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第96話 勇者召喚の余波(その2)

いつもご覧いただきありがとうございます。


「魔王様、左大臣殿がお見えです。

 例の件で報告したき議がございます、とのことです。

 いかがいたしましょうか?」


 と、お茶を飲みながら寛いでいたら、部屋付きの側使えに声をかけられる。


 我の寛ぎの時間を邪魔するとは許せない所業ではあるが、例の件なら話は別なのじゃ。


 何しろ我も報告を楽しみにしておったからな。


「うむ。報告を聞こう。

 謁見の間に通すのじゃ。」


 承知しました、と一礼して部屋を辞去する側仕えを見ながら考える。


「はてさて、今回はどんな者たちが召喚されたのかの?

 我を楽しませてくれれば良いがの。」


 と独りごちる。


 さて、報告が楽しみじゃ!


◆◇


 謁見の間に入ると既に左大臣が頭を垂れて控えていた。


「苦しゅうない。面を上げよ。

 例の件の報告と聞いたが相違ないか?」


 左大臣は顔を上げて、


「は!、手下の忍びから途中経過の報告書が届きました。

 これをご確認ください。」


 と言うと、盆の上に乗った巻物を側仕えに渡す。


 我はそれを受け取ると、外側に巻かれた紐をほどいて中身を確認する。


 報告書の前段の召喚勇者のスキルに関する報告に一通り目を通すと、


「ふむ、今回の召喚勇者はなかなか良いスキルを持っておるではないか。

 この聖女(見習い)など期待できそうじゃな。

 例の国に取り込まれなければ良いがの。」


と感想を述べる。


 左大臣も「その通り」といった感じで頷いている。


「ところで、この「お手伝い」というスキルは初めて聞く名前じゃな。

 どのようなスキルなのじゃ?」


「は、鑑定で見る限りでは、他の者より少しだけ要領よく仕事を覚える事ができるとのことですが、不思議な点がいくつかありまして。」


「どこが不思議なのじゃ?」


「は、報告書の後半に書いてあるとおり、その者は元々弓術、剣術、格闘術に長けているばかりか、料理に服作りにと、いろんなスキルを習得した挙げ句に交渉術まで習得するなど、成長の度合いが他の者と段違いなのです。」


「それは不思議じゃな。」


「は、それに加えて複数の従魔を従えたり、生活魔法を使ったりもしているようです。

 しかも、どうやら魔道具らしきものまで作っている様子とのこと。

 それらのスキル、魔道具を活用して他の勇者と共に既に冒険者としても活躍しているようです。」


「なんと! それは本当か?

 元々器用だったとしてもちょっと多才すぎではないかや?。

 過去においてもそんなに色々とできる勇者はいなかったのじゃ。

 お主の部下はよく調査したのか?」


「はい、蝙蝠に化けてずっと張り付いて調査をしていたようですので。

 あと、メモ書きで最新の報告が添付してあったのですが、仲間の勇者と手を組んで新しい服や道具の展示会を実施中で、たいそうな賑わいのようです。

 しかも、その服や道具の宣伝を兼ねて格闘技大会なるものを計画中とのことであります。」


「展示会はまだ理解できるが、なぜ格闘技大会などを実施するのじゃ?」


「は、大勢の客が集まる大会の会場で彼らの服や道具の名前を紹介したり、試合の勝者に彼らが作る道具を商品として渡したりして宣伝するとのことです。

 既に冒険者たちの間では大きな話題になっているとか。」


「う~む、そんな宣伝手法は初めて聞くのじゃ。

 なかなか面白そうではないか。

 ふむ、左大臣よ、我もその展示会や格闘技大会とやらを見に行くぞ。

 案内するのじゃ。」


「え!魔王様が自ら見に行かれるのですか?」


「そうじゃ、最近はずっと退屈じゃったからな。暇つぶしにちょうどよい。」


「は、はぁ。では手下の者に現地を案内させましょう。

 展示会とやらに入り込むには商人のふりをしたほうがよさそうですな。

 商品の仕入れに来たと思わせれば周囲をごまかしやすいでしょう。」


「うむ。ではいつも通りかの王国の住人のふりをして出かけるとしよう。

 一応、素材の売り払いの行商として商会の登録もしておるからな。

 側仕えも2人ほど連れて行けば怪しまれることはあるまい。」


「は、では早速手配いたします。

 出発の準備ができたらお知らせします。」


「うむ、頼んだのじゃ。」


 と言うと、左大臣は準備のため謁見の間を出ていく。


「さて、我も仕度するとするか。

 展示会に格闘技大会、どちらも初めて見るのじゃ。楽しみじゃな。

 ついでに「お手伝いの勇者」とやらも見物してやろうではないか。」


 と、魔王は蛇のような舌をチロリと出しながらニヤリと笑う。



 もちろん、タクとその仲間達は、魔王が自分達を見にやって来るなんて知る由もない・・。


◇◆


 街に到着した僕達は早速店を探すことにした。

 

