二人の行方
第九話
明るい陽の中で
美佳を抱きしめると、彼女のからだは
どこか切なく、震えているようだった。
思わず、手を繋ぎながら会えなかった
時間を 埋めるかのように激しく
愛しあった
なんども、なんども
肉体も心も共にひとつになり
おたがいの温もりのなかで落ちていた。
ただ、どんなに愛し合っていても
愛しているとは言わなかった。
それが暗黙の私たちの約束になっていた。
禁じられた事をしているせめてもの
償いだったのかも知れない。
二人の心を繋ぎとめているのは
同じ罪を背負っていることなのだろうか…
二人は顔を寄せながら目を綴じていた
美佳は私の腕の中で静かな寝息を洩らしていた
どれぐらいの時が経っていたであろう
現実に引き戻される
「美佳、そろそろいかなきゃ」
(わたしの腕の中で、もぞもぞと
動き始めて、服をきていた)
「恥ずかしいからみないでね」て
「お店まで送っていくからね」
「ありがとう、助かる
バスだともう間に合わないゃ」
(美佳は着替えて仕事モードになった)
「先に車にいって待っているね」
「はい、急いでいきます」
(美佳は小走りで来た)
「お待たせ、ごめんね」
(乗り込むと同時に車をだした)
「岡本駅の方だね」
「うん、お店までは大変だから、山手幹線で
下ろしてくれたらいいよ」
「停めてくれたらそこから歩くから」
(少しだけ歩かないといけないが
店までだと人目につくだろうから)
「いいよ」って
(阪急岡本駅近くの山手幹線
路上駐車でいっぱいだったので 少し手前にある
交番の山側に私は車を停めた)
(震災のあとしばらくして交番は移動した)
「ここでも大丈夫?」
「ぜんぜん、大丈夫」
「ごめん、急ぐからいくね、
パパありがとう」
(といって車をでていった)
お店に向かう美佳の背を車から
私は目で追っていた。
「女性だけど、なんかカッコイイ姿」
(歩き方が綺麗な女性はいいなって)
どこで曲がるのかなって思っていたら
振り向いて、こっちに笑って手を振ってくれた
思わず、窓から手をだして私も手をふった
そして曲がってお店の方へと消えていった。
無事、間に合ったかどうかも気になり
家での余韻もあり、車をとめながら
しばらく前を見ていた。
(戻ってくるとは思わないが、
まだ目の前には手を振る美佳がいるようだった)
しばらくして…時計をみて
電話BOXにいく
お店をオープンして少し余裕ができると
美佳からベルが入ると思うから、
すぐ返せるように電話BOXにいた。
もうお店がOPENしたかなと思ったとき
思ったとおりベルが鳴った 。
*2*2
アリガトウパパ
*2*2
トケイシテネ
美佳に返信するために、テレホンカードを
入れてメッセージを返そうと
*2*2とプッシュすると
また、ベルが鳴った
画面には
『114106』
それを見てプッシュをやめ
受話器を置いた…なぜか涙が出てきた
美佳の腕時計を握りしめていた
ぎゅっと、つよく、つよく
抱きしめるように握っていた
そしてもう一度受話器をあげて、電話のボタンを
おして 、私も同じようにおくった
『114106』
これぐらいは許して欲しいと願った
言葉では言えない、けど……言葉よりも重い数字
目の前にいる美佳に伝えたい言葉だけど
叶わない夢
もう一度送り
そしてBOXを出て車にもどった。
ゆっくりと車をだし、Uターンして
山手幹線をそのまま西に走らせた。
六甲山をのぼり、信号待ちで
美佳から借りたCDを入れた。
朝早くは晴れていたのに
外はいつの間にか、雨になっていた。
美佳の好きなアルバム
何曲目かにかかった
『もう少し あと少し••』は
切なかった、まるで二人のことのように
美佳とわたしは曲のように
『出逢う時が遅すぎただけ』
なのかもしれない
二人の行方はみつかるのだろうか?
これから美佳と真はどこに行くのか
たくさんの悲しみと苦しみを背負いながらも
一緒に居られるのか?嵐が来る事は覚悟していたかも
しれないが、大きな震災が来る事は知る由もなかった。
それによって二人の運命が•••
美佳と真にメッセージ、感想を頂ければ幸いです。