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優先順位



三つの歪みが、三重の結界の内側で脈打つ。


一つのゲートの結界が裂け、犬型の魔獣が数匹溢れ出した。


「来るぞ!」


ディランが前に立つ。


ユリウスは一歩踏み出した。


「任せて」


掌に炎が灯る。


「――《フレアストライク》」


圧縮された炎が一直線に走る。

魔獣の群れを貫き、石畳を焦がした。


次に翼を持つ魔獣、蛇に似た魔獣が続けざまに十体ほど飛び出す。


上空に雷光が走る。


「《ボルトノヴァ》!」


轟音と共に放電が広がり、一気にすべての魔獣を焼き払う。


次々現れる敵を、二人が手を出すまでもなく葬る。漏れはない。


「……まじか」

ディランが思わず呟いた。


レイは腕を組み、わずかに口角を上げる。

(どうだ? すごいだろ?)


ユリウスは圧倒的だった。が――


結界が軋み、一つ裂けた。


そこから現れたのは、人型の魔獣だった。

上半身だけが結界の外にせり出している。


炭のように黒い皮膚に無数の亀裂。

その隙間で鈍い紫光が脈打つ。


顔には目も口もない。

横一線の発光が、こちらを測るように揺れていた。


右腕が刃へと変形する。

左腕が影を編む。


右手がレイを狙う。


「レイっ!」


レイは無詠唱で結界を展開。


しかし横にいたディランが呻いた。

影で防具ごと脇腹がえぐれていた。体勢を崩す。


「ディラン!」


瞬時に《回復結界》で囲う。


「悪い……」


一瞬の隙だった。


人型はケガを負ったディランを無視し、レイとユリウスへ両手で攻撃を仕掛ける。


咄嗟に結界で防ぐが同時に壊れる。


「《ライト・エッジ》!」


ユリウスが光の刃をとばす。


人型の右腕が少し抉れる。


だが、そのまま右腕でユリウスへ攻撃、

左手はレイへ陰をとばす。


二人は反射で防いだ。


見ると、人型の右腕が、ぐにゃりと再生していた。


肉が盛り上がり、裂け目が閉じる。


攻撃対象。


修復するタイミング。


防いだ角度。


(……選んでる。合理的に)


(……なんか、少し俺の治療と似てる気がする)


ミリアの背中が浮かんだ。


一人ひとりに膝をつき、声をかける姿。


その横で、自分は傷の深い順に淡々と治療する。


胸の奥が、わずかに重くなる。


――あなたは違う。


ノアの声がよぎる。


――優先順位をつけ、迅速に、確実に処置する。


(俺は、あいつみたいにはできない)


(全部は救えない)


――救える命は、一人でも多いほうがいいはずです。


(だから、選ぶ)


迷いはない。


(俺はこれでいい)


小型魔獣が人里へ走る。


レイは見た。


――だが、追わない。


「ユリウス! 雑魚はあとだ! 人型だけ見る!」


結界を狭める。


(あれを外に出したら、終わる)


復活したディランが盾で人型を固定する。


ユリウスとレイが光をたたきこむ。


しかし陰で防がれる。


(……? 今、ゲートが――)


考える暇はなかった。


迫りくる陰をよける。


(人型だけでも厄介だが、別の魔獣からの攻撃もある)


魔力の消耗が速い。


ユリウスの呼吸が荒い。


(このままじゃ削り負ける……)

(こういう時は広範囲だ)


レイが目を閉じる。


自分の魔力残量。敵の強さ。周囲にあふれる魔獣を測る。


(……多分、あれでいける)


目を開く。


盾で防ぎきれなかった刃がディランの足を裂いた。


血が石畳に散る。


同時に、ユリウスの雷が途切れる。


「っ……」


魔力切れ。


陰が二人の喉元へ迫る。


速い。


ディランは踏ん張れない。


ユリウスは動けない。


(間に合わない)


思考が止まりかけるが――止めない。


レイは二人の襟を掴み、無理やり引きずり下げた。


刃が髪をかすめる。


石畳が裂ける。


次の一撃で終わる。


雑魚も背後に迫り、囲まれている。


逃げ場はない。


レイは立ったまま、息を吐く。


そして静かに。


「――《ルクス・バスティオン》」


純白が立ち上がる。


音が消え、空気が焼ける。


人型の右腕が影を編もうとするが、編めない。


再生しようとした闇が、形を保てない。


亀裂の紫が、白に侵食される。


音はない。


人型は立ったまま、形を失った。


最後に横一線の光が、ふっと消える。


周囲の魔獣は消え去り、空気が澄みきる。


純白が消え、静寂が訪れる。


ゲートが歪む。


ひとつが音もなく縮む。


残りも、遅れて崩れた。


レイは眉をひそめる。


(……今の、俺のせいか?)


ただ、よく分からない違和感だけが残る。


(はぁ、こんな時にノアがいれば……)


レイの視線が下へ向かおうとした時、


遠く。


家屋の隙間に、黒が、流れ込んでいる。


(……なんだ、あれ?)


ユリウスが膝をつく。


「……はぁ……」


ディランの息が上がっている。


レイは、陰が流れ込む家屋を睨む。



*



家屋の中。


一人の青年が頬杖をつき、勇者パーティを眺めていた。

周囲の闇が、音もなく彼の足元へ吸い込まれていく。


青年は気にも留めない。


「……まったく、クラウスのやつ」

「執事って普通、主人の意図を汲むものでしょ?」


退屈そうに息を吐く。


「増やしすぎ……」


レイの視線が鋭くなる。


「……誰かいる」


青年が口元を歪める。


「へぇ。気づいた」


ゆっくりと立ち上がる。


こちらへ歩いてくる白い青年――ルシエル。


その姿を認めた瞬間、ユリウスとディランの顔色が変わる。


「おい……このタイミングでか」


ディランがユリウスを支える。


「聖剣、行っちゃったね」


ルシエルは楽しげに首を傾げた。


「……」


「無力って、嫌だよね」


ユリウスが睨む。


ルシエルは肩をすくめた。


「代用品ならあるでしょ」


「ほら……あの子の杖」


「……ノアの杖?」


「君なら扱えなくもないんじゃない?」


レイが一歩前に出る。


「……闇がお前に集まってる」


「……見間違いじゃない?」


視線を逸らす。


「なんでここにいる? ゲートはお前か?」


ディランが問う。


「どう思う?」


薄く笑い、影と共に消えた。


澄みきった空気の中に、


わずかな不穏だけが残った。



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