 とは言うものの、僕達召喚勇者チームがいい店を知っている訳もなく、


「チャロンはどこか良い店を知ってるかい?」


 と、チャロンのお世話係の知識に頼ることにする。

 ここは無理したところでどうにかなる話じゃないしね(汗)



「そうですね、冒険者ギルドの近くにちょうどいい食堂がありますよ。

 メニューも豊富でボリュームもあって冒険者には人気の店ですよ。」


「おお、いいね! じゃあそこに行ってみよう!」


 と僕達はチャロンに勧められた食堂にやってきた。


 「まんぷく亭」という、ありがちな名前を掲げたその店は冒険者や労働者達で混みあっている。


 チャロンの言うとおり人気はあるようだ。


 料理はブツ切り肉の串焼きなどのワイルドなメニューが主流のようであり、給仕のお姉さんが奥の厨房からどんどん焼けた肉を運んで来る。


 これは女子チームが好きそうだな、と思って横を見ると、女子高生達はヨダレをたらさんくらいの勢いで肉をガン見していた。


 皆揃ってもう我慢出来ない!、といった感じである。


 僕達は少し待って席に通されたが、女子高生達はメニューを見るやいなや、肉料理を中心にバンバンとオーダーしていく。


 幸い、串焼き料理は次から次へとどんどん運ばれて来たので、お預け状態から解放された女子高生達はご機嫌である。


 みるみるうちに串焼きの肉が女子高生達のお腹の中に飲み込まれていくぞ(汗)


 ある程度お腹が落ち着いたところでチャロンから全員宛に念話が入る。


『タクさん、そう言えば、新たに立ち上げる商会の名前はどうするのですか?』


 どうやら周囲の人達に聞かれないように念話で話しかけてくれたらしい。


『そっか、商会名が必要だよね。

 ヤトノや僕達に繋がる情報を与えないような目立たない名前がいいね。』


 と言うと、皆がそれぞれ


『シロヘビ商会』『コヨーテ屋』『総合商社 血濡れの弩弓』『テイマーカンパニー』『隠密組合』


 等々、自分の好きな?名前を次々にあげていく(汗)


 しかも「血濡れの弩弓」って、そんな恐ろしげな名前の商会とは絶対に取引したくないぞ!


『いや、みんな、そんな名前だと商会長やその仲間の情報がダダ漏れだからね(汗)

 特徴の無い目立たない名前を考えてくれるかな?』


 とお願いする。


 その後も皆でケンケンガクガクと話し合った結果、商会の名前は黒と白の中間の灰色という意味で「グレイ商会」で落ち着いた。


 これなら僕達の特徴に合致しないから、商会名で僕達の存在を推察される可能性は低いだろう、きっと。


 お腹もいっぱいになって、商会の名前も決まったので店を出ることにした。


 ただ、皆がひたすら食べていたのと、会話はすべて念話だったので料理の注文時以外は声を発しなかったため、気がつけば周囲から怪訝な目で見られてしまっていた(汗)。

 

 どうやら揃いの服を着た変な集団だと思われていたらしい。

 念話の使用も程々にしないとね(汗)


 会計のためカウンターに行ったら、なんと支払額が30,000エソだった!

 大人6人+従魔のランチにしては高すぎないかい?

 いったい女子たちはどれだけ食べたのであろうか??


◆◇


 財布が急激に軽くなってしまったのにはショックを受けたが、また稼げばいいや、と気を取り直して商業ギルドに向かう。


 場所は冒険者ギルドの近くなので確認済みである。


 入口の扉を開けて中に入ると、受付カウンターに5人ほどスタッフが座っている。


 ふむ、元の世界の銀行のようなイメージだね。


 受付待ちの列に少し並んでいたら順番が回って来たので、空いた受付スタッフの前に進む。


「いらっしゃいませ。商業ギルドへようこそ。初めてのご利用ですか?」


 と若い女性の受付スタッフがあいさつしてくる。


 おお、冒険者ギルドの愛想のないお姉さんとは違うぞ!


