第40話 出て来る杭は叩き込む(2本目)
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「さあ、タクさんとアキさん。
なんかいろいろありましたけど、次の訓練でもして気分を切り替えましょう。」
と、チャロンが明るくムードを盛り上げてくれる。
チャロンのこういうところがいい娘だな〜と感じさせるよね。
本当にお世話係がチャロンでよかったよ。
「そうだね。
ここ数日デスクワークが多くて弓の訓練以外は体を動かしてないから、ちょっと運動したいよね。
剣術の訓練でもどうかな?」
「いいですね!
この間は騎士団に剣術の訓練を邪魔されちゃったから、仕切り直して訓練しましょう。
アキさんも一緒にどうですか?」
「そうね。私も短剣はもらったけど、使う訓練は全くしていないので、少しくらいは習いたいわね。
一緒に混ぜてもらってもいいかしら。」
「もちろんですよ。
じゃあ、一緒に訓練場にいきましょう!」
と、何日かぶりに騎士団の訓練場に向かった。
そう言えば騎士ボーイは元気に訓練しているのだろうか?
◇◆
数日ぶりにやってきた騎士団の訓練場は以前とあまり変わりなく・・、というか、今日は剣の訓練をしている騎士はいないな。
どうやら格闘訓練の日のようだ。
まあ、そんな日もあるよね。
チャロンが片手剣と短剣の木剣を借りてきてくれたので、チャロンに先生になってもらって、基本の型の素振りから練習する。
それが終わったら型通りの打ち合いを攻撃側と防御側を交代しながら練習し、最後に6~7割程度の出力で乱取りをして・・と、みっちり1時間ほど練習した。
亜季ちゃんは剣術は元の世界も含めて初めての体験らしいけど、弓道をやってるだけあって間合いを測る距離感がいいし、姿勢もいいから様になっている。
着てる服とも相まって凛とした剣術少女の様相だ。
それにしても久しぶりに体を動かしたら気持ちいいね!
旅に出るなら体も鍛えておかないとね。
ここ数日はデスクワークに傾注しすぎたかな?
「そう言えば、チャロンは格闘もできるんだっけ?」
「はい。獣人族は基本的に戦闘民族ですから、子供の頃から格闘も鍛えられるのですよ。
子供の頃の遊びがそもそも格闘ごっこですからね。」
「そうなんだ。
こっちの世界の基本的な格闘スタイルを教えてもらっていいかい?」
「はい。ではゆっくりやってみましょう。」
と言って、チャロンは僕を相手にゆっくりと攻撃役をしてくれる。
日本の空手とかのような決まった型があるわけではないようだが、概ねキックボクシングと投げ技、間接技が合わさったような感じだった。
うん、まあ要するに元の世界の総合格闘技と理解しておこう。
しばらく3人で攻撃役と防御役を交代しながら基本動作の訓練をしたり、僕が町の道場で習っていた柔道や合気道の技を教えたりして過ごした。
合気道の相手の力を利用して投げる、極めるといった技はこちらの世界にはないらしく、チャロンに教えて欲しいとお願いされたので、亜季ちゃんにも一緒に教えてあげた。
合気道は女性にとって有用だよね。
特に剣などの武器の保持が普通に許されてるこの世界だと、護身の手段として知っておいて損はない。
でもチャロンがこれ以上強くなったら誰もかなわないんじゃなかろうか??
そんな感じで調子よく3人で訓練していると、見知らぬちょっと大人の騎士?が声をかけてきた。
なんかこのパターン前もなかったっけ?
「失礼しますよ。そちらの召喚勇者殿は格闘のスキルをお持ちなのか?
ちなみに私は騎士団第2中隊第2小隊長のハイネケというものです。」
やっぱりこのパターンは前にも絶対にあったよね?
「初めまして。ハイネケ小隊長殿。私はタクと申します。
残念ながら私はただの「お手伝い」ですよ。
自分の護身くらいはできるようになろうと、こちらのチャロン先生に指導を仰いでいたのですよ。」
これはまた騎士に絡まれるパターンですか?
「いえいえ、何をおっしゃいますか?
少し見せていただきましたが、なかなかの身のこなしでしたぞ。
それに何やら見たことのない体術の訓練もなされていたように見受けられましたが?」
「そんなことはないですよ。
単に基本動作を演練していただけですよ。」
と、しらを切る。
本当に元の世界の武術の基本動作の演練をしていただけだからね。
決してウソではない。
「ふむ。あくまでも隠されるのですかな?
