第10話 いらないかも
ドラゴンと言えば、物語なんかじゃ、引っ張りだこの大御所じゃねぇか。
本物が見れるのか?
だけど、町の人たちの雰囲気からして、見世物じゃあなさそうだな……。
「って、おいアミア! どこ行くんだ! そっちは西だぞ!」
「わかってる! ねぇタクミ、忘れた? 私も、冒険者なんだよ?」
こいつ……。
「馬鹿言うな。この町には、腕っぷしたつゴロツキもたくさん居る! そいつらに任せとけばいい! お前は死ぬな!」
「ヤダよ! 私はいずれ魔王を倒すんだから! ドラゴンなんかに負けない」
「あ!」
俺の視界は、一瞬、真っ暗になった。
とてつもなく強い光を直視したからだ。
今のが、ドラゴンの炎なのか?
ということは、もうそこまで来てるのか?
くっそ……逃げなきゃいけないのにッ!
震えが止まらねぇ……。
「アミア! 早くこっちに!」
どぉぉぉぉぉん!!
な、なんだ……今の、ものすごい音は……。まさか、
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 西門が突破されました! 冒険者、およびハンターの皆様は、西商店街に集まってください!』
西門が、突破?
「はぁ……はぁ……行かなきゃ」
「なんで、お前が行くんだよ! 腕っぷしがたつ奴なんて、この町にいくらでも
「あのね。この町は、始まりの町って呼ばれてるんだ。だから、ドラゴン倒せる人なんて一人もいないの……」
そ、そんな……。
「でも、みんなで戦えば、もしかしたらって思わない?」
アミアは、もう止まらない……。
でも、お前がいなくなったら俺は……
「また、一人ぼっちなんだよぉぉぉッ!!!」
あ、熱い……。
なんなんだ、ココ。
死体は見えないが、焼き尽くされただけかもしれないよな。
あぁ、やべぇ。
アミアも明らかに疲れてきてるよな……まだドラゴンすら拝めてないんだぞ。
今からでも引き返せば……。
「「「うぉぉぉぉぉおおおッ!!!!」」」
なんだ⁉ 男たちの叫び声?
もう目と鼻の先か? 一体本物はどんないカッコいいのかね……
「はぁ……はぁ……なんだこりゃ。まったく歯が立ってねぇじゃん」
五体満足のやつなんて、数えるくらいしか残ってねぇじゃん……。
死体も、あれはただの炭だ……。
「なぁアミア。本当に、戦うのか? あんな怪物と」
「はぁ、はぁ。あ、当たり前だよ……ごほっ」
暑さで喉がやられたのか、脱水症状なのか……俺も、そろそろ限界だ……。
「また……」
また一人、焼かれて死んだ……。
こんなの、どうやって倒すんだよ。
倒せるのは……きっと選ばれしものだけ……。
選ばれし……者。
「あ、俺じゃん」
そうだよ、俺には『勝利の子』があるじゃないか!
少し癪だが……これでドラゴンを倒せば……。
いや、待てよ。
ここでドラゴンなんて倒したら……。
俺はまた別人になっちまうんじゃないのか?
そしたら、アミアは、
俺のことを、忘れちまうのか?
そんなの、いやだ。でも、俺しか倒せない……。
「ど、どうしたら……いいんだよ」
「ふっふっ! よし! 行ってくる!」
え。
「あ、待って!」
「な、なんで? せめてカッコつけさせてよ。私、そんなにカッコ悪い?」
いや、君はかっこいいよ……カッコ悪いのは、むしろ俺の方だ……。
もう、誰にも忘れてほしくないんだ……。
「あ、あの!」
「??」
子供? なんでまだこんなところに……。
「き、君! 危ないよ! すぐに避難して!」
「いやです! ぼ、僕も冒険者なんです! お二人こそお逃げください!」
この子、もしかして、前に俺を火の玉で吹っ飛ばした子か?
あの火の玉の威力なら……もしかして。
「な、なぁ君! 頼む! あのドラゴンを倒してくれ!」
この際、年下だろうと関係ねぇ……土下座でもなんでもしてやる!
頼む、少年! 俺の弱さを……許してくれ……!
「……はい! 任せてください!」
「はぁ……あ、ありがとう! ありがとう!」
少年は腰の鞘にしまわれた剣を引き抜き、ドラゴンめがけて突撃。
そうしながら、魔法を唱えた。
「【火属性:魔法】『愚火球』ッ!!」
ぐぉぉぉぉぉぉっ!!
火の玉は、いとも簡単にかき消され、少年は大きな翼で打たれた。
彼の両足がそれぞれ、俺とアミアの間を通り抜けていった。
「しんだ……俺のせいだ……俺のせいで」
また、誰かが。
「大丈夫だよ。タクミ」
何が大丈夫なんだよ……もう、どうせ、お前も死ぬんだろ?
「適当なこと、言うなよ……」
「適当じゃないよ。私たちのこと、きっと女神様が救ってくださるもん。だから、大丈夫」
女神様……? 女神様か……。
「ははは、そんなわけ無ぇだろ……」
いつ助けてくれたよ。神様がいつ、人間を……。
「アミア。ちょっとだけ待ってて」
「え? タクミ? タクミ?!」
ホント……なんでこんな役回りなのかね……俺は……。
「でも、もう不幸でもいいや」
そう思えるくらいに女神が嫌いだし、アミアが好きなんだな、俺は。
ぐぉぉぉぉぉッ!!
「死ねぇぇぇえッ!! ドラゴぉぉぉンっ!!」
【能力】『勝利の子』発動
町に広がった炎は、ドラゴンの血の雨によって鎮火された。
周辺の野原と、多くの初心者冒険者に被害は出た。
幸い、町への大打撃とまでは至らず、復興もわずか数か月で片が付いた。
その功績の立役者は、スズキ・タクミという無名の青年であったと報道された。
そう、されてしまった。
ドラゴンの死体の上で膝をついた俺に、アミアは駆け寄り、俺のことを抱きしめ、賞賛してくれた。
「すごいよ! タクミ! ありがとう!」
俺は泣きじゃくった。ただ、寂しかったから。
「さよなら……アミア……」