「こんにちは。商会の新規登録をお願いしたいのですが?」


「承知しました。こちらの用紙に商会名、代表者等の記載をお願いします。」


 と申請用紙を渡される。


 僕は必要事項を埋めていくと、出資者等の欄になったので、


「こちらの女の子を代表にして出資者を私にしても大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫ですよ。

 ちなみに商会の規模はどうされますか?

 規模によって入会金が変わってきます。」


「とりあえず最も小規模なものでお願いします。」


「では店舗を有しない行商レベルですね。入会金は10,000エソになります。」


「わかりました。」


 と申請書と入会金を支払いつつ、受付スタッフに質問する。


「ところで出資者の名前を第3者が調べる事はできますか?」


「いえ、できませんよ。

 それは各商会の秘密ですからね。

 悪意を持った第3者に情報が漏れると、強請、集りなどのトラブルに繋がる恐れがありますからね。」


「なるほど。それもそうですね。」


「それどころか、ギルドとしては商会長の名前も答えませんよ。

 本人確認はギルドカードに登録した本人の魔力との称号で実施しますので、カードさえ示していただければ手続きとしては十分です。」


「名前を告げないと商売をするうえで不便ではないのですか?」


「それは商会によってそれぞれですね。

 商いを広げるために積極的に名を売る商会長もいれば、決まった顧客としか取引しない商会長もいらっしゃいますので。

 まあ、全く何も名乗らないのも商人としては不自然ですので、皆さん少なくとも商会名は名乗られてますね。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「いえいえ、それではギルドカードに商会長の魔力を登録するので、カードの上に手をかざして魔力を流してください。」


 と言うと、受付スタッフはカウンター上に新しいギルドカードを置く。


 見た感じは真鍮の板でできているようだ。


 ヤトノがカードに手をかざして魔力を流すと、カードが一瞬だけキラリと光る。


「これで登録が完了です。

 手続きおつかれさまでした。

 このカードは商業ギルドの会員証と預金口座の証明書を兼ねているので失くさないように気をつけてくださいね。」


 と言いながら、受付スタッフはできたばかりのカードをヤトノに渡す。


「ありがとうございます。何か注意事項はありますか?」


「そうですね。1年毎に年会費を10,000エソお支払いいただきますので、お忘れのないようにお願いします。

 忘れるとギルドの各種支援サービスが受けられなくなります。」


「支援サービスって、契約書の作成支援とかですか?」


「ですね。あとはギルドの口座から預金を引き落としたり、他の口座に送金したりできなくなります。

 基本的にギルドの会員としてのサービスが全て停止されると思って頂ければ結構です。」


「わかりました。気をつけますね。

 手続きありがとうございました。」


 とお礼を述べるとカウンターから離れて商業ギルドを後にする。


◆◇


「ふう、手続きは疲れるね(汗)」


 とチャロンとヤトノに話しかける。


「ですね(汗)

 でもご主人様の名前や私の名前を隠しておけるのは便利ですね。

 こっそりと商売できますから。」


「そうだね。

 それにしてもこの世界は個人情報の管理がよくなされているよね。

 これも勇者タケルのおかげなのかな?」


「そうですね。言い伝えではタケル様が無用なトラブルを回避するためにそのように指導されたと聞いてます。」


 とチャロンが答える。


「なるほどね。まあ僕達にとっては有り難い話だよね。

 おかげでヤトノと僕の名前を言わなくても商売ができるってことだからね。

 まあ、取引先はケン君の商会だけだけど。

 それはそうとせっかくだから冒険者ギルドに寄って情報収集していかないかい?

 例の格闘技大会の件も気になるしね。」


「そうですね 」「わかりました。」等々の女子チームの了解の言葉を得ると、僕達は冒険者ギルドに向かう。


と言ってもすぐ近くだけどね。



 冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると、いつもと少しだけ雰囲気が違う。


 いつもならあまり人がいない場所に何かの掲示が大きく貼られていて、冒険者たちがそれを食い入るように見ている。


 おお、これはもしかして例の件だろうか?


 冒険者たちの頭と頭の間から掲示を覗き込むと、そこには、


『格闘技大会【ASYURA】開催のお知らせ。』


 と大きな文字で見出しの書かれた掲示が貼られてあった(汗)


 ASYURAってもしかして『阿修羅』のことかな?