見る限りではただの「お手伝い」ではなさそうでしたが。
もしよろしければ我々も訓練に協力しますよ。
そこのメイドだけでは訓練相手が足りないでしょうからな。
ちょうど、うちの騎士達も勇者様方との手合わせを楽しみにしておりますので。」
と、ハイネケ小隊長はこ狡い半笑いを浮かべながら後ろを見た。
ふと向こうを見ると、格闘戦士ボーイが大の字になって伸びていた・・・。
どうやら彼も「かわいがり」を受けたようだ。
またこのパターンかよ!
格闘戦士ボーイ!お前もか!
てゆうか、君は総合格闘技のジムに入ってなかったっけ??
どうやら同じ騎士団の剣士が僕に釘をさされたのを聞いてリベンジにきたのかな?
剣ではやられたが、格闘ならなんとかなると思ったのだろう。
ここはまた一本釘をさしておくか。
「なるほど、それでは私も一つお手合わせをしていただけますでしょうか?
程よい実力の騎士様と格闘の模擬戦でもさせていただければありがたいです。」
「それではうちの”新入り”騎士にお相手させましょう。
先ほど別の勇者様のお相手をしましたが、どうやらまだまだ元気に溢れているようですので大丈夫ですよ。」
と言いながら、若い大柄の騎士を手招きした。
大柄の騎士は肩で風を切りながらやってくると、
「次はこちらの勇者様がお相手ですか?
さっきの勇者様と違って格闘戦士っぽくないですが大丈夫ですかな?
まあ私は誰が相手でも一向にかまいませんが。」
と上から目線でニヤついてくる。
どこまでも同じパターンだな!
この城の騎士団はこんな奴ばかりなのだろうか?
「模擬戦のルールを教えていただけますか?」
「うむ、打撃、組技で戦う。
頭付き、ひじ及びひざを使った攻撃は禁止だ。危険だからな。
あと、当然ながら目、喉、急所への攻撃も禁止だ。
もし禁止行為をした場合は反則負けだ。
相手がダウンするかタップして降参の意思を示せば勝ちとなる。
ちなみに魔法による身体強化は使用禁止だ。
純粋な実力のみで勝負だ。」
「わかりました。
では模擬戦用の防具をお借りしてもよろしいですか?」
「もちろんだとも。
そこにあるものを使ってくれてかまわない。」
とハイネケ小隊長は訓練場の壁にかかった防具を指さす。
革製のヘッドギア、ファウルカップ、そして指が出るグローブらしきものがいくつもぶら下がっていた。
元の世界の防具とあまり変わらない形状だけど、他の人が使ったやつはいやだな~。
剣道の防具も人の使ったやつはなんとなく嫌だもんね。
たとえ乾かしてあっても。
僕は一番程度のよさそうな防具を手に取ると、こっそりと「汚れ除去」の魔法をかけて綺麗にしてから防具を着用した。
防具とは名ばかりで結構薄いな。
中綿があまり入ってないぞ?
これは一発くらったら相当なダメージだ。
きっと格闘戦士ボーイはまともに打ち合ってやられてしまったに違いない。
見るからに体重差があるしね。
ちょっと相手のステータスも確認しておくか。
対戦相手の情報収集は重要である。
僕は防具の着用具合を確認するふりをしながら、こっそりと対戦相手に「目利き」と呟く。
すると、
・騎士 名前:マックス
レベル:2
スキル:格闘戦士(初級)
格闘スタイル:ゴリゴリの喧嘩殺方
得意技:体重まかせのぶちかまし。
性格:ドS。女性好き。
その他:同じ騎士団のマッドの弟
うん。ただの体格ごり押しスタイルなのはよくわかった。
てゆうか、こいつは前に剣術で釘をさした騎士の弟だったのか。
兄弟そろって同じ性格と態度とは・・・。
ここの騎士団の選考基準を疑うな。
きっと貴族のコネ入団枠があるにちがいない。
「準備はいいですよ。ハイネケ小隊長殿。」
「うむ。ではこちらの模擬戦エリアに参られよ。」
僕と騎士マックスは訓練場に引かれた直径10m程度の円形の白線の中に案内される。
「この円の中で戦うこと。
故意に円外にはみ出した場合は逃げ出したものとして負けとする。
いいかな?」
「はわかりました。」
「了解ですよ。小隊長殿。」
ふと回りを見渡すと、またメイドさん達が黄色い声で「夜の勇者様がんばってー!」と叫んでいる。
どうやらこの弟のほうもメイドさんに嫌われているようだ。
きっといやらしい目付きでメイドさんを舐めるように見ているにちがいない。
てゆうか、「夜の勇者様」って何だ?
