺は踏んでいる」


小川さんがそう言うと老婆は高笑いをした。


「まぁ、それはあるかもな。あるかもな知れんとワシも思う。何故かって?1人であんな風に出来るようになるにはそれなりに訓練しないと無理だと思うからさ。なら訓練するとなると、1人で出来ると思うかい?訓練用の人間を攫うにしても、証拠も残さず1人でやる事なんて出来やしない。そうなれば自ずと組織化されたものがあるんじゃないか?と考えるじゃろ?」


「そうだな」


「ワシはあの現場を目の当たりにした後、そのように考えたまでさ。だからあんたが望むような答えをワシは持っておらん」


泡沢の目には老婆が嘘をついているとは思えなかった。小川さんもわざと老婆にかまをかけたのかも知れない。


「そうかい。なら面会はこれ以上やっても意味ないな」


「そうじゃな。だが面会も悪いもんじゃない。

だからそこの若いの。今度はあんた1人で面会に来な。そうしたらまだ隠している秘密を教えてやっても良いぞ」


「本当にそんなもんがあるなら、今の内に話しておけよ。そうすれば刑事裁判の時、あんたの証言が検察側との取引に使える場合だってあるからな」


明山未子は鼻を鳴らして、小川さんを睨んだ。


「あん時、ワシが足を滑らせさえなきゃ、あんたは今、ここにいねぇのにな」


「土壇場で足を滑らすような間抜けだから、婆さんは今、拘置所にいるんだよ」


小川さんが席を立った。


「もう良いぞ」


刑務官に声をかけ1人先に面会室から出ようとした。慌てて泡沢も立ち上がる。


ドアが開いて外に出ようとした時、老婆の視線を感じた。振り返ると老婆は泡沢に向かって声を出さずに唇を動かした。


「小川さん!明山未子が何か言いました!」


泡沢を押し退け再び中へと飛び込む。


「ババァ!今、何て言った!おい!ババァ!」


明山未子はとぼけた顔で小川を見てニヤリと笑った。その表情のまま刑務官に連れられ面会室から姿を消した。


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