 また亜季ちゃんが好きそうなネーミングだな(汗)

 こっちの人達が知っているかどうかはわからないけど。


 掲示内容はざっと言うと、

○ 試合のルール

  3分間1本勝負。

  素手による総合格闘(打撃、投げ技、寝技有り)

  KOもしくは相手の降参により勝敗を決定。

  決着がつかない場合は審判による判定により勝敗を決定。

○ 試合数 10組(うち女性の部は3組)

○ 参加資格 冒険者(Dランク以下)

○ 応募方法 ギルド内の特設カウンターにて参加申込み手続きを実施すること。

○ 賞金等

 勝者には賞金300,000エソ及び『8番格納庫ハンガーエイト』ブランドの最新の魔道具セットを贈呈

○ その他

 参加者の選考及び試合の組み合わせは大会運営サイドが決定する。


 という感じである。


 賞金が300,000エソって結構な金額じゃないか?


 ごく一般的な冒険者の1ヶ月分の収入より多いかもしれないぞ。

 それをたったの3分間で稼げるかも、となると冒険者達が色めき立つのも理解できる。

 1ヶ月遊んで暮らせるからね。


 冒険者たちがガヤガヤと話すのを聞いていると、『8番格納庫ハンガーエイトってなんだ?』『どんな魔道具セットをもらえるんだ?』

 等々、初めて聞くブランド名や魔導具に興味深々のようだ。


 格闘技大会をブランドの広告に利用するケン君の目論見はどうやら当たりのようだね。

 あとは如何に大会を盛り上げるか、という点がポイントだね。


 少し様子を伺っていると、何人かの冒険者たちが特設カウンター?らしき場所に移動して何やら書いている。


 なるほど、何かの書類に必要事項を書けばいいのか。


 まあ、ケン君に試合に出ろと言われているから申込みしなくても出場することになるだろうから関係ないけど、せっかくだから申し込みをして行こうかな。

 チャロンも出場したい!って言ってたしね。


「ねえ、チャロン。せっかくだからついでに大会への参加申込みをしていくかい?」


「ですね!大会のお知らせをみたら俄然やる気が湧いてきましたよ!」


 とノリノリである。


 僕達は特設カウンター?という名の長机の前に移動すると、空いている受付の前に進んで、


「すみません。僕達も格闘技大会に参加したいのですが。」


 と申し出る。


 受付に座っていたのは何といつもの買い取りカウンターのお姉さんだった。


 日中は買い取りカウンターは暇なのでこちらに回されてきたのかな?


「あ、タクさん達じゃありませんか。こんにちは。

 皆さんも参加希望なのですか?」


「ええ、私とこちらのチャロンが参加したいのですが。」


「では、こちらに名前とランク、もしパーティー名があればそれを書いたあとに、注意事項をよく読んでからサインしてくださいね。」


 と申し込み用紙を渡される。


 そこには、「大会のルールを遵守します。」「怪我をしても自己責任で治療します。」「八百長等の公正性を損なう行為には加担しません。」等のいくつかの約束事が記載されていた。

 まあ、僕達の元の世界の人間には当たり前のことだけど、こちらの世界ではどんな反応があるかわからないので念のために文章に記載したのであろう。

 このあたりもレン君のアイデアなのかな?


 必要事項を記載して申し込み用紙を受付のお姉さんに手渡しながら、


「大会の参加希望者は多いのですか?」


 と聞いてみる。


「そうですね。今日から募集を始めたので参加申し込みはまだそんなにないですけど、賞金の額と賞品の魔導具はかなり話題になっていますよ。

 特に魔導具はかなり便利らしいとの噂ですね。

 何でも相当高価なものだとか、冒険者には必須のアイテムだとか、いろんな噂が飛び交ってますよ。」


 うん、きっとこの噂もケン君が冒険者ギルドと結託して意図的に流布しているにちがいない。

 流石は交渉人、抜かりはないね!


「なるほど、それは興味深いですね。僕達も欲しくなっちゃいますよ。」


 と、一応何も知らない体で答えておく。

 まさか僕達が魔導具を作ってます、とは言えないからね。


「ふふふ、じゃあ私が応援してあげますから頑張ってくださいね!」


 とお姉さんが満面の笑顔で励ましてくれる。


 うん、なんて優しいお姉さんなんだろう!

 そんないい笑顔で励まされたら、やる気と元気が溢れてくるじゃないか!