僕のこと?
いったいどんなふうに認識されているんだ??
チャロンと亜季ちゃんも飛び上がって応援している。
チャロン、あまり飛び跳ねると巫女服のショート袴の中身が見えてしまうぞ。
まあ、見えても大丈夫なように黒タイツにしてあるけど。
「試合前に女を気にするとは大した余裕ですな勇者様。
まあ、さっきの若い勇者様と同じように料理してあげますよ。」
と、騎士マックスが煽ってくる。
「あいにく僕は食材じゃないんでね。遠慮しておくよ。
まあ、僕は厨房で料理もお手伝いしてるから、料理は君より得意だと思うよ。
軽くあぶってあげるから遠慮なくかかってきたまえ。
でも、君の贅肉は脂がギトギトしてそうだから全く食べる気にはなれないね。
模擬戦の後で森の魔物にでもプレゼントしてあげよう。」
と煽り返しておく。
この手のタイプは煽り耐性が低いから、試合前に軽く煽っておくだけで冷静さを失うだろう。
うん、既に顔が真っ赤で鼻息が荒くなってるしね。
煽り作戦は成功のようだ。
「両者とも準備はよいか? では試合はじめ!」
と、ハイネケ小隊長が試合開始の合図をかける。
合図と同時に騎士マックスがまさに「うがー!」と叫びながら突っ込んでくる。
どうやらショルダータックルで吹っ飛ばすつもりのようだ。
いきなりの体重ごり押しアタックである。
格闘の技もへったくれもあったもんじゃない。
ここはとりあえず、一度転がしてさらに煽ってやるか。
僕は騎士マックスの動きに合わせて一歩斜め右前に踏み出して深くしゃがみこむと、斜め横から左腕と左肩で騎士マックスの膝を抱え込むようにタックルしつつ、右腕で騎士マックスの両足首を抱え込んで手前に引く。
うん、ラグビー教室で習った低いタックルの応用だね。
相手の視界から消えるように深く低く当たると効果的である。
突然両足の動きを止めるように刈り取られた騎士マックスは上半身だけが自分の勢いの慣性で前方に投げ出され、顔から地面に激突した。
どうやら両手を抱え込むようにショルダータックルをしてきた途中だったので、手で受け身が取れなかったらしい。
うん、真っ赤だった顔が鼻血で更に真っ赤である。
しかも予想外の攻撃によるダメージで激昂しているぞ。
煽り作戦第2段はどうやら成功のようである。
「うがー!ギッタンギッタンにしてやるー!」
と言いながら、今度は両手を出して掴みかかってくる。
まるで子供の喧嘩だな。
僕は突っ込んでくる騎士マックスの左手首を掴んで引き寄せると同時に右手で騎士マックスの襟元を掴み、騎士マックスの懐の中でくるんと向きを変えると払い腰の要領で騎士マックスを投げとばす。
騎士マックスは受け身も取らずに背中から地面に叩きつけられて「うげー!」と汚い声をあげている。
見た目も態度も声も悪いやつだな。
僕は掴んでいた騎士マックスの左腕を持ち上げて、そのまま腕ひしぎ十字固めでがっちり極めてやる。
すると、
「あだだだだだー!!」
と、更に汚い声をあげながら右手でタップしてきた。
だけど、審判の止めの合図がかからないのでさらに固め続けるとさらに「ヒーヒー!」と汚い声をあげ続けている。
まったく耳障りだな。
「審判、相手がタップしてますけど、もう僕の勝ちでよろしいですか?