 従魔登録のカウンターにいる冷たいお姉さんとは大違いだぞ(汗)


 おっと、亜季ちゃんは何故そんな能面のような表情をしているんだい?


「対戦相手はいつ決定されるのですか?」


「そうですね。明日の大会前日のお昼ごろと聞いていますよ。

 ギルド主導で勝敗予想、まあいわゆる賭けを開催する予定なので、組み合わせは前日には発表するようです。

 ちなみに大会は当日の夕方6時から開始の予定です。」


「夕方6時から開始なんですね。」


「ええ、仕事が終わった冒険者の皆さんがすぐに観れるような時間帯がいいですからね。

 仕事帰りの冒険者の食事の時間に合わせたほうが、お酒やおつまみの売上が増えるでしょうしね。

 きっと相当な売上になると思いますよ。

 またタクさん達に肉を大量に納品して欲しい気分ですね!」


「ははは、そうしたいのはやまやまだけど、僕とチャロンも大会に向けて訓練もしないといけないから、大会当日まで狩りはお休みかな。」


「まあ、そうですよね。大会が終わったらまた願いしますね。

 タクさん達が狩ってくる獲物は評判がいいのですよ。毛皮や肉のダメージが少ないので、食用としても素材としてもとても価値が高いのです。」


「そうなんですね。じゃあ大会が終わったらまた納品に伺いますよ。」


「ええ、是非ともお願いしますね。買い取りカウンターで待ってますね!」


 と、大会への申し込みと受付のお姉さんとの楽しい会話を終えようとしたところで、聞き慣れたけど聞きたくない声が後方から響いてくる。


「おいおい!ここはヒヨッコ冒険者がウロウロするような場所じゃねえぞ!

 冷やかしならとっとと帰りやがれ!

 このズンダ様の申し込み手続きの邪魔をするんじゃねえ!」


 声のする方に振り向けば、またあの自称一流Dランク冒険者達が立っていた。


 はあ、またあなた達ですか?

 僕達は別に会いたくないんですけどね(汗)


◇◆


面倒な奴らが現れたので僕は皆に念話で、


『とりあえず無視しておこう。

 相手にするのも面倒だからね。』


 と話しかける。


 皆も頷いているので異存は無いようだ。


「ではお姉さん、今日はこれで失礼しますね。大会の組み合わせの発表を楽しみにしていますよ。」


「ええ、タクさんと皆さん、またお会いしましょう。」


 とお姉さんと何事も無かったように会話を交わすと、その場を立ち去るがごとく行動を開始する。


 これで面倒な奴らを撒けるかな?と少しは期待したのだが、自称1流冒険者達はやっぱり絡んでくる。


「やい!待ちやがれ!俺達を無視するんじゃねえ!」


 と言いながら僕達の進路の前に割り込んでくる。


 僕は心底ウンザリした表情を浮かべながら、


「なんだまた君達か。相変わらず騒がしいな。

 僕達は用事が終わって帰るところだから邪魔するのは止めてもらえるかな?

 例え1流冒険者でも他の冒険者の行動を邪魔する権利はないだろう?」


 と目も合わさずに冷淡に答える。


「何を生意気な!ここは格闘技大会の申込み場所だ。

 オメー等みたいなヒヨッコが出入りする場所じゃねえ!」


「君達は格闘技大会の案内をたちゃんと読まなかったのか?

 参加資格はDランク以下と書いてあっただろう。

 Dランク以下なら我々がここで参加申込みしても問題はあるまい。

 1流冒険者なのにそんなこともわからないのかね?」


 とよく分かるように説明して差し上げる。

 ちょっと語尾に棘があるのは気の所為だよ、きっと。


「ぐぬぬ〜! 相変わらず生意気な!

 いくらDランク以下と言っても2、3日前に冒険者登録したヒヨッコGランクが参加できるわけないだろう!」


「参加の可否を決めるのは君達ではなく大会を運営するギルドだ。

 そしてたったいま我々の参加申し込みは受理された。

 何も問題はあるまい?

 さあ早くどいてくれ給え。僕達は暇じゃないんだ。

 これ以上邪魔するならロスした時間について損害賠償請求させてもらうぞ。」


「ぐぬぬ〜! やい!そこの受付嬢!

 ギルドはこんなGランクのヒヨッコの参加を認めるのか!」


 と今度は受付のお姉さんに絡み始めたぞ(汗)


「ええ、認めますよ。

 タクさんは参加資格を満たしていますので何ら問題はありません。

 それにタクさんはGランクではなく既にEランクですからね。」


「な、何だと!いつの間にEランクに上がってやがるんだ!

 ギルドはちゃんと査定しやがったのか?」


 と今度はギルドのランク査定にまでイチャモンをつけ始めたぞ(汗)


 ここはちょっと補足説明して黙らせておくかな。


「いつの間にと言われれば、君たちが青色ゴブリンの電撃を食らって髪型をオシャレに変えて遊んでいる間に僕達はEランクにランクアップしていたのさ。

 どこかの1流パーティと違ってちゃんと依頼を達成してランクアップに必要な実績を積み上げていたのさ。」


 と丁寧に経緯を説明してあげる。

 決してバカにしているわけではないぞ!


「な、何を〜! バカにしやがってただじゃおかねーぞ!」


「いや、バカになんてしてないさ。

 事実を言ったまでだ。

 君達が青ゴブリンにやられたのも事実、僕達がEランクに上がったのも事実。

 それ以上でも以下でもない。

 さあ、もう本当に邪魔するのは止めてくれるかな?

 僕達も暇じゃないんでね。」


 と言ってその場を離れようとすると、


「ま、待ちやがれ!

 俺達をコケにしておいてただじゃ済まさね〜!」


 と、リーダーのズンダとか言う奴が僕に掴み掛かろうと迫ってくる。


 あ、これはアレですね。

 正当防衛で撃退していいやつですよね?


 僕は掴みかかってくるズンダの腕を取ってねじ伏せるイメージで奴に向かいあったその時、


「てめーら! 何を騒いでやがるんだ!

 俺のギルドでトラブルを起こす奴は出入り禁止にするぞ!」


 と、野太い声がギルド内に響く。


 その瞬間、ピクリと動きを止めたズンダが、


「チッ! ギルド長かよ。」


 と舌打ちしながら小声で呟く。


「おい!オーガの鉄拳のズンダ! またおまえ等か?

 ギルド内でトラブルを起こすなと何度言ったらわかるんだ!」


 と言いながら、筋肉ガチムチの強面スキンヘッドのおじさんがこちらに近づいて来る。


 マッチョおじさんは青筋の立った上腕二頭筋をピクピクさせながら、


「これ以上他の冒険者とギルドの職員に迷惑をかけるようなら出入り禁止にするぞ!」


 とコワモテ顔でズンダに睨みを効かせる。


「このヒヨッコがEランクになったとかホラを吹きやがるから確認してただけだ。

 ランクの詐称はルール違反だろうが?」


 とズンダはマッチョおじさんに食ってかかる。


「そこのお前、名前は?」


 とマッチョおじさんは僕に短くドスの効いた声で尋ねてくる。


 おお! なかなか威圧感があるぞ!

 なんかこう、本物の1流って感じだ!


「はい、冒険者のタクです。」


 と僕は端的に答える。


 こういうタイプの人には余計な事を言わないのが得策なのを、僕は元の世界のバイトでの経験上よく知っているのだ!


「お前がタクか。最近売出し中の冒険者だな。

 お前と仲間達の話は聞いている。

 あと、俺はここのギルド長のクレイグだ。よろしくな。」


 とマッチョおじさん改めギルド長はニヤリと笑って答える。


 だがすぐに厳しい目つきでズンダの方を向くと、


「こいつは間違いなくEランクだ。

 ちゃんと俺が審査書類にサインして昇格させたからな。

 こいつのランクに文句があると言うことは、俺に文句があると受け止めるがそれでいいのか?」


 と睨みを効かせながらズンダに問い質す。


 しかしズンダは、


「ぐぬぬ、こんなヒヨッコがEランクなんて納得いかねえ!」


 とわめき散らす。


 ギルド長が認めてるのに納得しないなんて、どういうつもりなのだろうか?

 まさか俺様がルールだ!とかって思ってない?


「お前が納得する、しないじゃない。ギルドのルールに適合するかしないかだ。

 このタクと仲間達はEランク昇格の条件を満たした。ただそれだけだ。

 それに、このままいけば近いうちにDランクに上がるだろう。

 お前達もタク達に追いつかれたくなければ、そんなところで喚いてないで依頼の1つでも受けて精進しろ。

 そんなんじゃまた青ゴブリンにやられちまうぞ。」


 とギルド長がトドメを刺す。

 この人もなかなか容赦ないね(汗)


「納得いかねえ!この俺様がこんなヒヨッコと同程度だと言うのか!」


「同程度じゃないな。もしかしたらそれ以下だな。」


 とギルド長が更に煽りつつトドメの二の矢を放つ(汗)


「なに〜! もう我慢ならねぇ!今からこいつと勝負させろ!」


 とズンダが喚き散らす。


「ギルド内での私闘は禁止だ。Dランクにもなってそんなことも知らんのか?