このままだと相手の腕が痛んじゃいますよ?」
と、審判のハイネケ小隊長に声をかける。
「う、うむ。それまで! 勝者、勇者タク!」
と、とっても嫌そうに僕の勝ちを宣言した。
よほど、僕に負けてほしかったらしい。
これはきっと騎士団内で以前の剣術の模擬戦の話が広がっていて、第2中隊なら楽勝で勝ってやりますよ、的な話になってたんだろうね。
騎士団内での勢力争いに僕を利用しようとしたに違いない。
まあ、目論見は見事に外れたわけだが。
「では、これにて失礼します。
ハイネケ小隊長、騎士マックス殿、お手合わせありがとうございました。」
と、お礼を述べて、白線の円の中から出た。
後ろを振り返るとメイドさん達とチャロン達がヤンヤヤンヤと叫んでいる。
「キャー!、夜の勇者様カッコイイ!」
「夜の勇者様の寝技上手!」
「私にも寝技を極めてください!ベッドで!」
ちょっと、イベントの方向性が違うような気がするが・・。
下手したら僕も吹っ飛ばされていたかもしれないんですけど。
チャロン達の近くに戻る途中で、メイドさん達には丁寧に応援のお礼を述べておいた。
彼女達を敵に回すと城内で生活して行けないかもしれないからね(汗)
メイドさん達からは模擬戦の勝利についての祝福の言葉をたくさんいただき、また、騎士マッドと騎士マックスの兄弟の悪評について延々と聞かされた。
あの兄弟はよほどメイドさん達への態度が悪かったらしい。
ようやくチャロンと亜季ちゃんの元に戻れたので、
「チャロン、亜季ちゃん、応援ありがとう。
なんとか勝てたよ。」
とお礼を言っておく。
女子が応援してくれると頑張れるよね。
「タクさん、おつかれさまでした。
すごい投げ技と間接技でしたね。
見事な勝利でしたよ!」
「タク先輩、おつかれさまでした。
相変わらず目立ってますね。
先ほどのメイドさん達が、また更に「夜の勇者様」の噂を広めてくれますよ。
よかったですね。」
と祝福の言葉をくれる。
亜季ちゃんのは祝福というよりかは若干皮肉が入っていたが・・。
もしかして夜に防音魔法をかけ忘れていた件をまだ根に持っているのだろうか?
怖くて聞けないけど・・。
「まあ、これでもう騎士団が絡んでくることはないだろう。
さすがに3回連続で負けると騎士団としても体裁が悪いだろうからね。」
「そうですね。あの人達は面子が全てですから。
なので、召喚されたばかりの勇者様に勝って悦に入ろうとするんですよ。
大の大人のする事とは思えませんが・・。」
とチャロンはヤレヤレといった感じで教えてくれた。
結構面倒な人達なんだね。
「困ったもんだね。
それはそうと、さっきまであのへんでグロッキーになってた格闘戦士ボーイがいつの間にかいなくなってるけど、もう回復したのかな?」
「ああ、あのバカは担架に乗せられて騎士団の人達に治療院へ運ばれて行きましたよ。
バカのくせにちょっといいスキルをもらったからって調子に乗ってるからやられちゃうんですよ。
どうせさっきの騎士に煽られて、何も考えずに突っ掛かっていって返り討ちにあったんですよ。」
と、亜季ちゃんは辛辣に評価する。
亜季ちゃんって同級生男子に厳しいよね?
もしかして男嫌い??
「治療院?そんなのが城内にあるの?」
「はい。城内で働くスタッフさん達の怪我や病気を治してくれるんですよ。
まあ、治癒魔法の訓練を兼ねてるんですけどね。
治癒魔法はスキルがあっても使いこなせるようになるには数年間の修行が必要なので、成人後は国や民間の治療院とか教会なんかで一人前になるまで修行するのが普通ですね。
一人前になってからも最低3年間は修行した施設で働かないといけないんですよ。
まあ、いわゆるお礼奉公ですね。
それが終わってようやく一人前の治癒士として独立できるんです。」
「へー、治癒士さんも大変なんだね。
こっちの世界にもお礼奉公っていう概念があるんだね。
じゃあ、さっきの格闘戦士ボーイも治癒士さんの魔法の練習台として頑張っているわけだ。」
「私達と一緒に召喚されてきた女子達も治療院で修行してますよ。
夕食までちょっと時間があるからちょっと覗いていきますか?」
と亜季ちゃんが教えてくれる。
「いいね!治癒魔法もちょっと見てみたかったんだ。
案内してくれるかい?亜季ちゃんも一緒にどう?」
「はい、わかりました!案内しますね。」
「あのバカには興味ないけど、女子達が何をやってるのかは興味があるので一緒にいきます。」
と、2人からOKが出たので治療院に行くことにした。
人生で初めて治癒魔法と遭遇できるのか。
すごく楽しみだね。
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