 どこかの田舎のギルドではDランクにしてもらえたかもしれないが、ここでは基本的な知識と礼儀がなってないやつは昇格させないぞ。

 いまのランクを剥奪してGランクの駆け出しからやり直しをさせてやってもいいんだぞ。」


「ぐ、ぐぬぬ〜!」


 とズンダは怒りマックスである(汗)


「私闘は認められんが、ルールのある場での対戦なら認めてやってもいいぞ。

 ちょうどお前の眼の前に格闘技大会の申し込み書があるだろう。

 それにサインをしたら、大会で冒険者タクと対戦させてやってもいいぞ(ニヤリ)」


 とギルド長が悪い顔をしてズンダに話しかける。

 

 あ、これは絶対なにか企んでますね??


 するとズンダは、


「な、何だと!

 それは願ったりかなったりじゃねえか(ニヤリ)

 いいだろう、その話に乗ってやるぜ!

 ヒヨッコをぶちのめして賞金と賞品をいただけるとは、そんないい話に乗らない手はないぜ!」


 と急に機嫌を直してテンションあげてくる。

 

 うん、単純だな(汗)。

 まさに脳筋だ(汗)

 格闘戦士のゴウ君も気をつけないとこんな風になってしまうぞ(汗)


「いいだろう。その代わりに1つ条件がある。

 もし冒険者タクに負けたら二度とこの王都のギルドで問題を起こすな。

 それでも問題を起こすようならFランクに2段階降格したうえで王都のギルドには金輪際出入り禁止だ。

 その条件を飲むならタクとの対戦を決定してやる。」


「ふん! この俺様がそんなヒヨッコに負けるはずね〜だろ!

 いいだろう!その条件を飲んでやるぜ!」


 とズンダとその取り巻きというかパーティーメンバーが息巻く!


「わかった。

 では貴様の申し込み書に先程の条件を追記するからちょっと待て。」


 と言うと、ギルド長は申し込み用紙に先程の条件をツラツラと追記すると、それをズンダに手渡す。


 てゆうか、ギルド長、あなた追記する内容を最初から準備してましたよね?!


「これをよく読んでサインしろ。」


「ふん、読まなくてもサインしてやらあ。

 こんなヒヨッコ1人ぶちのめすのに条件もヘチマも関係ねえ!」


 と、ズンダは申し込み書をチラッと斜め読みすると、署名欄に乱暴にサインをしてギルド長に手渡す。


「これでいいのか?!」


「うむ。いいだろう。大会当日は夕方6時から試合開始だ。

 遅れずにやって来るがよい。」


 とギルド長はニヤリと笑って答える。


「ふん!言われなくても来てやらあ!

 ヒヨッコをぶちのめして賞金と賞品をいただくだけの簡単な仕事だ!

 今からうまい酒が飲めるのを楽しみにしてるぜ!

 やい!ヒヨッコ!テメーも逃げ出さずにちゃんと来るんだぞ!」


 と何故か僕にまで絡んでくる。


「ああ、僕のことは心配しなくていいから、自分のことだけ心配したまえ。

 またゴブリンにやられて怪我とかしないでくれよ。

 怪我のせいで負けたなんて言い訳されても困るからな。」


 と、ちょっと煽り返しておく。


「て、てめ〜!調子にのりやがって!

 大会当日はぶちのめしてやるからな!

 覚えてろよ!」


 と捨て台詞を吐くと、仲間と共にギルドの外へと消えていった。

 

 うん、清々しいまでに三流ザコキャラの台詞だね。


 さて、面倒な奴らも消えた事だし、ここはちゃんと確認しておくかな?


「で、ギルド長のクレイグさんでよろしかったですか?」


「そうだ。何か用か?」


「用も何もどういうことですか? 

 明らかにズンダの奴を僕と対戦させるように仕向けましたよね?」


 と、気になったことを質問しておく。


「ふん、噂どおり勘のいい奴だな。

 今回の大会を企画した松戸屋の若旦那から、お前を強い奴とメインイベントで対戦させてくれと頼まれていたのさ。

 あのズンダの奴は態度は悪いが腕っぷしは強そうだし、お前とも何故か因縁がありそうだから丁度よかっただろう?」


 とギルド長はニヤリと笑いながら答える。

 

 うん、予想通りの回答ですね!


「まあ、いつかはぶちのめしてやろうと思っていたから丁度よかったですけどね。

 でも何かいいように使われたみたいで釈然とはしませんが。」


「ふん、まあ勝つ算段はあるんだろう? なら問題なかろう。

 まあ、奴に勝ったらDランク昇格へのポイントを付与してやるからそれで良しとしておけ。」


 「まあ、そうですね。大会を盛り上げるつもりで頑張りますのでポイントをサービスしてくださいよ。」


「ふん、思っていたよりチャッカリしてるんだな。

 まあ、そういうところは冒険者らしくてよいことだ。

 ポイントはサービスしてやるからせいぜい大会を盛り上げてギルドの酒場を儲けさせてくれよ。」


 と言うと、ギルド長はスタスタとギルドの奥へと戻っていく。


「タクさん、すごいですね・・。あのギルド長を見ても平然としているなんて。

 だいたいの冒険者はギルド長を見たら大人しくなるもんですよ。

 あのオーガの鉄拳だってギルド長には逆らえないのに。憎まれ口を叩くくらいが精一杯なんですよ。

 なんと言ってもギルド長は元A級冒険者、斬殺のクレイグの二つ名を持つ伝説の冒険者でしたからね。」


 と受付のお姉さんが話しかけてくる。


「そうなんだね。まあ確かにズンダの奴とはちがって本物の感じがしたかな。

 まあそれに悪い人ではないのは分かったから特に萎縮はしなかったよ。」


 と答えておく。


「さすがタクさん、王都のギルドで最速でEランクに昇格しただけはありますね。

 でもオーガの鉄拳のズンダさんも強そうですが、あんな簡単に対戦を引き受けて大丈夫なのですか?」


「うーん、まあ、大丈夫だと思うよ。

 試合時間は3分だから、怪我しないように頑張るよ。」


「わかりました。ご武運をお祈りしておきますね。

 もう手続きは特にありませんので、大会当日は遅れないように来てくださいね。」


「はい、手続きありがとうございました。

 ではまた大会当日はよろしくお願いします。」


 と受付のお姉さんにお礼を言うと、他の冒険者達の視線をチラチラと浴びつつギルドの外に出る。


 はあ、何か疲れたね(汗)

 


◆◇


 皆でギルドの外に出ると、「ふう。」と深呼吸をして一息つく。


「はあ、面倒な奴がいて疲れたね(汗)

 今日はもうお城に帰って一休みしようか?」


 と皆に話かける。


「そうですね。お城に帰ってお茶でも飲みましょう!

 とっておきの茶葉で美味しいお茶を淹れますよ!」


 とチャロンが答える。


「あのズンダとかいう脳筋バカはタク先輩がぶちのめすでしょうから問題ないとして、今日の問題はギルドの受付嬢がタク先輩に色目を使っていたことですね。

 あの女はタク先輩を狙っています。要注意ですよ。」


 と亜季ちゃんが横から会話に入り込んでくる。

 しかも表情が能面のようでこわいぞ(汗)


「ははは、それは気の所為じゃないか?

 ギルドの受付のお姉さんにしてみたら、冒険者に愛想よくするのも仕事の一つだからね。

 社交辞令ってやつじゃないのかな?」


 とやんわりと返しておく(汗)


「そんなことはないですよ!あの受付嬢はタク先輩が収納魔法を使うことを知ってますからね。

 有望な冒険者だと知って粉をかけてきているにちがいありません!」


「ははは、僕なんてそんなにモテるキャラじゃないから大丈夫さ。」


「そういう曖昧な態度が、あのようなお金目当ての女を引き寄せるんですよ!

 ダメなものはダメと言ってください!」


「ははは、わかったよ。気をつけるね!」


「全然わかってません!」


「はは、・・・。」


「・・・・・!」



 などと、僕と女子チームは賑やかに?話しながらお城に向かって歩いて戻る。


 さあ、帰って休憩したら少し訓練もしておかないと。


 無いとは思うけど、ズンダ相手に手こずったらちょっと格好悪いからね(汗)


最後までご覧頂きありがとうございました。

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